ただでは起きない
「本日は香りがよく、リラックスできる茶葉を選びました」
マリーが一方に、カトレアとリーシアが対面に腰を下ろしたテーブルに、リデルは渡された執事服を着ているが、内心ハラハラしていた。
この服、本物より凝ってない?
手袋や靴など小物もしっかり揃っていた。
手袋は絹でカフスなどもしっかり作り込まれており、流石にやり過ぎではないか。
カトレアとリーシアはその場に相応しい佇まいでお茶を飲んでいる。マリーはそっちのけでリデルを凝視している。
「お嬢様、せっかくのお茶が冷めてしまいます」
「大丈夫!ちゃんと香りは楽しんでいるから」
そう答えるものの、目はリデルの頭から足先までを往復してはここはこうしたほうが……などと呟いている。
「この焼き菓子、おいしいな」
カトレアがほぅと思わず息をついてしまうほどだった。
「ええ、単体ではパサついていますが、そもそもお茶と一緒に食べることを前提としているのでしょう」
リーシアも真剣に批評している。
リデルはもうこの人たちヤダぁと内心では叫んでいたが、表には出さない。
「王子様オプションと言うのはなんだ?」
カトレアが気づき尋ねる。
来た!とリデルは思った。
「別料金になりますが、“トキメキ“をサービスさせていただきます」
「じゃあ、それ頼んだ」
服装は変わっていないが、リデルの纏う空気が変化したのを3人は感じとった。
カトレアの前で跪くと、手をとり、甲に口づける。カトレアはほぉ、と面白がっていた。一方でリーシアは顔を赤くしていた。
「姫、一曲お願い出来ますか?」
「ほぅ、いいだろう」
流石に演奏者までは用意していないが、リデルが男性パートを踊りながらうまく誘導しているようだ。
最後にカトレアがリデルに支えられながら大きく背中を反らせる体勢でピタッと止まる。
「おぉ~」
パチパチパチ。小さな拍手が起こる。
「まぁまぁね。接待じゃない、本当の貴方のダンスが見てみたいものだわ」
続いてリーシア。
クルクルと回転させられて、畳んだ手の中で密着して終わる。リーシアは顔を真っ赤にしながらそそくさと席に戻る。
「あ、私はいいから。もう一回副社長と踊ってみてください」
マリーは辞退した。
「もうちょい動きやすいように余裕を持たせて、あーシワが寄っちゃう!」
とやはり衣服への関心の方が強い模様。
リーシアは顔が真っ赤も真っ赤。動悸が激しくなっていた。
「お嬢様方、そろそろお稽古の時間にございます。」
そんな時間も終わりを迎えた。
「なかなか楽しかったわ。少し粗も目立ったけどリーシアの意外な面も見られたし」
「なっなななななにを!」
「うまく出来たと思っていたのにまだまだです」
「ねぇ、リーシア。簡単なカフェを設置しましょう」
カトレアが顎に手を当てて思案気に
呟く。
「社長、余計な業務を増やす余裕はありません」
「そうじゃない。古着に比べて高い買い物をするんだ。着心地を確認したいと思うのはおかしいことじゃないだろう?試しに着てみられるカフェって言うのはどうだ?もちろん見て回って疲れたお客さんの休憩場所としてもいい」
「それって、服の質が問われますね」
リーシアにも一考の余地があると思えたのだろう。
「自信がないのか?」
「ありえません。うちは品質には絶対の自信を持ってます。がよりよい服を作らねばと思っただけです」
カトレアはリデルへと真剣な表情でふりむく。
「そのために必要なものがある。そう、執事だ。リデルちゃんがいなければ新しい取り組みはうまくいかない。力を貸してくれないか」
「冗談ですよね?」
カトレアは表情を崩すと、
「もちろん本当に来てくれても構わないけどね」
リデルは3人と握手をした。
「リデルちゃん、ありがとうね」
さっきのことを思い出したのかリーシアの頬がまた朱に染まっていた。
「いいえ、こちらこそ急だったのに助かりました。」
「私の専属モデルになりましょう!」
「いいえ、結構です」
横から割って入ってきたマリーを一蹴したリデル。
「あー、これすごく着心地がいいわ。ほら、全然突っ張らないのよ」
「デザインも新鮮よね」
セレヴィアの展示販売店のカフェで二人の女性客が互いの服を見合って話を弾ませていた。
「あのー、すみません。このまま着て帰りたいんですけど」
「畏まりました。それでは元々着ていた服はこちらにどうぞ」
販売員は店の名前が書かれた、簡易の袋を手渡す。
「それではお会計……」
新しいスタイルで販売を開始したセレヴィアは多くのお客に評価されたのであった。
カトレア「あんたのことだから男装の服をデザインするかと思ったんだけど、割とおとなしめよね?」
マリー「いきなりは受け入れられませんよ。まずはちょっと男の子っぽさを取り入れたものから徐々に近づけていくんです。“男な娘“ファッションはいずれ流行らせてみせるんですから」




