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刀剣工が叩き刻むは

刀剣工が叩き刻むは、愛の告白

作者: motto

へたれた主人公とまっすぐなヒロインの物語です。

読んでいただければ幸いです。


『ラクストォーバ王国魔法刀剣品評会』は魔法刀剣工、つまりは魔剣、妖刀作りを生業にする者達にとって普段から切磋琢磨し磨き抜いた技術を披露し、最高の栄誉を手にする事ができる場である。


同じ師に学ぶ、俺ことゴクマとアリスは、この度、その品評会に初出場ながら実力で最優秀賞を授与する事になった。


受賞式が始まり式事が進むにつれて思うのは、ここに至った経緯だ。


そして、


なぜ俺の目には青タンがあり、なぜ隣で顔を真っ赤にして俯いているのか語ろう。


始めてアリスと会ったのは俺が17でアリスは12の歳だった。

俺は当時、大きな挫折を感じていた。子供の頃より他人より恵まれた体格を持ち、自分で言うのはなんだが、黒髪の短髪で顔立ちも(いかめ)しく魔法の才もあった。まさに兵隊をやるのに不足なく、騎士の位すら望めるものと考えていた。

しかし評定の結果は戦いの才能は皆無(かいむ)というものであった。

意気揚々と行った先の徴兵所でそう烙印を押されたのだ。

既に故郷には一旗揚げてくると言い張って出てきた手前で帰るわけにもいかず、帰り道にたまたま目に入った刀剣工の工房に弟子入りを希望したのだ。

そして、ちょうど同じく師匠に弟子入りを希望していたアリスと居合わせる事になった。


当時のアリスは、今よりも高飛車で世間知らずであったように思う。もちろん今はその頃と比べ、成長して女らしい身体付きになったが、美しく光を散らばめたような金髪と蒼く力強い瞳は当時から変わらない。


その頃から俺とアリスは正反対だった。


俺は刀剣工なんて実は興味なく、メッキのやる気で適当に弟子入りした。


アリスは刀剣工にこの人ありと謳われた師匠に惚れ込み、ただ真摯に弟子入りを願ったのだった。


なぜか師匠は2人一緒にならと弟子入りを許した。

工房で与えられた仕事はみな、基礎で地味な作業ばかりで・・・当時、全くこの仕事を知らなかった俺にしては有難くもあるが、すぐに飽きてしまった。


そんな俺の欠片のやる気にかろうじて火をつけるのは5歳も下の少女の存在だ。

負け犬な俺にも多少のプライドはある。

小さな工房のただの弟子という社会の底辺もかくやの身分で、このうえ子どもに負けたとなれば、尚のこと惨めだ。

何としても負けてはいられなかった。


朝早くからの掃除?洗濯?

朝早く起きるのは面倒だから仕事終わった後にやった。


1人で自主勉強?

他の工房の弟子達をいいように言いくるめて勉強会を開いてもらった。


素材の目利き?

