闖入者
私が悩んでいようがいまいが、明日は変わらずやってくる。
それは時に残酷で、時に優しい。
初めの頃はそれだけで精一杯だった朝の仕込みも軽くこなして、食堂の床のモップがけ、テーブルの拭き掃除…。
客層がなぜか冒険者の男達なので、どこか荒っぽいところがあって結構散らかしていくのだ。
あ、営業が終った時点で一回掃除はしていますよ。
一番困るのがトイレで、本当に丁寧にしてほしい。
女性のお客さんがこないのってこれのせいじゃないかと最近思っている。
とまれ、お昼前にこれだけ済ませます。
ふふふ、私も成長したよね!
大体11時頃だろうか、表にある準備中の板をよいしょ、とひっくり返して営業中にする。
それから30分とせずちらほらとお客さんがやってくる。
冒険者は大体朝から出かけて夕方帰ってくることが多い。
門の開閉時間があるので、依頼でどれだけ時間がかかるかわからない時はなるべく長く活動時間をとるためだ。
じゃあお昼はいないのかというとそうでもない。
薬草採取といえど門の外では魔物と出会うこともあるだろう。
要するにいつだって危険と隣あわせで…骨休めもそれなりにするということだ。
つまり、昼間からお酒を呑む輩もいるってことだ。
うちの食堂はお酒ないですけどね。
「お待たせしました。マッドウルフの香草焼き定食です。」
おかしな名前が聞こえたって?気にするな、私も慣れました。
とまぁいつもどおりの食堂に異物が侵入してきたのは正午を少し回ったくらいの頃でした。
入り口のドアを必要以上に力強く開けて二人組みのお客さんが入ってきた。私、参上的な腰に手を当てた格好で。
その人は珍しく女性のお客さんで、一見すると街娘の格好に見えるが、服の生地が上等すぎるし、三角巾じゃないですが、頭部を覆う布地からドリルな髪型が出ています。何よりもう一人の人がいかにも付き人然りな格好で、そんなの貴族でしかありえないでしょう。
面倒な予感が全開ですね。
「…汚い酒場ね、本当にこんなところで噂で聞くポタトの美味しい料理なんて食べられるのかしら」
「お嬢様、ですから申し上げました。平民の食堂でロクなものが出るはずがないと」
開口一番の台詞に、店員はもちろん、お客さん達からも剣呑な空気が漂い始めます。
ともかく、これ以上険悪な雰囲気にならないよう、私は接客に向かいました。
「いらっしゃいませ、お二人でよろしいですか?」
「あら、なかなか綺麗な顔ね。どこかの没落した貴族の娘かしら?」
返ってきたのはそんな言葉で、私はどうでも良かったのですが、なぜか冒険者さんのほうが益々お怒りです、あれぇ?
「それでは席の方に案内しますね」
なんとか対立を阻止しようと私は綱渡りな気分で対応をします。とりあえず、周りに人がいない席へと誘導しようとして
「待ちたまえ、お嬢様にこんな連中と同じところで食事をさせるつもりか?専用の場所を用意したまえ」
付き人がそんなことを言い、駆け出しの冒険者でしょうか?がガタッと音を立てて席を立ちました。
「お貴族様が…ここはあんたの屋敷じゃない。気に食わないなら屋敷に帰れ!俺達のアイドルのリデルちゃんに迷惑かけるんじゃねぇ」
えっと、お気持ちは嬉しいんですけど?
いつからそんなことになってるんですかね?




