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2-1面

「設楽副部長、これはエプロンですか?」


副部長にスマホの検索結果画像を見せながら尋ねる。


今日は水曜日。

5人で料理を作る日だ。


料理研究部の活動は、雨川枠と枠外ではスケジュールが異なる。


大所帯の雨川枠の人達は、AとBの2つのグループに分かれている。

月曜日はAグループが料理し、金曜日はAと同じ料理をBグループが作るという、週一のスケジュールだ。


枠外の私たちは、月曜は枠内さんと同じ料理を作る。水曜は雨川君を含めた5人で別の料理を作り、金は今後の為の勉強会や何を作るかのミーティングの日だ。


本日のお品書きは、プリンである。


プリンを蒸し器に入れて出来上がるのを待っている間に、私は設楽副部長に相談をしていた。


「どう思います? 副部長」


母の日の為のプレゼントとしてエプロンを探していた。

職業柄、幾つあっても困らないらしいので、毎回エプロンを送っている。


無難な形もいいが、折角だし面白系に走りたい! と考えて様々買ってきた為、そろそろネタが尽きてきたのだ。

新しい風が必要なのです。先輩どうぞお力を。


「なるほどー。これは、料理をする為じゃなくて、料理される為のものですねー」

「あれですか、お父さん頑張っちゃうぞ的な?」

「Yes! 的な?」


女子トークに興味を持った、男子諸君がぞろぞろやって来た。


「先輩達何見てるんですか?」


千裕君へスマホ画面を見せてやる。

裸の上に、総レースの短いエプロン一枚をつけた女性が写っている。


「千裕少年。帰ったら君のママンがこれつけてたらどうだろう?」

「どん引きですね」


そりゃそうだな。


「それ、誰用だよ。ちびっ子用か? 見せる胸あんのか?」

「ああん? このお口が小さい胸と言いましたか? ちっぱいだと言ったのですか?!」


手を伸ばして部長の口を掴み、アヒル口にしてやる。


「ママン用ですよ! 母の日用のプレゼントです!」


私のスマホを手にした雨川君が、画面をスライドさせて私に見せてくれた。


「こっちの方がいいんじゃない?」


とても可愛らしいデザインのこじゃれたエプロンだ。

無難なチョイス感謝するぜ、雨川君。だが、しかし。


「いいんだけど、そういうのは、一杯持ってるんだよね」


普通のデザインのものは本人もよく購入しているし、すでに沢山ある。


ちなみに去年は、エプロンの下が透けるような感じに女性のセクシーな裸が書かれている、なんちゃって裸仕様のものだ。母はそれを着けて、喜んでアシスタントさんに見せていた。


「ナナちゃんのお母さん、お仕事してたりする?」


あれ、言ってなかったっけ?

わたしったら、うっかりさん。てへ。


「しがない料理研究家をやってます」

「ええーーー! 凄いじゃないですか! 先輩のお母さん!」

「もしかして、お前の兄貴が三年にいるか?」

「はい、愚兄が一人」


アから始って、ホで終わる愚兄がねっ。

設楽副部長も兄貴のことを知っているのか、「あー、と」と言うべき言葉を選んでいる。


「あの永嶋よね? 奇抜というか、突拍子もないというか、どうしようもない……アレの妹がナナちゃん?」


……先輩達。なんですか?

あの兄にしてこの妹あり、みたいな残念な視線は。

さすがの私も不愉快ですよ??


「そういえば、母に料理研究部に入部したって話をしたら、みんなで家に来て料理すれば? って言ってました」

「えっ!」


雨川君が直ぐに反応を示した。

きらきらした目で私を見る。


「いいの? 研究家のお宅で料理とかすごい興奮する! ぜひ行きたい!」


私が雨川君に興奮されている……。

なにそれ、逆に興奮する!

ここがパシリの腕の見せ所ってヤツですね!


「今、電話して聞いてみるよ」


今日は仕事はオフだっていってたから、電話しても平気なはず。

数コールで母が電話に出る。


……あ、お母さん? 

……この前話してた部活の人達呼んでっていう話だけど、いつなら良い?

……え?うん居る。

……だから、居るってば!

……しつこいな、居るっての!

……え、二人かな???

……優しい系と後輩系。うん。

……ちょっと待って


「みなさん今週の土曜とかどうですか? 一緒に作らないかって」


みんながOKのサインを返してくれた。


大丈夫だと話せば、色々聞きたがるテンションの上がった母に一言お礼を言って、通話を強制終了させる。


「OKでました」

「永嶋さん、ありがとう!」


雨川君が私に抱きついてきた。

むぎゅーっと体に腕を回される。


いやいや、パシリとしてはこれくらいのことどうって事ないですから。

ですので、そろそろ放してください。

緊張での鼻血でちゃうから!


「ナナちゃん、お母様に何を確認されてたの?何度も聞かれてたみたいだけど」


べりっと雨川君をはがし、副部長の隣に逃げる。

ふう、助かった。


「イケメンはいるのかって、確認されました」

「お前が言っていた二人というのは、誰と誰のことだ?」


あれ、部長は何で米神ぐりぐりの刑の準備をしているのかなー。


「も、もちろん部長と雨川君ですよ?え、ちょっと! 痛いーーー!」


刑を逃れるため嘘をついたのに執行された。なぜだ!?


「まぁまぁ、部長今日はもういいじゃないですか」


千裕君が私と部長の間に入って助けてくれる。


「なんかお前もムカつくから、大人しくそこに立て」


千裕君にもジャイアニズム的発言の後、刑が執行された。

いじめかっこ悪い! と部長に言ったら、私がまたぐりぐりされた。


雨川君の後ろに逃げて、待ち合わせ時間とかの連絡の為、みんなの連絡先をゲットする。主に雨川君の連絡先が欲しかったから、なのだが。


帰りは、雨川君と二人で駅まで歩いたのだが、別れ際、雨川君にアメリカナイズな奇抜な色のお菓子を何個も口に入れてもらい、にこにこしながら見送った。


いやー、今週末が楽しみだぜ。


鼻歌を歌いながら自転車に跨り出発しようとした少し先に、同じく自転車に跨って驚いた顔をしている母がいた。


「今日はお赤飯だわ!」


そう叫んで、私を置いてきぼりで走り去っていった。


あーんの現場を見られていたとか?

カレカノっぽく見えちゃったとか?


私は急いで、母を追いかけ家に帰るも、すでにお赤飯がコンロで蒸されている最中だった。

仕事が速いよ、ママン!


家族に冷やかされるのを必死に否定しながら、泣く泣くお赤飯をお茶碗3杯食べて寝た。

お赤飯は悔しくも大変美味しかった。

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