そんなん素材屋が一番知ってるだろと、暇していそうな素材屋見つけては一杯に誘って話を聞いた。


俺はあまり自分が苦労しない俺のやり方で・・・アリスは愚直に素直にコツコツと努力して上を目指した。


アリスは本当に愉しそうに努力していた。


そんな姿が眩しく見えて、自分が濁って見えて、悔しくてたまらなかった。


だからミスがあれば、口うるさく罵り、自分の成功は大いに自我自賛した。

アリスはアリスでそんな俺に怯まず、真正面から言い合うようになった。

俺は言い返す為に理論を学び、見せびらかす為に技術を磨いた。


正直に言おう、俺は相当に嫌な奴だったはずだ。


そして、自分自身こんな生活に嫌気がして、スランプに陥った。


俺はその日、工房に行かずに行きつけの酒場で朝から飲んだくれていた。


「ゴクマァ!!」 バキィッ・・・


殴られた。


「っ何しやがる!!」ゴキィッ・・・


酒が入り、ストレスも溜まっていて反射的な事だった。

アリスは身体強化魔法が十八番(おはこ)で工房では常に使用している。

あえて防御魔法を切っていたアリスの頬に俺の拳はモロに入っていた。


「・・・ふっ、全然効かないわ」


アリスは口角から血を流し拳で顔を歪めながらも美しく微笑んだ。


俺はそれに見惚(みと)れてしまった。


「ライバルに腑抜(ふぬ)けられてると調子が出ないのよ!」


ガキィッ・・・


二発目のアリスの強烈な拳が俺の意識を刈り取る前にそんな言葉を俺は確かに聴いた。


アリスは俺をライバルとして見てくれていた。その事が、俺はどうしようもなく嬉しかった。

この時、俺は確かにアリスに惚れたのだろう。

だが、刀剣工という仕事に真摯なアリスに僅かにでも応える為に、今まで以上に俺は努力し、仕事については引かなかった。


「ふふふ・・・変わったのぅ、ゴクマ」


この頃、師匠は実に(たの)しそうに俺にそう言った。

俺達の師匠・・・あのジジイは俺の本性なぞ会ったときから見抜いており、この対比を楽しんでいやがったんだ。そして俺の密かな恋心も気付きやがっていた。


ある日、俺を鍛冶屋と勘違いして結婚札(けっこんふ)を依頼してきた従姉妹の頼みを、師匠は受けるように俺に言った。


結婚札とはこの国で昔から続いている習慣で金属板に結婚する2人の普段使うことがない真名を鉄板に刻み、真名を交えて、二人の愛の証とするものである。決して切れない折れない、そういう願掛けもあり、普通は魔法刀剣工ではなく一般の鍛冶師に依頼するものだ。


流石にらしくもないものを作る手前、アリスに隠して作った。が、完成品を渡す際にトラブルが起きてしまう。


バキッ


「ぐわっ!?」


いつもの酒場で従姉妹に結婚札を渡したとき、急に後頭部を殴られて振り返るとアリスがいたのだ。


「何しやがるっ!?」

「・・・し、仕事サボって女と一杯なんていいご身分だね」

「いや、これは違う!ってか殴るか普通」

「せっかく師匠からの取っておきの話を持ってきたのにね、残念、自分で聴きなっ!」


そう言うとアリスは振り返らずに店を出て行ってしまった。

固まる俺に従姉妹は急いで後を追うように勧め、俺はアリスの後を追いかけ走った。

追いついたアリスはいつになく不機嫌に俺を見た。


「何よ、彼女さんはいいの?」

「は?彼女?・・・イヤイヤイヤ、あの子は違うぞ!」


思わぬ話の展開に俺は慌てて、それを否定する。


「プレゼント渡してたじゃん・・」

「プレゼント?いや、あれは、その・・・頼まれててな・・・」


ここまで秘密にしていた結婚札の事なぞ話せるか、それにしても・・・これはもしや妬いてるのか?まさかな・・・


「まーゴクマの恋愛なんて、私にはどーでもいいけど、これからの大きな仕事に差し支え無ければさ・・・」


淡い期待は俺の恋愛をどーでもいいと言って退けるアリスの言葉に少なからず傷つきもしたが、気になったことを聞き返した。


「へっ?大きな仕事ってなんだ?」

「師匠が今年の王国魔法刀剣品評会に私達で作った刀剣を出すようにってさ」

「へっ?」

「何よ?」

「マジかっマジかよ!あの品評会にかよっ!?俺らがか!?」


あのジジイの元で下積み生活、早五年・・・他の同じ頃に刀剣工の弟子入りした奴らは早い者で独立すらしている。

そんな俺達にいきなり、国内最高峰の『王国魔法刀剣工品評会』とは驚きを超えて、あのジジイに呆れもするが、これは良い機会だとも感じた。


1つ心の中で誓いを立てた。


職人として全力を出し、入賞した暁には、俺はアリスに告白するのだ!


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおやってやるぜえええ」


俺は腕を振り上げて叫んだ。


「フフフ、フフフフフフフフ、やってやるわ、やってやるわよぉ!」


アリスはアリスでやる気をたぎらせて叫ぶ。


ガシッ


「やるからには必ずトップよ!」

「ふん、当然だ!」


俺とアリスは手を握りあって誓った。








その日から寝る間も惜しんで品評会に出す魔法刀剣の案をお互いに出し合った。

いつもの通り意見はぶつかりあい、お互い妥協しない中、議論は三日三晩続き魔法刀剣作成は計画段階から行き詰まっていた。


(らち)があかねぇ!」

「それはこっちの台詞(せりふ)よ!」


お互いの意見が一致したのは、この事だけであった。

最高の剣を作り上げるのに妥協はしたくなかった。

少し頭を冷やすために俺は街に出た。


上手く行かない時は、上手くないことが続くものだ。街に出た俺は面倒な奴らに絡まれてしまった。


前述の通り、俺の交友関係は広いが、中には面倒な付き合いもある。この街一番の規模を有するベースト工房の連中だ。なにかに付けて中小工房をバカにするし、勉強会で集まっても習うべきこともない連中だ。


