再び月曜日Ⅳ
「小笹さん」
ユウキくんが私を呼ぶ。
目の前にいるのは誰? 誰なの? 綾瀬くんは、どこ……?
「小笹さん!」
聞こえた大きな声に、びくっとする。そういえば……綾瀬くんがこんなに大きな声を出したの、聞いたことない。
「そんな魂抜けたみたいな顔、しないでよ。今、君の前にいるのは俺で、あいつじゃない」
ユウキくんの声が震えていた。彼の瞳は見たこともないほど悲しげだった。
「嫌な役回りって本当だ……」
何も言わない私を見て、ユウキくんはぎこちなく笑った。
「どこがチャンスだよ……」
それは別に私に言ったわけじゃなくて、ただの独り言だったんだと思う。
私は考えるより先に口を開いていた。
「誰だったの」
ユウキくんの表情が曇る。
「彼は、誰だったの……?」
ユウキくんはうつむいて、ぽつりと言う。
「未来の、俺」
「ミライ……の……」
「未来で君は消えるらしい」
え……?
瞬間、世界が止まってしまったような感覚に陥った。
「あいつは君の名前を忘れてた。小笹深和の顔も、声も、何も覚えてなかった。未来で小笹さんは消える。あいつは君を守るために……ただそれだけのためにいた」
私のことを覚えてなくて、でも私のことを守るために、私を消さないために……? そんな、それって……どういうこと。
綾瀬くんが守れなかった大事な人って……。
「綾瀬くん、喪に服してるって……言ってたの。それって私が……」
その先を続けることは怖くてできなかった。
ユウキくんが顔を上げて、
「小笹さん」
と呼ぶ。
彼は1度も私のことをそう呼ばなかった。
「小笹さん」
「な……に」
「俺はあいつじゃない。あいつも俺じゃない。同じ人間だけど、違う。俺は今日……生まれて初めて君と話した」
目の前の彼は紛れもなく本物の綾瀬結貴で、でも……ユウキくんはユウキくんで、綾瀬くんじゃない。
「小笹さんはきっと、俺のことを何も知らない。何も知らないけど、それでも俺のこと……嫌い、ですか」
わずかに震えているユウキくんの声。
私はゆっくりと首を横に振る。
「俺、普段はわりと口数少なくて、周りからはクールって思われてるけど、本当は全然そんなんじゃない。馬鹿がつくぐらい単純で思ったことすぐ顔に出るし、実際頭もそんなよくないし、その、とにかく……こんなんだけど、今の聞いて、嫌いになりました……か」
私は今度も首を振った。
「好きです、ずっと前から……その、小笹さんのこと」
ユウキくんの顔は見たこともないほど赤く火照っていた。
「俺、嘘とかつけないし、機転もきかないから……あー、もうなんて言っていいかわかんない。こういうときってどうするの? えっと、だから」
「………………」
「俺のことも好きになってほしい、です……」
片手を首筋に当てながら、ユウキくんはそう言ってうつむいてしまった。見ると、耳まで赤く染まっている。
私はずっと、誰にも愛されたくないって思ってた。何よりいちばん大切なのは、嫌われないこと。ただ嫌われることが怖くて。怖くて怖くて、嫌われないためならどんなことでもしようって。でも、そんな生活にも疲れてきて……。
誰かひとり。
私を愛してくれる人がいて。
誰かひとり。
こんな私でも、誰かひとりだけなら愛せるのかもしれない。
誰かひとり。
世界でたったひとりだけ。




