リデルの日常
リデルの顔色がとても悪い。
しかし、体全体で喜びを表しており、酒場の…もとい食堂の常連・馴染は皆首を傾げていた。
「よぅ、リデルちゃん。なんかいいことあったのかい?」
リデルとは付き合いの長い、仲のよい冒険者の一人が勇気を出して聞いた。
「あ、わかっちゃいます?表情に出ちゃってるかしら恥ずかしい」
そう言って俯きがちに手で顔を隠すような仕草は普段どおりでかわいい。しかし顔色の悪さや動きのキレのなさは明らかで一体何事なのか、ますます首の角度が急になろうかというところで、答えが示される
---爆弾と共に。
「実は今、絶賛生理中なんですよ」
そこにいた男達が一斉に口の中のものを噴出し、咳き込んだ。
「なぁ、生理ってきっついんじゃねぇのか?俺の嫁なんてその日が近づいたらずっと不機嫌でよ、話しかけるのも様子を見ながらだぜ」
「間違ってねぇよ俺もそう聞いてる。となるとリデルちゃんのあの様子はどういうことだ?」
貧血気味なのだろう顔が青白く、やはり辛いのは間違いないのであろうが、どこか浮かれた様子は、妙に色気を漂わせていた。
「そ、それがなんで嬉しそうなんだ?俺のコレなんかは男がうらやましいっていつも睨んでくるくらいしんどいらしいぜ?リデルちゃんは軽めなのか…っていっても嬉しくはないよな、普通」
それはそうだ。軽かろうがいつもより体調が悪くなるのは違いなくプラスに感じることはない。
「もちろん痛いですよ。うに?とか栗のとげとげしたのがおなかの中を転がっているようなじくじくとした痛みが続いていますし。でも私、こどもが生める、女の身体になったんだぁって思うと嬉しくって」
ざわつく食堂内。
「ってぇと何か?リデルちゃんにはそういうお相手がいるってことか?」
リデルの言い様に眉間に皺を寄せて尋ねる。
「え?ああ、そういえばすることもしなければこどもはできませんね」
そう言って舌を出す仕草はちょっとあざとかわいい。
「聞いたか?リデルちゃん、恋人いないってよ」
「しかもそういうことにも理解あり」
「いやいや、結婚したらこどもがほしい、てことだろ不通に」
酒場はいつもより熱気に包まれていた。
爆弾が炸裂すればそうなるのもしかたがないのだ。
「あんたたち、汚した分は自分で掃除しな!」
レイダが台拭きを各テーブルに投げつける。
「それからリデル、あんたもそういうことを普通にお言いでないよ」
と、叱るのだが、
「体調が悪いようなら、早めに言ってくれれば都合するから、無理するんじゃないよ」
厨房に戻った時にはそう言うのであった。ツンデレ乙。
「ありがとうございます、でも大丈夫ですよ。動けなくなるほどじゃないですから。」
今朝目覚めたリデルは下腹部に不快な、違和感を感じて慎重にパジャマを下ろすと、下着が赤黒く汚れていた。
生理だ
奏としても高校生であったのだから、それぐらいの性知識はあった。
ましてや一般的には10歳付近で始まる子が多い中、高校生なのだから、衝撃も耐えられないほどではなかった。
「ん?リデル、どうしたの?」
そっと動いていたつもりだったのだが、目を覚ましたアンジェ(お泊り会だった)に目を向けられて慌てて布団を引き上げたのだが、キランと一気に覚醒した模様のアンジェである。目ざとく見られていたようだ。
「大丈夫、誰にも言わないから!」
「違くてっ!これ。」
いっそ開き直って見せた。
よく考えたら、こちらの世界には向こうのような便利な生理用品はないのだ。リデルはこれまで生理がこなかったこともあり、幾ら”もう一つの世界”を称してはいても流石に再現していないのだろうと思って油断していたのだ。
こちらの世界でどうしたらいいのか分からない。
アンジェが泊まっていたのはむしろ行幸だったと言わざるを得ない。
「あ、来ちゃったんだ。って何ショック受けてるの?もう慣れてるでしょ…ってそういえばそんな話、リデルから聞いたことないね?まさか初潮!?あ、あのね、大丈夫だからこれはそういうもので女の子はみんななるものだから!」
慌ててアンジェがそういう。
「あ、うん。初めては初めてなんだけど。知識としては知ってるから大丈夫。ただ、お気に入りのパンツ、汚しちゃったなぁと思って。これ、落ちないよね?」
アンジェもこれでようやく落ち着いたようで、
「そうよね、その年なら平気よね。私のときは病気になったのかと思って真剣に悩んだからつい…って今頃初めてなの?遅っ!うーん、洗えば幾らかは薄くなるかもだけど、変えたほうが賢明だと思う」
結局詰め布のことなんかをアンジェに聞いて、汚れたシーツのことも管理人さんに謝りにいったら、
「それはそういうものなんだからしかたないわよ。それに大人の身体に一歩近づいたんですもの、おめでとう。今日は宴にする?」
「やめてください!」
なんてやりとりだけで済みました。
あ、洗濯は後でリデルがちゃんとしました。
リデルももちろん他の女性同様不愉快さを感じているのですが、
自分が”女性”であることを実感して喜びが勝っているあたりは、
やはり”只の”女の子ではないのでした。




