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1-2面

雨川君が入っている部活は、『料理研究部』という。


名前の通り料理を行う部活だが、この高校で最大の人数を誇る部だ。


私が入学当初は5名程度だった人数は、雨川君が入部後、彼目当ての女子生徒が殺到して今や80名を超える大きさに膨れ上がっていた。


雨川君の人気を妬む男子には、『雨川帝国』と呼ばれている。

本当にそんな帝国あるなら、喜んで住人になりますよ!


しかし、不順な理由で入部した女子達の雨川君への制御が出来ず、思ったような活動が出来なくなった部長は、『雨川枠』という雨川君目当て用の部員枠を設け、毎月行われる試験をクリアした者だけが残れるというシステムを導入した。


その試験は中々に本格的で、点数が良い順番にランキングされ、最下層の人たちは一定人数が毎月やめさせられるというハードなものだ。


しかも、試験の順位により、作業が一緒に出来る人やアリーナ席と呼ばれる見るだけの人など様々な特典があり、アイドル顔負けのイベント仕様だ。


また、入部時も試験がある為、容易には入部できなくなった。


私も雨川君目当てに試験に挑もうと思ったが、止むに負えない理由により、指を咥えてみているだけの状態だ。


放課後、雨川君の後について家庭科室に行けば二人の人影が見えた。


あれ? 部員数は80名なのにたったこれだけ?


「先輩、戦力連れてきましたよ」


遠慮なく教室に入っていった雨川君が立ち止まったので、ひょっこり彼の背中から顔を出した。


「おい、あめ。また、ちっこいの連れてきたな」


教室奥で、流し台の脇に立っていた背の高い男子学生が、こちらへ向かってきて私を見下ろした。

短い茶色の髪をツンツンさせた、不機嫌そうな顔のお兄さんだ。


眉間が寄っていて、この状況だけを切り取れば、校舎の裏側で出会った立派な不良とカモの少女に見えるに違いない。


ちびっこだからって舐めんなよっ。

なんだー? やんのか、こらー!


彼の胸にも届かない背の私は、身軽に一歩飛び下がり、威嚇するようにファイティングポーズを取る。

すると、長い手が伸びてきて、ポンと軽く頭を叩かれた。


「気合は十分みたいだな、ごーかくだ」


お兄さんは、ふんと笑ってその場を離れた。


ふー、勝った。


次に、今までの光景をうずうずした様子で見ていた女子生徒が飛んできた。


「やったー! 待望の女の子だーー! 雨ちゃん偉いっ!」


素早い動きで私の脇の下に手を入れると、高い高いされた。

小さい私にとってこれもある意味侮辱ではあるが、落とされては堪らないので大人しくする。


降ろされれば、頭から始って体中をさわさわと撫でられ、最終的に抱きつかれた。


「女の子、最高!」


大変肉付きが良いお胸を押し当てられ、言いようの無い敗北感を感じる。

羨ましすぎる……。


背も高く、真っ黒の長い髪を後ろで高く結び、純和風なお顔の美人さんだ。


あのーと、雨川君を見上げれば、良かったねとニコニコしながら見下ろされていた。


「さっきの顔が怖い人が三年の藤間とうま部長、今抱きついてるのが同じく三年の設楽したら副部長。あともう一年生の男子がいるんだけど、後で来たら紹介するね」

「部員はもっと一杯いるんじゃないの?」

「ああ。あとは、雨川枠の子達だし、永嶋さんは関わらなから覚えなくても良いよ。今言った三人と僕を含めた四人が、雨川枠外の全メンバーだから」


まぁ、純粋に料理がしたい人達ということだろうか。


「あとこれ、ここに名前を書いて。そしたら、朝あげたチョコをもう一個食べさせてあげるね」


パブロフの犬よろしく雨川君の指示に従い、机の上に置かれた用紙に名前を書いた。


「はい、あーん。永嶋さん、入部おめでとう。これからよろしくね」


用紙の上部に置かれていた雨川君の手が、すっと横にずれる。そこには、『料理研究部入部届け』と記載があった。


はわわわ! 『料理研究部』に入部しちゃったんですか、私!?


設楽副部長に、再び高い高いをされながら目をしろくろする私を見て、雨川君は嬉しそうに笑った。

そこへ部屋に入ってきた小柄な男の子が、「何やってるんですか、設楽先輩!」と叫んだ。


「よし、揃ったな! おめぇら、買出しに出発だ!」


藤間部長が、海賊の出航みたいな掛け声を上げて歩き出す。


そして、私は初めての部の活動に連れ出された。

【小話】ナナと不良

****************************

しまった!

校舎の角を曲がって、自分の判断が間違っていたことに気づく。


この校舎の裏は不良の溜まり場だった。

近道をしようと急いでいたため、うっかりこの道を選んでしまったのだ。


案の定、壁に寄りかかって一人の不良がこちらを目付きの悪い顔を向けている。

私は睨まれた蛙の様に動けなかった。


「おい、てめぇ。金出せよ! 150円な!」


不良の要求に、震える手でお財布からお金を出した。


「ほら、どれがいいんだ」


不良の前に置かれたボックスを覗けば、いろんな種類のペットボトルが置いてある。私は赤いラベルの黒いシュワシュワした炭酸飲料を手に取る。


「ま、また、来いよなっ!」


顔を赤くした不良が、嬉しそうなのに怒った風に言った。


ナナ: ……っていう、メイド喫茶の不良バージョンが、あったらいいなと思ったんですっ。

設楽: 雨ちゃんはインテリやくざ風ね!

ナナ: ぎゃーー! そんな雨川君に、お金せびられたいっ。むしろ貢ぐよ!

設楽: スーツ&オールバックで、『お金くれたら、いいことシてあげるよ?』ってな。

ナナ: 設楽副部長に、一生ついて行くっす!


こうして出会った二人は、初日で仲が深まった。

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