望まぬ訪問者
夕刻、いつものように賑やかなひだまり食堂の入り口を乱暴に押し開けて一人の男が入ってくる。
店の中が一気に静まり、お客さんも皆視線をそちらに向ける。
入ってきた男はすでに出来上がっているようで、顔は赤い。
「おらーお客様が来てやったぞー。さっさと案内しやがれ!」
そう言って腰につけてある竹筒のようなものから何か…恐らくはお酒だ…を呷る。
「お客様!当店では飲酒はお断りいただいております!」
私は慌てて声をかける。
「あぁ゛ん?うるせぇ!俺が買った酒だ。」
そういって私の肩を押すように突き飛ばそうとしたのだろう。
が、私はついいつもの癖で触られるのをバックステップで回避する。
「「野郎!」」
何人かのお客さんが、私が突き飛ばされたと思い腰を上げるのが視界に入る。
「店内での暴力ごとはゴメンだよ!」
レイダさんが顔を出してそう言うと、お客さんたちは舌打ちをしつつ席に着く。
「あんたも、さっさと食べたら出て行っておくれ」
注文を聞いて席へと案内したレイダさんは厨房へと戻る。
「あの男、最近この町にやってきて名を上げているやつじゃないか?」
「何?あれが話題のヴィオか!?」
お客さんの冒険者さんの会話によると、あの狼藉者はヴィオというらしい。
「お、お嬢ちゃん、かわいいじゃねぇか。こっちきて酌してくれよ」
そう言って近づいていったのは夕食を食べに来ていたアンジェだった。
アンジェの顔に怯えが見えるや否や、私はヴィオというらしい男とアンジェの間に割り込んだ。
「他のお客様に迷惑をかけないでください」
「よく見りゃお前もなかなかいい顔してるじゃねぇか。代わりにお前が相手しな」
そう言って私の手を掴もうとするのをあっさりとかわした。
はっきりいって、こんな男に触られるのは生理的に無理!本能で回避してしまっていた。
だが、今回はそれが裏目に出たようだ。
得てして酔っ払いは、無駄に細かいことが思い通りにならないと、苛立つものなのだ。お冷のコップを地面に叩きつけて立ち上がり、
「もう一度だけ言ってやる、俺の酌をしろ」
そう言って剣の柄に手をかける。
「うちはそういう店じゃないんだ。そういうことがしたかったら料理代とコップの弁償代払ってとっとと出て行きな」
「生意気な小娘めが!」
そう言って振り下ろす剣は酔っているせいか、単調で乱れていたが女性相手に振るうには十分すぎる速さと威力だった。
リデルが頭を抱えて屈みこむ、が悲惨な結末を想像して客たちは皆目を伏せるか逸らし、アンジェの悲鳴が響き渡った。
聞こえたのは人に当たったにしては軽い音。続いて「がっ」という短かい叫びとそれをかき消すにぶい音だった。
想像と違う違和感に客の冒険者が目を開けると、床に刺さった剣と床に伸びているヴィオの姿だった。何が起きたのか分からず、一瞬動きを止めた客らは再び動き出した。
「俺のリデルちゃんに不逞なまねしやがって!俺達が証人だ、衛兵に突き出せ!」
「おい、"誰の"だって?そいつも一緒に突き出せ!!」
「おお!!!」
「や、やめたげてよ~」
誰もがヴィオを拘束し突き出すことに意識をとられていた。
アンジェが恐る恐る目を開き、リデルに飛びつき、レイダさんとオプシさんも駆け寄って
「危ないことすんじゃないよ!」「…(沈黙)」
と叱りつけるまで空白の時間がリデルにはあった。
もしそれなりに腕の立つものが見ていたなら、リデルの位置が屈みこんだ時とヴィオの刃渡りほどずれていて、頭の向きも逆だったという違和感に気づいたかもしれないが奇跡的に目撃者がいなかったのである。ホッと息をついて、私の胸元に顔を埋めてポカポカと叩くアンジェにどうしたらいいか困惑するリデルであった。
長らくお待たせしてもうしわけありません。
接客業をやっていれば困ったお客さんというのはいるものですよね。
リデルはちょっとその対応の経験が不足でした。
アンジェに魔の手?が迫るとキレちゃいました^^;




