私、働きます!
私は今、役所に来ている。
並んでいる人のすくない列の最後尾について20分、受付の女性---青い髪というちょっと慣れない色に驚きを隠せない---は内巻きのロングヘアーでメガネをかけた綺麗な人だった。
私はおしゃれの参考というか勉強がてらフンフン、と頷きがてらチェックしていると、
「あの~ジッと見られると流石にチョッと…」
と、頬を微かに朱に染めて言うところは大人っぽさとギャップがあってかわいらしい。
「あ、ごめんなさい。キレイだったからつい。」
と答えれば、顔がますます赤くなる。
コホン、と一息入れて
「本日はどのようなご用件でしょうか?」
とポーカーフェイスを装うが、顔の赤みが引ききっていないので台無しである。
「あの、先日こちらで保護を受けたリデルと申しますけど…」
「リデルさん、リデルさんっと。ああ、"渡来人"!?失礼しました。確認いたしました。生活費の追加支給でしょうか?」
驚きをわずかで鎮めてお姉さんが対応してくれる。
「いえ、先日こちらで仕事の斡旋もしていただけるということだったのでお願いに参りました。」
「ええ、確かにお手伝いさせていただいております。やはり冒険者がお望みでしょうか?それでしたらたらい回しのようで申し訳ないのですが冒険者ギルドへと赴いて頂くことになりますが…」
「いえっ、私、料理人になりたいんです!」
「は?」
「え?」
「あ、いえ。申し訳ありません。今まで"渡来人"の方の多くが冒険者になることをお望みになられましたのでつい。リデル様は調理に関する技能を御持ちなのですか?」
「い、いえ。特にそういうわけではないのですが。」
私はシュンとしてしまう。あまり料理をする機会はなかったのだ。
とは言え、ろくに料理もしたことのない者を雇ってくれるところなどないのだろう。
「そうなりますと、下働きからとなりまして、該当する職場は1件、町中の食堂「ひだまり」での調理補助のみですね。」
うつむきがちだった私は「そうそう都合のいいことがあるわけないよねー」と暗い影を背負っていたので1テンポ遅れて反応することになった。
「え?あったんですか!?いきます!私そこで働きます!」
手を挙げてピョンピョンするんじゃ~とばかりにとび跳ねている私を
お姉さんはもちろん、周りの人も暖かい目で見ていた。
「よ、よろしくお願いします」
少し落ち着いて恥はしくなった私は俯きがちにそういい、職場への推薦状を受け取り、ペコっと頭を下げるとそそくさと役所を後にしたのだった。