冷たいの、始めました。
「んんんっめぇえー」
口の端を濡らして、どこの山羊だよとツッコミを入れたくなる声が響く。
ちなみに生姜とハチミツ、果汁を適度に混ぜた水だ。アルコールは入っていない。
「なぁ、レイダさん、ものは相談なんだが…」
口元を袖で拭った男が表情を引き締めて話し出すのを、レイダさんが手で遮る。
「酒を置いてくれってんだろ。さっきから聞き飽きてるよ」
今日から始めた果汁水割り生姜入りを飲んだお客さんからひっきりなしに言われているのだ。
溶けたので薄くならないよう、氷も果汁水割り生姜入りで作ってます。
あ、お冷やも冷たいです。
まぁ魔法使いは自分の技術を高値で売りたがるので、普通の食事所で働く者はいない。というより魔法をこんな扱いで使う者はいない。
要するに、手頃な値段でキリッと冷たいものが飲めるのはひだまり食堂だけだったのだ。
水の中に浸けておいた冷たさとはやはり違うのだ。その味をしってしまえば酒も冷たいので飲んでみたいと思うのは当然の流れだった。
レイダさんは横に手を真っすぐ上げる。
その先には…足が折れ倒れているテーブル。
「あんたらが調子にのって壊したテーブルだよ。酒が入ったらどうなるかわかりきったものじゃないか。弁償代金を貰ったって営業の妨害になるのは変わりないんだよっ」
レイダさんもちょっと機嫌が悪そうだ。
ーーー営業終了後。
「逆に、ご迷惑だったでしょうか?」
リデルがレイダとオプシに申し訳なさそうに声をかける。
「何言ってるんだ胃、この子は。馬鹿だね。売上は間違いなく今日が最高だよ」
「これまでは氷が高くて出来なかった冷たいメニューも考えてみるのも悪くないな」
ぐすん。
「しかし、こうなるとなぁ、もうちょっとやり方考えないとなぁ。もう一人誰か雇うか?」
確かに忙しくて手が回っていないのだ。
「でもねぇ。仕事を覚えてもらうまで、逆に負担が増えるのよ?そんな余裕あるかしら?」
腕を組んで首を傾げる様は無駄に家族のようだった。
「セットメニューはどうでしょうか?」
二人の視線が私に向けられた。




