食堂の夫婦
「あんたねぇ、パンをそのまま齧るやつがあるかい」
呆れたようにレイダさんが言う。
「これはスープに浸して食べるんだ。そんなことは子どもだって知ってることじゃないか、まったく。」
オプシさんも口には出さないが、重々しく頷いているのだから同意見なのだろう。
パンがものっそい堅い、という困ったことはあったものの、私のお仕事は無事幕を開けたのでした。
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「あの娘、貴族のご令嬢とかだったんじゃないかい?」
リデルが帰った後、レイダとオプシは新しい従業員について話し合っていた。
実はレイダはリデルの登用に反対気味だった。
「聞いてみればあの歳で、調理経験もないって話だしさ。いや、下働きからの募集でも可にしたんだ、それ自体に否やはないさね。ただ、あの整った顔立ちに、動作の綺麗さや食事の所作を見せられ、普段食べてるパンは柔かいのかね、上流階級の家の出は間違いないだろう?あたしゃ、妙なことに巻き込まれんのはお断りだよ。なんで雇うことにしたのさ?」
一切喋ることのなかったオプシであったが、その実、リデルの言動に神経を張り巡らせていた。
「最後のパンのことはともかくとして、だ。俺の作った飯をとても旨そうに食べてくれてただろう?あの時点であの子は悪い子ではないだろうと思った。そして目玉焼きを食べる際に少し残念そうにしたのには気づいたか?恐らく、もっとうまい食べ方をしたことがあるんじゃないかな?それが目玉焼きの出来なのか、調味料の味付けなのかは分からんがな。一料理人としては捨て置くわけにはいかんのだよ。」
「……あんた、そんなに喋れたんだねぇ」
食堂に沈黙が降りた。
「まぁ、あの娘なら、人が込む時間帯に賄を食べさせておくだけで周りの人間の注文が増えそうな表情だったのは同意するけどね。まぁ、給仕をさせるだけでもそれなりに役に立ちそうだね」
そう言ってレイダはため息をついた。
まぁ理由が理由だったので仕方がないだろう。
「まぁ、とりあえずはその方向で様子見だな」
「ちなみに若いのに手を出そうって了見ならその首引っこ抜くからね!」
「?何を言ってるんだ?」
首を傾げるオプシ。
この食堂の常連には、この夫婦の仲がよいことは常識である。