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二度目の世界で本当の自分に  作者: 夢辺 流離
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植田流操術

『植田流操術』


 リデルが"奏"であった頃から祖父により教え込まれてきた古武術であり、

リデルとなった今でも人目につかない山間で続けている。


「操術」とは変わった名称であるが、要するに自身の身体を効率よく使うことを念頭においている。


「奏、お前は歩くときに片方の足を上げて前に出し、同時に後ろ足を持ち上げて・・・などと一々考えて歩いているか?」


 邸内の道場で向かい合って座りながら祖父は唐突にそう言った。


「いつもそんなことを考えながら歩いてたら車に轢かれちゃうよ」


 まだ幼かった"奏"はそう答えた。

畏れ知らずの自分を思い返せば冷や汗が出そうになる。


「ははは、そうかもしれんな。奏に事故に遭われては困るな。人は歩くことを覚えて歩き方を忘れる。不通に生活する分にはそれでいいのだ。だが、武術を志すものはそれではならぬ」


 朗らかに話していた祖父は、途中から表情を険しくし、刺すように奏を見た。

内心ビクつきながらも祖父の話に耳を傾ける奏だった。


「普段無意識にしている呼吸を意図的に行い、意識して刀を振っているのを反射的に、すなわち無意識に

出来るのが理想である。」


 それは現代の社会では常識的ではなかった。

横隔膜の動きに合わせて刀を振り下ろすことで、ただ振るより速くなる。

ならば刀を振るのに合わせて呼吸をする。

それは非常に合理的であった。

であれば、相手の呼吸を読むことで相手の動きを察知し、逆に相手に呼吸を悟られないようにする。


 とても物心がつきはじめた少年の住む世界ではなかったが、"奏"は祖父の教えにより、確実に成長するのが楽しくて仕方なかった。

"奏"自身にも才能があったこともその一助となる。



 『植田流操術』は一子相伝で現代まで伝えられた。

戦国、江戸時代から現代まで途切れることなく伝わるのは奇跡的だと言っても良かった。

 "奏"の祖父が"特別参加顧問"として招聘されたのもそれが由縁だった。

勿論、いくら歴史的に古いからといってそれだけで選ばれたのではない。

流派を通して培われた身体パフォーマンスは非常に高く、

"もう一つの世界"における最高峰の基準として選ばれたのだった。



        "無刀どり"


 "真剣白刃どり"ではない。

あれは芸であるならばともかく、実戦においては自殺行為でしかない。

刀を振り下ろすのには1秒もかからない。

それを挟むのがまず神懸かり的で、

まっすぐ振り下ろされる刀を横から挟んで動きを止めるというのはほぼ不可能である。


 故に刀を振るう腕を止める。

基本刀の軌道と連動する腕は刀を先行する。

「突き」という例外を除いて斬撃はすべてそうである。


 故に前へと踏み込み、腕を取る。

そしてそこからは多様な技があるものの、相手の武器を奪うのだ。


 植田家の先祖の内の一人が実は有名所の血筋だったらしい。その証拠は残っていない、が、強いて言うなら一子相伝の"無刀どり"こそが何よりの証拠とも言える。


 一子相伝他者に見せてはならぬ、というのは本家に知られてはならないということもあったのかもしれない。


 とまれ、"奏"は知らなかったが、上比奈六花があまり柄の良くない連中に絡まれていたときに"奏"の祖父が助けるという出来事があり、ーーー実は六花だけでも対処出来ていたのだがーーーその縁でスカウトされたという経緯があった。



 クララのお付きことゼパスとの戦いを経て、

 リデルはついに、"奏"と"リデル"の間の違和感を払拭し、自分自身を十全に把握したのだった。  



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