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今日は雨だ

作者: 永野 真千佳

私は朝から鼻歌まじりに高校へ行く支度をしていた。頭の先から爪の先までじんわり力がみなぎっている。


居間に行くと新聞を開きながらテレビのニュースを見ている父の前に母が炊きたてのご飯を置こうとしていた。


「お味噌汁だけでも飲んで行きなさい」

母が今にでも家を飛び出しそうな私に言った。

私は別に急いでいない。ただ心はもう駅にあるだけだ。私は頷いて踊るように椅子に座った。




「いってきまーす」

お味噌汁を飲み、歯を磨き、薄く色づくリップを塗って私は家を今度は本当に飛び出した。


「雨だから傘持ってね」

母のそんな言葉を跳ね返してしまうように私はとっくに傘を広げていた。

雨なのだ。今日は制服が濡れたり、前髪が納得いかなくなったりする雨。


私は心の動くままに足を動かした。パシャパシャと足元で水の跳ねる音、パチパチと耳元で雨と傘がぶつかる音。すべてが私の心を躍らせる。



最寄駅が目に飛び込んでくる。私の足はそこで一旦止まった。じわり、傘を持つ手が熱くなる。

今日は___


一歩一歩数えるように駅に近づき傘をたたみ、駅の中へ入る。ぱらぱらと濡れた靴が床をたたく音がする。私もその音のひとつだ。

学校方面の電車は運がいいことに空いている。向かいのホームは乗れるのと不安になるくらい来る電車来る電車真っ黒だ。

私は改札を通り、階段を降り、空いているホームへ向かう。雨だからか、いつもより人が多い。

最後の一段を降りるとき、私は静かに雨の匂いをたくさん吸い込んだ。




いた。


雨の日だけ同じ電車を使う中学の時二年間好きだった人。高校がちがうから、もう会えないと泣きながらも告白はできなかった。

あれから新しい環境にいっぱいいっぱいで恋愛なんて忘れてた頃、雨がたくさん降る季節が来た。その時初めて知らない制服をきた彼を久しぶりに見た。制服のせいか大人っぽく見えて、私は朝から全てにイライラしておまけにお腹もペコペコだったのにその一瞬で、全部忘れた。


駅にぶつかる雨の音もどこかへ向かう濡れた靴の音も、雨の匂いも、なにもかも、私はすんなり受け入れることができた。

さすがに1日目は近くでちらちら見ることしかできなかったけど、2日目には小さく挨拶することができて、1日空いて3日目には雨の日はこの時間のこの電車に乗らなきゃいけないんだと話してくれた。


今日も紺色の傘を持って彼は立っている。私は相変わらず緊張しながら彼に近づく。


「あ、おはよう」


もう慣れたもので気づいた彼は挨拶をしてくれる。私も慌てて返す。




今日は雨だ。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  進学してから、同じ学校の人とあった記憶があります。 [一言]  縁があるのかなと思ってしまいます。
2016/04/29 11:42 退会済み
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