"私"専用機
人の目に怯えながら道を歩き、電車に乗り目当ての建物へと向かう。
そのほうが周囲から怪しまれるとしても、
深めに被ったフードだけが"私"の最終防壁だった。
余り他人と関わりたくなかったので、時間ギリギリに会場に向かうことにする。
会場は駅前の割と有名な会社の研修施設で、使われていない時には貸し出したりしているらしく、今回も広めの一室を借りて行われるようだ。
受付に座っていたのは銀糸の髪に紫の瞳の美人さんだった。
日本人離れした外見に驚きつつも魅入られていた。
「ハ、ハロォー!」
お姉さんは苦笑しつつ、
「日本語で大丈夫ですよ?それとも英語で話したほうがいいですか?」
その声に電話で応対してくれたのはこの人だと気づく。
「植田奏さんですね。こちらが資料になります。そろそろ時間ですので中に入ってください」
見かけと日本語の流暢さのギャップにクラッとしつつ部屋に入り、空いていた席に座る。
全員で30名ほどの参加者がいた。
上比奈 六花というらしい先ほどの受付の女性がなんと、今回の体験会の責任者でもあった、というか一人しかいないのか。そして名前も日本風なんだな、とどうでもいいことを思いつつ
話を流し聞く。私には性別がどうなるのかしか頭になかったのだ。
六花さんが試しに、と模擬機を起動する。
会場にあった巨大なスクリーンに写された、異世界?には六花さんを幼くしたような銀糸紫玉の女の子がいた。
"私"の体温が一気に上昇したのを感じる。
外見を弄れるのならあるいは……
そして私が試遊する時になって絶望する。
基本的には生体情報を読み取って自身を構成するらしい。
"私"は髪が実際より長い、という奇妙なことが起こりつつも男の身体だったのだ。
期待した分、ショックが大きかったのか気づいた時には試遊が終わっていた。周りの参加者の放つ熱気についていけなかった。
「絶対お金を貯めて購入します!」
なんて声が飛びかい、段々と人が減っていく。
「お気に召しませんでしたか?」
のろのろと顔を上げれば、すでに六花さんしかいなかった。
どこか気まずげに尋ねるのは自分が作ったものが受け入れられなかった悲しみからか。
「…完成品なら、性別は変更できますかっ!」
六花さんは、非常に驚いていた。
「現実とエイセスセニスで性別が異なることがあると、いろいろと不都合が起こる可能性がありまして、性別は変更できないようになっています」
六花さんがハンカチを取り出すと、私の目元を拭う。
"私"はいつの間にか泣いていたのだった。
「ですが、「本当の自分になる」ことを謳っている以上、奏さんのような場合も考えないといけませんね」
「え?」
私はそれだけを口にして顔を上げる。
「1日だけくれませんか?すでに始めている人達にも1度だけ性別を変えられる可能性を与えないと不公平ですし、性別を変更する場合の警告もしないと…ブツブツ」
六花さんは思考の海に潜っていってしまう。
はっと正気に戻って恥かしそうにすると、
「奏でさんが本当の自分になれるようにお手伝いさせてください。」
翌日、再び別の小さな家屋に呼び出された"私"は修正版の機体を示される。試してもいいと許可を受けエイセスセニスへと飛んだ"私"は自分自身の外見などを設定する。デフォルトが"女性"になっていて、"男性"を選ぶことができるというユーザーインターフェース("私”仕様の設定)の心配りに泣きそうになって、機体が生体異常のアラートを出しそうになって六花さんが慌てたという一面があったが、"私"は無事私になったのだ。
なけなしのお年玉の貯金を惜しみなく払って、
「六花さん、本当にありがとうございます」
「いえ、奏さん。"これから"ですよ。よい人生を」
「…あびばとうごだいばずっ。」
「奏さんは泣いてばかりですねー」
六花さんに宥められてなんとか落ち着いた私はなんども振り返って手を振りながら帰宅したのだった。




