贈り物の始まり
「楽園物語」のエリシオンの四つの春・第一章読了後の閲覧を勧めます。
私には母親の違う弟妹が三人いる。アイアコス、アイグレー、ヘスペリエ。
思い出すのは、始めて贈って貰った花。可憐な白い花は私より贈った本人に似合いそうだった。
それは、まだアイグレーがクレウテに居た頃の事。末妹は本当に幼かった。
「おねえさま!」
まだまだ子供の私よりも幼い声が私を呼ぶ。ヘスペリエの声。振り向けば、驚いた。
「ヘスペリエ、どうしたの?泥だらけじゃない」
もしかして、他の奴隷に苛められたのだろうか。妹は奴隷ではあるが、将軍の娘なのだ。自分と同じ。
「ちがうの、おねえさま。おねえさまにおわたししたいものがあるの」
「・・・なぁに?」
ヘスペリエは満面の笑みで差し出す。
真っ白なそれは、妹の小さな手に握られていた。可憐な白は中庭に咲く花。
「おねえさまのたんじょうび!」
愛らしい妹はどうやら私の為に泥だらけになったらしい。その花は普通、薄紅色で、この屋敷でも白色は僅かにしかないのだ。必死に探したであろう。証拠は彼女自身。
「ありがとう。でも、こんなに汚して・・・クリソテミスに叱られるわよ」
妹は姉の言葉で母を思い出す。生成だった布は茶色に染まっている。
「あ・・・」
「一緒に謝りましょう」
「はい、おねえさま」
そして、ヘスペリエは翌年も花を贈った。
二人の秘密は始まったのだ。
懐かしい夢を見た。妹を叱る母親。そして、花瓶を用意してくれた女性。
彼女は私にとっても、母だった。
その日は、彼女の命日。贈り物の花は二人の母の思い出。
贈り物の始まり 終
ささやかに見えるものでも、本人にとっては大きな事です。
本編に入れても良かった気がしますが、特別なお話として書きたかったので番外編となりました。