植田 奏 エンカウント
後から聞いた話では3日間、ろくに身動ぎもせずにいたらしい。
この時に及んで母は私を気遣うようになった。
食事を持ってきて口元に運べば、"私"はなんとか食事をとったらしい。
父は相変わらず、というか一層"私"にどう関わっていいのかわからず、仕事へと逃げるようになった。
祖父は"私"の不登校というか、「自分の孫が落伍する」ということに苛立ちを感じているのか、より荒々しい扱いをするようになり、"私"を部屋から無理やり連れ出すと、竹刀で打ったりし、母が間に入って言い争ったりとひどい有り様だった。幸いだったのは家が人里離れたところにあった
ことだ。
相変わらず反応は鈍かったが、身動きできるようになった頃、
部屋に来るようにいわれて祖父の部屋に赴いたが、祖父の姿はなかった。恐らくお茶か何かを用意していたのだろう。
静かに床に座っていた私が"ソレ"を視界に入れたのは偶然だった。
「もうひとつの世界で本当の自分に」
と書かれた表紙が飛び込んでくる。
そこに書かれていたのはゲーム、だろうかと不思議に思った。
というのも祖父とは全くの無縁のものに思えたからだ。
自分では気づいていなかったが、"私"の瞳には光が灯っていた。
熱意をもって、冊子を読む。
"私"はゲームに詳しくなかったので、載せられている写真が現実のものか創られたものかは区別がつかなかったが、ともかくきれいだと思った。
読み進めていき、、"特別参加顧問"の一覧を見て驚く。
どの名前も一般常識といってもいいほどの有名人だったからだ。
そして納得した。祖父がこんなものを持っていたのは祖父自体が開発関係者であったからだ、と。とは言え、理解までできたわけではない。
祖父はゲームに興ずるような人間ではない。
「本当の自分に」
この言葉が頭を離れなかった。
きっとまた現実に打ちのめされるに違いない。
怯えながらも「試遊体験会」の場所・日時にはしっかり目を通していた。
"私"の死んでいた目に光が戻っていたからか、お茶を持って戻ってきた祖父は何か感じるものがあったらしい。いつものようにくどく何かをいうでもなく、話をして終わった。
正直、何も聞いていなかった。
"私"には試遊体験会のことしか頭になかったのだ。
一番近くであるのは期日が喫緊で、慌てて予約を入れた。
応対してくれた女性の声は綺麗で、品のよい話し方だった。
そしてその2日後、私は隣の県にいた。
周囲からの視線に怯えながらも"私"は部屋を出たのだ。




