火曜日 Ⅱ
今日は週に1度の部活動の日。今の季節は文化祭の準備にかかりっきりだ。手芸部はバザーを開く。
下校時刻の5分前には作業を終えて帰り支度をしていると、
「みーわちゃん」
3年の高山沙也加先輩に声をかけられた。
「ねえ深和ちゃん。こないだの考えといてくれた?」
「あ、えっと……」
私はためらいながら口を開く。
「あの、すみません……私」
「やっぱり駄目?」
「……すみません」
沙也加先輩は少し笑った。私は先輩の顔を見ていられなくてうつむいた。
「謝んなくていいってばぁ」
沙也加先輩は手芸部の部長だ。文化部の3年生は文化祭が終わったら引退するのが原則で、今度は2年生から新しい部長を選ばないといけない。
1週間ぐらい前のこと。「ほかの部員にはまだ言ってないんだけど」と前置きして沙也加先輩は私に部長を任せたいと言った。
「でも、深和ちゃんじゃないとすると、誰が適任なのかな。2年生の中でそういう話しない?」
私は表情をほどいて首を傾げる。
「どうでしょう……萌香ちゃん、とか」
「萌香ちゃんかあー、忘れっぽいからなー。ちょっと心配なんだよね。その点、深和ちゃんなら安心して任せられるんだけど」
「……えっと」
「わーっ、ごめん。未練たらたらだね、私」
沙也加先輩は両手を顔の前で合わせた。
「ね、やっぱりもうちょっと考えてくれないかな?」
ほかの部員はほとんど帰ってしまった。誰にも助けは求められない。
「まだ時間はあるからもう1回だけ、じっくり考えてほしいな。もう少しだけ、ね?」
「……はい」
いくら考えても同じなのに。私は目立つ仕事はしたくない。例えそれが3学年合わせて20人にも満たない小規模な部活の部長でも。
私の存在がどこかで大事なものになるようなこと。
雑用や細々とした作業ならいい。どちらかというとそういうことは好き。でも、部長の責任を負うのは怖い。
私は沙也加先輩の視線から逃れるように部室を出た。