闖入者 2
「お店で騒がれては困ります。お客様におかれましても、ご不満でしたら別の店へお向かいください。」
「貴様っ!お嬢様に対しその態度」
お供の人がそんなことを言うけれど、お忍びで来たんじゃないの?
「よしなさいゼパス。だから御付は不要だと言ったのに。ねぇ貴方、風の噂でポタトの美味しい食べ方があると聞いてきたの。何かご存知かしら?」
どうやら御付の人についてはお嬢様は分かってたんですね。
「どの料理のことかそれだけでははっきりと分かりかねますが、当店で人気といえばポタトサラダでしょうか?」
口元に指を当てながらそう答える。
「ポタトサラダ!?一度食べたことがあるけれど、パサパサしていて喉が乾いてあまり美味しいとは思わなかったわ」
まぁ確かにゆでたジャガイモはそんな感じだよね。
「当店の隠し味ですのでお教えすることはできませんが、きっとご満足いただけると思いますよ」
特に揶揄するところもなく、私はそう言った。
"現実世界"とは違い、化学調味料や保存料などないから、食材の程度はあれ、お嬢様の口に合わないなんてことにはなりづらいんじゃないかなってのが一つ。もう一つは純粋に美味しいからだ。
私の発言に目を大きく開いたお嬢さんは年相応に見えてかわいらしかった。
「いいわ、そこまで言うのなら食べてみましょう」
わすかに表情を緩めて高らかにそう言った。
「お嬢様!?くっ、下手なものを食べさせてみろ、ただじゃおかないからな」
どうも反対のような御付の人(名前で呼ぶまでもない)には辟易するけれど、とりあえず、一番奥の余り使われないテーブル(相応に綺麗なので)へと案内する。
「ポタトサラダ1つです」
言った後で気づいたけど、サラダだけでよかったのかしらん。
まぁ普通に食事じゃなくて、試験みたいだし、いっか。
それほど待つことなく、準備されたポタトサラダは普通のお客さん用と同じだ。
ゴロゴロ具沢山だけど、決して貴族が口にするような華美さはない。
「こちら、ポタトサラダになります」
そうしてテーブルに置かれた一品に2人の視線が注がれるが、その意味はまるで違う。
「なんだこれはっ!?」
とは御付の人。
「まぁ、なんだか色々入っていて楽しみね」
とお嬢様って名前まだわかんないや。
「あっとと」
私は一緒にもらってきていたスプーンでひょいっとお嬢様のサラダを一口すくって口に入れる。ウマウマ。アプールや何のお肉か分からないベーコンが入っていて、それでいて味は綺麗に纏まっているのだ。
オプシさんの腕は一流だ。なんでこんなところで食堂なんかやってるんだろ?と思った瞬間に背筋にゾッと悪寒が走った。
なんでこんなところでこんなすばらしい食堂にはぴったりの腕だ。
私はナニヲイッテルンデショウカ。
「貴様なんのつもりだ!?」
ちょっとボキャブラリーが少なくないかい?
「どふみでふよどふみ」
「ええい、口に物を入れて喋るな!」
これは仰るとおり。
「毒見ですよ。ほら、この通り!なんともないって、うぅ!」
ザワザワと食堂が騒がしくなる。
「…むしろになっちゃう!」
私はちっとも盛り上がらない力こぶを見せてそう言った。
反応はない。あるぇー?
☆★☆★☆★ 謎のお嬢様 視点 ☆★☆★☆★
町で聞き調べた結果、ここが一番人気らしいということでやってきたのは酒場かと思う食堂だった。
よく見れば、客層がおかしいだけで、普通に庶民の食堂だったけれど。
「…汚い酒場ね、本当にこんなところで噂で聞くポタトの美味しい料理なんて食べられるのかしら」
「お嬢様、ですから申し上げました。平民の食堂でロクなものが出るはずがないと」
思わず呟いてしまった言葉とお供のゼパスの返答は食堂に響いてしまったと思うもすでに手遅れ。雰囲気は最悪だ。
「いらっしゃいませ、お二人でよろしいですか?」
そんなことを思っていたらやってきた給仕の女性は着飾って夜会で出会うのがふさわしいほど整っていた。
「あら、なかなか綺麗な顔ね。どこかの没落した貴族の娘かしら?」
あ、またつい余計なことを言ってしまった。
それからもひと悶着起きそうになることしばし、給仕の女の子が持ってきたのはまったく着飾るつもりがない一品だった。
流石に相手が貴族だと、わかればそれなりの対応をしそうなものだが、
ああ、なるほど。どうやら料理人は腕によほどの自身があるのだろう。
「まぁ、なんだか色々入っていて楽しみね」
これはアプール?オランジー?色々と入っていて見た目に楽しい料理に目を奪われていると、給仕の女の子がスプーンで私の見ていたところを掻っ攫っていった。
「この無礼者!」
といつもなら言うところなのを何も言えなかったのは彼女の表情に見惚れてしまっていたから。
先ほどポタトサラダを薦められたときも彼女の笑顔に魅せられて、つい食べてみようと思ってしまったのだ。
なるほど、この店の客層の謎はすべて解けた。
舌をペロっとやりながら、腕を折り曲げている彼女の行動の意味はわからなかったが、どことなく微笑ましい気持ちでそれを見る。
ゼパスが何か言っているがもうどうでもよくなってしまった。
私はポタトサラダを口に運ぶ。
果物の甘み、ベーコンの塩気、何かの酸味…想像もできなかった味のふくらみが余計な思考を押し流していく。
「おいしい」
口をつく言葉はそれだけだ。
上品に、ただし、スプーンはとまらない。
ポタトサラダがなくなったとき、給仕の女の子が「どうよ?」と自信満々のドヤ顔をしていた。
この娘の場合はかわいかった。
これは後で改稿するかも…