「悪いことは言わねぇからさ、オメェの腕なら今からでも俺達に頭下げれば、うちの師匠も許してくれるし、あんなしけた工房出よりゃ出世するぜ。」


なんで俺がお前達に頭下げて、しかもお前の師匠の許しを請わなけりゃならん。

しかも言っておくが、うちのジジイはあれでも有名で、ジジイが教えた弟子の弟子がお前らの師匠なんだが、分かってるのか?出世?お前らができんの?全く興味ないが。


「そうさ、お前ほどの逸材を遊ばせ、神聖な刀剣工の場に女なんかを入れてる工房なんてどうせ後なんかねぇよ」


はいきた。刀剣工でありがちな男尊女卑。

お前らの工房にも居た気もするが、俺はその女に同情を禁じえないね。こんな馬鹿どもと一緒に仕事しないと行けないない事にな。


「お前も、あんなお遊び気分の暴力娘と組んで迷惑してるだろ」


お遊び気分?

あのアリスがか?

何言ってくれてやがるこいつ?

馬鹿なの?

お前らにアリスの何がわかるんだ・・・

フツフツて血が頭に上るのを感じた。


「確かに・・・あいつは口悪いし手も早い」

「はっ、そうだろうともよ」

「だが魔法刀剣への情熱は誰よりも厚く、どこまでも真摯だ・・・俺と肩を並べてんだ。腕に至ってはお前らカスには一生届かない頂きにいるぜ」


ガスッ


「俺の(ほこ)りにケチを付けるな」


俺ははアリスを馬鹿にした男の鼻っぱしらを殴り飛ばしてやった。


「やりやがったな!!」

「やっちまえ!」

「おおっ!」


途端に俺を囲むように連中は動いた。

なんてこった、こいつら喧嘩慣れしてやがる。俺は強くない・・・だが愛する人の誇りを守るためなら戦えるんだ。


そう思っていた時もあったが、現実は甘くない。ボコボコにされつつある現状を変えたのはアリスの美しい飛び回し蹴りだった。


「おりゃああああっ!」

「ゲフォッ!?」


アリスはそこに居た誰よりも喧嘩慣れしていて強かった。


「憶えてやがれっ!」

「お前らこそ女に負けたと憶えておきな!」


負け惜しみにもしっかり言い返したアリスは早々に脱落した俺の近くに寄ってきた。


「ったく、ゴクマは体格は良いし、魔力はあるのに小熊並に喧嘩弱いんだから無茶しないでよ・・・」

「ふん、俺は魔法刀剣工だ・・・武威はいらん」


俺は倒れふしたまま、強がってみた。


「ったく・・・肩貸すから立ち上がって」

「ぐっ、いらねぇよ」


流石に好きな奴に体に触られて、平静でいられる自信は無かったが。アリスは俺に構わず支え起こした。


「・・・体はそうは言ってないよ、意地張ってないで歩きにくいから身体預けてよ」

「ふん・・・」


確かに意地を張れば余計に密着して気が気でなくなる。俺は諦めてドキドキしつつも身体をアリスに預けた。


「ゴクマ・・・」

「・・・なんだ」

「いいアイデアを思いついた。これならきっと私達の意見は対立しない」

「そうか・・・ありがとな」

「私こそ・・・・・・・・・・・・・・・・・・ありがとう」



コイツは・・・アリスはいつから聴いて居たんだ!?俺は今度こそ動揺した。


「うぉ、おっ、お、お前!!いつから居たんだぁ!」

「・・・割と最初から」


返答は、最悪であった。


「・・・」

「・・・」


俺は自分の顔が赤くなるのを感じ、まともにアリスを見ることができなかった。


翌日、気を取り直してアリスのアイデアを聴いた俺はそれを承認し作業は始まった。今年の品評会はあとひと月に迫っている、2人でアイデアを形にする為にさらにぶつかり合い、持てる技術を出し切り、心血を注ぎ、一振りの剣が完成したのである。





品評会当日


この場でもっとも上座に俺達の作成した剣が置かれた。


「封魔剣・・・刃を抜けば周囲全ての魔法効果を打ち消す魔剣とはな。魔剣を攻めでなく守りに特化させるとは、なかなか面白い剣を作りおったな」


会場に来たジジイは剣を見てそう評した。

俺達の魔剣は会場全ての魔剣を只の剣にしてしまったのだ、効果の反響は凄まじかった。おかげで刀身を出すのがかなわなくなったが、それもこの剣の凄さゆえなので誇らしくあった。


