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魔王革命譚  作者: 朧月
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転生

私は田宮玲。昔から人助けが好きだった。人を助けた後の感謝の言葉は気持ちがいいし、喜んでいる姿を見ると心が温まる。


だが、昔はもっと不純な動機だった。実は子供の頃、異世界転生ものにはまって、自分も異世界転生をしたいと思った。


何かいいことをしてポイントを貯めれば、死後転生できると考え、そのときからよいことをすることにしたのだ。

大きくなるにつれてその夢は消えたが、よいことをした後の達成感に魅了され、人助けが日課となったがそれは重要なポイントではない。


重要なのは最初は、異世界転生をするためによいことをし始めたこと。それが私の非日常な生活のきっかけだった。


「回想してないで早く、ダーツを投げてよ。」


隣のうきうきした表情で的を見ている生意気な子供をにらみつける。こいつこそ私の穏やかな日常を壊した張本人である。


あの日、日常が終わった日の朝は、至って普通だった。いつものように母の朝食作りを手伝い、学校に向かう途中で会ったおばあさんの手助けとして荷物を持つ。

その後、学校で授業を受け、おばあさんの手伝いをし、家に向かう。そこまではいつも通りだった。


しかし、家の近くの坂を途中まで登ったところで風で倒れた自転車を起こした瞬間、私の穏やかな日常は終わった。

子供のらしき小さい自転車を持ち上げた瞬間、目の前が光り輝き、旋風が巻き起こり、何が何だかわからないうちに視界がブラックアウトしたのだった。


起きたところは子供の部屋だった。部屋を囲むように置かれている本棚には、様々な本がずらりと並び、日本語や英語、見たことがない文字もある。床には至る所にゲーム機やゲームのソフト、玩具がおいてあり、遊ぶのに困らなそうだ。

広さは普通の部屋より少し大きい感じで、富豪の愛息子部屋っぽい。


何故、こんなところにいるのか、理解不能だ。


突然、本棚の一部が光った。と同時にドアが現れ、子供が入ってくる。

この部屋の持ち主なのか、真っ白な髪に金色の目をした小学生ぐらいの子供だ。

それにしても手が込んでいる。最新のVR技術でも使っているのだろうか。


「VR技術なんて使ってないよ。本棚を消して、ドアをおいただけさ。人間のちんけな技術の一緒にしないでくれる?」


まるでわたしの考えを読んだように、不満そうな顔で訂正してきた。


「ように、じゃなくて読んでるの。神様だからね。」


更に訂正される。


というか、今、神様って言わなかった?


富豪の馬鹿息子じゃないの?


「誰が馬鹿息子だよ!全く、さっきは愛息子って思ったくせに。僕は君が考えているとおりの神様。この世界を支配しているのさ。」


確かにいわれてみれば神様に見えなくもない。じゃあこれは夢なのか。お告げをしに来た的な。


「お告げなんてしないし、夢でもないよ。あのさ、君、異世界に転生したいって願ったことない?」


あるけどいつの話?

…小学生ぐらいの時の黒歴史だ。小学生の時の将来の夢を書く作文に異世界で勇者になりたいと恥ずかしげもなく書いて、担任を困らせた覚えがある。


「でしょ。んでその時から、善事をおこないはじめたんだよね。それ見ててさ、面白かったから仲間と善事を決めた数に到達したら夢を叶えてやろうって決めたんだ。まさか本当に到達するとは思わなかったけどね。」


迷惑な約束をしたものだ。でも夢を叶えてくれるというのなら、今の夢を叶えてほしい。


「やだよ。お金に困らない生活をしたいだなんてつまらなすぎる。それにきみはもう元の世界に戻ることはできないしね。」


ん?今とんでもないことを言わなかった?元の世界に帰れないだって!?


「そうさ。ここには魂だけしかこれないからね。君は死んだも同然さ。」


恐ろしいことをさらりと言われた。……本当に迷惑な話だ。


「ま、そういうことで君は僕の言うことを聞くしかないわけ。まあ、悪いようにはしないからさ。」


悪いようにしかならないような気がするが。


「まぁそう言わずにさ。あそこの壁に掛かっているダーツの的見える?あれに君の未来の選択肢が書いてあるからさ。見てきてよ。」


理不尽に日常を壊した子供のいうことを聞くのはしゃくだがそれしかすることがないので、いわれた的の近くまでいく。


書いてあったのは、

・勇者 魔王を倒すのは君だ!

・魔王 魔物を支配せよ!

・聖女 みんなの憧憬を浴びよう!

・貴族 いい貴族になるも悪い貴族にな

    るもあなた次第!

・平民 ゆったりのんびり暮らそう!

・農民 汗水垂らして働くのもよし!


いいのがない。そもそキャッチコピーに魅力を感じない。


「魅力がないってひどいなぁ。一生懸命考えたのに。さて、見ればわかるとおり、これから君にはダーツを投げて、転生先を決めてもらうよ。ちなみに拒否権はないから。」


そして、矢を渡され、今に至る。


「回想は終わった?なら、早く投げちゃってよ。」


うきうきした様子から一転、ご機嫌斜めになってきた。さっさと投げないのがしゃくに障ったらしい。


ため息をつき、さっきみた選択肢を思い浮かべる。

…あのなかだったら貴族が妥当か。魔王は論外だし、勇者への憧れはもうない。聖女なんて柄じゃないし、農民はいやだ。平民も貴族とかに虐げられそうだ。


ダーツを握り直し、数十メートル離れている的に構える。


狙うは貴族。外したら冗談ではなく、これからの人生が終わってしまう。


「それじゃあチャンスは一回のみ。貴族じゃなくても変えられないからね。」


わかっていることをいちいち言ってくる子供を無視して、精神を統一する。

こういう勝負事は苦手だが、当てなくては。


「うーん、ちょっとつまんなくなってきたな。回しちゃおっと。」


投げようとした瞬間、あろうことか的が回り始めた。これでは貴族がどこに行ったかわからない。


本気でぶちのめしたくなってきた。


だが、相手は神様だ。ぶちのめすと大変なことになる。覚悟するしかないだろう。


二度目のため息をつき、先ほどより力を抜いて構え、矢を放る。

指を離れた矢はそのまままっすぐ飛んでいき、がつんっという音を立てて的に刺さった。


「さて、的を止めてっと。うーんとどれどれ?刺さっているのは・・・・・・」


貴族でありますように、と楽しそうに的を見に行く子供ではないどこかの神様に必死に祈る。


「おっなかなか面白いのが来たね。言っていいかな?」


反応からして貴族ではないのか?じらさなくていいから早く教えてもらいたい。


「いいの?じゃあ発表します。田宮玲、君は魔王に転生するよ!」


「はあっ!?」


思わず大声を出してしまったのは仕方がないだろう。それにしてもよりによって魔王とは。


「それじゃあ、簡単に転生先のことを紹介するね。転生先は、簡単に言うと、君が夢見た剣と魔法の世界。文明のレベルとしてはこの世界の中世ヨーロッパぐらいかな。まあ、魔法があるから、独自な発達は遂げているけど。んで、魔王は魔物を率いる存在。だからいろいろ便利な能力は持つことができるよ。んじゃあ、そろそろ転生を始めようか。」


質問したいことは山々だが、今、聞いても答えてくれなそうだ。


「よし、それじゃあ、いってらっしゃい!」


心構えをする暇もなく、ここに来たのと同じような現象が起こり、また視界がブラックアウトした。


薄れる意識の中で、私は生まれ育ったこの世界に別れを告げたのだった。

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