管理人、上比奈六花の道楽2
重厚な扉を押して入ると視線が刺さる、刺さる。ものすごく居心地が悪い。筋骨逞しく、どこか荒っぽそうな男達がほとんどで、少し来たことを後悔したが、よく見れば男達は美味しそうに食事をしている。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
そんな声が聞こえて顔を向けると、とんでもない美少女がそこにいた。“現実世界(向こう)“であった時は、これが男の子!?と思ったものだが、こうしてみるとやはり差があるのが分かる。
「お客様?どこか体調がお悪いのですか?」
再度声をかけられて、ハッとしすると、目の前の少女が困った顔をしていた。
ーーーそんな顔もかわいいな、チクショウ。
「ごめんなさい、あんまりにも可愛らしいお嬢さんだったので魅入っちゃっただけなの。」
そう言うと、頬に朱がさし、目が泳ぐところもかわいい。
「お、お客様もお綺麗ですっ。せ、席にご案内しますね。カウンターでもよろしいでしょうか?」
「ああ、構わない」
少ししどろもどろになりながら受け答えする少女に微笑みながら答える。
「リデルちゃんといい、なんで美人がこんな店に…!?痛っ!」
厨房の方からハンマーで割らないといけない野菜が飛んできてうっかりなことを言った男の頭部に直撃した。
大丈夫なのか!?と思ったが慣れた様子で、周りの男達が笑いながら診てやっているので、こんなことは日常茶飯事なのかもしれない。
椅子を引いてくれた少女にありがとうと言って腰を下ろす。
「ご注文が決まったら声をかけてくださいね。オススメはこちらのポテトサラダ付きのゴッド・ブルのジンジャー焼きです。ジンジャーが苦手じゃなければ是非食べてみてください。うちのシェフのポテトサラダは絶品なんですよ」
頬に手をあてて、目を細めうっとりとした様子でそう言う少女の興奮が空気に混じって伝わるようだった。
「お嬢さんは何か作れるのかな?」
「え?」
私の不意打ちに、熱が引いた少女はこちらを見て驚いていた。
「メニューはなんでもいいが、お嬢さんの作った料理がいい」
右見て左みてあわあわする少女。
「えっとですね、私の拙い料理より、うちのシェフの料理の方が絶対にぜぇったいに美味しいです
本当マジで。」
後半素が出たのかな?
私がいいから早うせいと表情で言っているのが分かったのか、ため息をつきながら
「ちょっと待っててくださいね」
と言って厨房に引っ込む。
厨房が少し騒がしくなって、戻ってきた少女が言う。
「本当に私でいいんですか?シェフが作った方が100万倍美味しいですよ?」
と聞くのに頷きで反すと、諦めたように厨房に入って行き、代わりに年上のおばさまが給仕に出てくる。少女の代わりだろう。
迷惑をかけていることはわかっているのでそっと頭を下げた。
しばらく待っているといい匂いがしてくる。
「お待たせしました。ポテサラ定食です。」
あれ?ゴッド・ブルの生姜焼き?はどうなったんだろう。あ、これ聞いたらあかんやつだ。
どこか恥ずかしそうにしているし。
でもちゃんとしていると思うポテトサラダを口に入れる。丁寧に潰したのだろうと思わされる滑らかさだった。
ちょっと泣きそうな顔でこっちを見ている少女に、
「美味しいよ」
といえばパァっと表情が明るくなる。
うん、そっちの顔の方がかわいいな。
「生活は楽しい?」
と聞いてみると、不思議そうな顔を一瞬見せたが、またほわほわっとした笑顔で、
「はいっ」
と言われる。
食事を堪能した後、お会計を払う。
「迷惑をかけたね、これは迷惑料に」
そう言って二つの水晶のような透き通った球体を渡す。
「こんな高そうなもの、受け取れません」
そう言って返そうとしてくるのを言いくるめて持たせる。
「これは魔法を覚えられる特殊な道具だ。
火の魔法と氷の魔法を覚えれば料理に使えるよ?」
ピクっと反応した。
「受け取れませんっ!」
見ないように気をつけながらこちらに押し返して来る。
「今度もっと美味しいのを食べさせてくれ」
そう言って押し付けてさっと後にする。
「あっ」
そんな声がして、扉を開けてキョロキョロする少女だが、私の姿を見つけることはできない。
私は管理者として権限を持っているのでちょっと特殊なことができるのだ。姿を変更するくらいは問題ないのだ。
彼女はこの世界を堪能してくれているようだ。
つい手助けしたくなってしまったのには苦笑してしまう。
「さて、またこの世界の管理に戻りますか。」
足取りは軽かった。
「俺もリデルちゃんの手作り定食」
「俺も俺も!」
「五倍までなら払う!」
「女性限定だよ!」
「「「「そんなぁ、レイダさーん」」」」
ひだまり食堂は今日も元気です。