「ありがとよ、ジジイ、まぁアリスのアイデアがあってからこそなんだがな」

「ちなみに、ゴクマが袋叩きにあったの見てて思いついたので、ゴクマは体を私は頭を使って出したアイデアです。」

「ふぉ、ふぉ、ふぉ、2人が協力した結果じゃ、良いものを見せて貰ったよ。だがゴクマ・・・そのアイデアを出した喧嘩、先に手を出したのはお前らしいな。」


師匠の言葉に俺は苦い顔をしつつも正直に答える。きっと、俺らの受賞を知って奴らがこの間の件を師匠の耳に入れたんだろう。


「・・・ああ、だが俺は悪いとも思わねぇし後悔はしてねぇよ」

「だろうともよ、だからこそいい機会だ先方にはワシが頭を下げてこよう。同業者にしこりは残さんものだぞ」

「・・・俺も行くぜ」

「あの、わたしも行くよ」

「アリスは止めてやれ、あいつらの屁みたいなプライドを粉々に砕く」


ジジイには悪いが、これはやっとアリスが手に入れた大きな機会だ。俺はこの額を床にこすり付けても許しをこうつもりだ。だが俺のだけだアリスの謝罪は1ミリたりとも奴らにやる必要はない。


「ハッハッハっ、まぁ、アリスは待ってておくれ」


ジジイも俺の覚悟を感じたのか、アリスを留めてくれた。

展示場を離れて少し歩いた先で待っていたのは逆にアタマを下げて謝る奴らの師匠であった。


「ゴクマ殿、本当にすまなかった。君達の作品を見た。素晴らしい作品だ・・・それに比べあの者達は・・・根拠もない奢りを捨て、ただ刀剣を見ること、あの者達にはまた1から教え直す事にするよ。」


気の良さそうな奴らの師匠であったが、芯は非常に強い方と見受けられ、間違いは正してくれそうだ。奴らの更生もしっかりと約束してくれた。


「気にするほどでなかったであろう?」

「・・・ああ、だが面倒かけて、すんませんでした」

「カッカッカッ!あのゴクマからそんな酔狂な台詞が出るとは恋は人を変えるのぉ」

「っち・・・」


俺は師匠の言葉を否定できなかった。


「だが、もう少しわかり易く告白くらい出来なかったのかのぅ、アリスのやつ全くの無意識でお前の隣に真名を削り込んでいたぞ」

「ぐぅっ」


続いて出てきた痛恨の台詞は俺の胸をえぐった。


そう剣が完成した時、俺はアリスに告白しようとした。

だが、アリスは疲れ果てて寝ており、俺もどう告白したものか悩んだ。

そんな時に思い出したのは結婚札だ。


あれは愛し合う2人が愛を誓う為に、普段は使わず秘匿した真名を刻み交わすものだ。


そして目の前に名を刻み込むのを待つ剣がある。


俺は自分の真名を刻んだ。

しばらくして、アリスは起きると俺と同じく真名を刻み込んでくれた。


ゴクマ・タガサキ

イリス・ラクストォーバ


俺の想いが、通じた!


