土曜日・日曜日
休日は家から出なかった。宿題をやって、図書館で借りた本を読んで。
ふと綾瀬くんはどうしてるかな、と考える。部活かな、それとも家にいるのかな。
綾瀬くんは今、何を考えてる?
私はあなたのことを考えてるよ。
次に会ったときは何を話そう。綾瀬くんが笑顔になるような楽しい話をしたいな。一緒に笑い合って、それで。前に泣いちゃったことは帳消しにならないかな。だってそんな思い出だけなんて嫌だから。
月曜日で、全てが終わり。約束の1週間。
だから最後の1日は大切にしたい。
本当のカップルだったら、休みの日にはどこかに遊びに行ったりするんだろうな。
水族館、とか。
透明な水槽の奥から水の動きが織り成すあの幻想的な光が好き。大好きな人と手を繋いで、水のアーチをくぐる。
もしも私の今の気持ちを正直に伝えるんだとしたら。
この休日の間に覚悟を決めなきゃ……。
ねえ、綾瀬くん。
制約が切れても、また一緒に。
言いたいけど、言えない。
最後に綾瀬くんが言っていた言葉を思い出す。
綾瀬くんは本物じゃない。
彼より幼い本物の“ユウキ”。
必死に演技をして。
彼はそうしなきゃいけなかった。
どうして?
彼は偽物? 考えたってわからない。わかんないよ。綾瀬くんは綾瀬くんだ。綾瀬くんが抱えているものはいったい何?
私はどうしたらいいんだろう? ううん、私は、私自身はどうしたい?
信じたい。綾瀬くんを信じたい。
でも、信じるって何を?
私はどうしたら彼の力になれるの?
考えても考えても、わからない。
ふと脳裏によみがえる彼の声。
『大切な人を守れなかったんだ、俺』
大切な……人。綾瀬くんの大切な人。
『俺、喪に服してるから付き合うとかそういうの、ちょっと。ごめんね』
困ったように言った彼。
胸がざわつく。どうしてだろう。こんなに胸が締め付けられて、苦しくて。
泣き出したくなるの……。
ねえ。
綾瀬くんは……綾瀬くんの心にいるその人は、今。
どこにいるの?




