ドラゴン
結論から言うと、ドラゴンはとてもいい人(?)だった。
寝床まで運ぶときも、私が傷つかないように爪を引っ込め、丁寧に扱ってくれたし、寝床についた後も、不器用ながら甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
…運ぶときに、落とされそうになったり、寝ぼけたドラゴンに押しつぶされそうになったりと、事件はあったが、拾われてよかったと思う。
「レイ、何を考えているのだ?」
ちなみに、ドラゴンには子供のようにかわいがってもらっており、名前を聞かれたときに玲とこたえたため、レイと呼ばれている。
「ウルスに拾われてよかったなと思って。」
ドラゴンの本名は長すぎて忘れてしまったが、ウルスなんとかだったのでウルスと呼んでいる。
「ははは。貴重な仲間をみすみす死なせるわけにはいかないからな。こんなに懐いてくれるとは思わなかったが。」
そういって朗らかに笑うと見える牙は、昔は恐ろしかったが、今は全くそう思わなくなった。
彼は私のことをかわいがってくれるのと同じぐらい私も彼のことが好きなのかもしれない。
家族的な意味で。
「ウルスって父親みたい。」
思っていたことが口に出てしまった。どう反応されるか心配で、後ろを見たが、気に障ったようではないようだ。
「父親か。なかなかいい響きだな。レイがいいならそう呼んでくれてもかまわんぞ。」
私の意思次第といっているが、目からはありありとそう呼んでほしいと伝わってくる。
ウルスは背筋を伸ばすと、首を最大まで曲げないと、見えないぐらい大きいが、私に気を遣って常に、低い姿勢でいてくれている。
「ウルスがそう呼んでほしいなら呼んでもいいけど。どう、お父さん?」
どう呼んでいいか迷ったが、かしこまった感じもやなのでお父さんにすることにした。
ウルスは私の言葉を聞くと、考えるように目を瞬かせた。
「……やはり、ウルスでいい。誰にも名前を呼ばれなかったら名前を忘れてしまいそうだ。」
私が来るまで、独りで生きてきたらしいから、今さらそんなことはないと思うが、そこは聞かないことにしておく。
「そっか。じゃあ、ウルスにとって私ってどんな存在?」
そう聞くと、彼は困ったような顔になった。
「どんな存在?我にとってレイはレイでしかないのだが。……強いていうなら娘か。」
やはり、ウルスは私のお父さんだ。
「【お父さん】は娘を外に出してはくれないの?」
思い切って聞いてみた。
実はこの寝床である洞穴に来てから、一回も外に出ていない。
この洞穴は縦長で、出入口は遙か上にある穴しかないので、ウルスに乗せてもらわないと出ることが出来ないのだ。
しかし、その頼みのウルスは外に出るのを許してくれない。
いくら、理由があるとしても、ずっと洞穴にいるのはつまらないのに。
「グルルル、外は危険だ。お前にはまだ早い。」
うなり声は強い感情の表れ。
今はこれ以上、聞かない方がいいかもしれない。
……外に出るのは当分先になりそうだ。