そう喜んだのも束の間でアリスの俺に対する態度は全く変わらず、真名を刻み込んだのに何も気づかないという鈍感さを披露し俺は密かに落ち込むのでいたのであった。


「仕方ないから、ワシが少し手引きをしてやったよ」

「は?」

「お前の従姉妹さんに手伝ってもらっての、今頃結婚札の事を説明して、アリスにお前の告白をそれとなく気づかせる手筈になっておるのじゃ」

「ジジイーーー!!」


面白そうに企みごとを話す師匠を置いて、俺はアリスの元に走った。


「ななななな//////」


戻って早々、アリスが俺を見て変な声を出した。


「どうした?アリス」


「ご、ご、ご、ごくま!?」


チラリとこの状況を作る片棒を担いだ従姉妹を見ると、イタズラ顔で小さく頷いた。

どうやら、覚悟を決めなければならないらしい。


「///・・・やっと気づきやがったか」


俺にはそれ精一杯であった。


「/////」


「ぬにゃああああああ!」


アリスは奇声と共に鋭い拳を俺の顔に叩き込んだのであった。


長くなったが、これが俺が目に青タンを作り、アリスが横で顔を真っ赤に染めて俯いている理由だ。






そして、品評会の受賞式は進んでいく。

俺とアリスは心ここにあらずの状態で、これからこの国の王様よりお言葉を頂き、受賞トロフィーと賞品をもらう予定となっている。


正直、王様なんぞどうでも良くなってきた。

俺は、ただ、アリスがどう思っているのか、どんな返事が返ってくるか、二人の関係がこれからどうなるのか不安で一杯になっていた。


「続いて最優秀賞作品制作者、魔法刀剣工ゴクマ、同じくアリス御前に・・・」


声をかけられた俺たちは、控えていた席を立つと王様の前に片膝を付いてこうべを垂れた。


おもてを挙げよ・・・。」


王様は俺をそして、アリスをまじまじと見た。


「・・・・ずいぶんと歳若い者が今年の最優秀賞を獲得したな。そして刀剣工に女子おなごとはな。共作との事だが女子に出来るものなのか?」

「っ・・・」

「お言葉ですが陛下。このアリスの腕は俺に比べ遜色なく、一部では俺を凌駕する。魔法刀剣に対しての想いは誰よりも強く、この国、いや世界で一番の魔法刀剣工に必ず成る傑物だ。女やら若いやらは視野狭窄ってもんだぜ!」


王様の問いかけに反応するアリスを手で制すと、無礼は承知で俺は思った事を言葉にした。


「ほぉ、王に向かって視野狭窄とは言うのう・・・そして世界一とは大きく出たな。なぜそう言える自信があるのだ。」

「ふっ、俺が一緒に世界一を目指すからだ。競い合い頂点のみを目指す!俺とアリスならば必ずその頂を制することができる。それを阻もうとするならどんな偉かろう、怖かろう相手にだって、その間違った考えを打ち砕き、正すことができるんだっ!」


俺が言い放った言葉に王様は大きく眼を見開いた。


「くっはっははははははは!!青い、青いなぁ・・・・だがその啖呵、しっかりと受け止めたぞ。世界をとってみるがいい・・・・。イリス、お前もその道を共に励むがよい」

「はっ・・・・ありがとう・・・ございます。」


アリスは俺の横で大粒の涙を流して王様に答えていた。


「とうさま・・・・・」






「は?」



いまなんと言いましたか。

俺はギギギ・・・とアリスの方を向いた。

そんな俺をアリスはじと目で見た。


「なんでゴクマが今さら驚くんだよ!私の真名知っているだろう?」

「え・・・・・・・・あぁッ!?」


アリスの真名は「イリス・ラクストォーバ」

ラクストォーバって俺たちの国の名前じゃねーか!名に国の名が入るのは王族の証であった。


「私は末の姫で、ある程度自由が利くのもあるし、父様について小さな頃から我が国の主要産業たる工芸品に触れる事も多かった。弟子入りについても王家に刀剣を納めた師匠を知った事が縁なんだ」


アリスは俺の気付かなかった、知らなかった事を説明してくれた。

一国の姫に対しての長年の暴言・暴力が脳裏をよぎる・・・・・打ち首かなこりゃ・・・。

茫然とした俺を余所に王様は次の爆弾を投下した。



「ふむ・・・・それにしても真名を教え合う程の仲とは・・・・・・子ども子どもと思っていたが何時の間にかに成長するものなのだなぁ・・・・なかなか城には帰ってこんし、そうかぁ・・・・あの、あのイリスに・・・・真名を交わす相手がいたのかぁ」


なにやら言いながら王様が深いため息と共に黄昏だした。


「いやいやいや、ちょっ・・・・・」


ギュッ・・・・・


俺は王の勘違いを訂正しようと声を挙げようとした時、隣にいたアリスに腕を抓られた。

なにかと思い見ればアリスがじっと俺を見て、プイっと横を向いて言った。


「・・・・・私も良いよ、それで」

「は?」

「・・・真名を交わすってことよ。気付けバカ」

「///」

「一緒に世界一の魔法刀剣工になるんでしょ!ゴクマ・タガサキ///」

「ああ、誓うよ・・・・イリス・ラクストォーバ」


こうして王の前で二人は結ばれた。

この先、まだ数多くの障害と職人としてのぶつかり合いを経験し、魔法刀剣工として多くの名作を生み出すアリスとゴクマ。


二人の職人としての、そして生涯のパートナーとしての道は、いま始まるのであった。


アリス側からの視点もあるので、よろしければどうぞ。

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