ガーネットサイド 【忘れられた神の聖域】
前話でガーネットさんが連れて来た白い毛皮?とのお話です
「 ん…此処は一体… 」
石の床に横たえられていた身体を、そっと起こす
【色欲】に抱えられたと思ったら、視界が暗転し
この場所に横たえられていた
「 牢屋ですか… 」
見まわした先には、鉄格子が嵌めこまれ
部屋には簡易なベッドが置かれていた
「 私、捕まっちゃたのですね… 」
闘いに負け、捕えられた場面が浮かび、ギュッと拳を握る
「 駄目ですね、私は…また皆さんに迷惑を掛けてしまいました… 」
ゆっくりと起き上がり、鉄格子の前まで歩き
鉄格子を握りしめ、力を込めて揺すってみる
「 無理ですよね…そうだ!分身さんなら鍵を取ってこれるかも! 」
【ミラージュ】で現れる分身は、自分の左右に二体ずつ出現する
鉄格子ぎりぎりで、スキルを使えば、二体は鉄格子の外に出現する筈
「 んしょ… 」
顔を鉄格子に押し付ける程、ぎりぎりまで寄り添い
「 分身さん!お願い! 【ミラージュ】 」
だが、分身は現れてくれず、SPが消費されただけだった
同じ事を、鉄格子に寄り添う位置をずらしながら三回試すが
何処でやっても結果は同じだった
「 スキルが使えないのです… 」
溜息交じりに、呟きながら、簡易ベッドの場所まで下がり
ベッドに腰を下ろす
「 せめてなんとか脱出しないと… 」
脱出する方法が何かないかと、考えを巡らせ出した時
ある事を思い出す
「 そうだ! 【鉄火巻き】さんも捕まったんだった! 」
私一人じゃ、思い浮かばない考えも二人なら思いつくかもしれない!
そう思い、鉄格子まで再び駆けより、大きな声を出す
「 【鉄火巻き】さーーーーん!何処ですかあーーーーー! 」
声は、牢屋の外の部屋に、響き渡り、こだまの様に反響する
さらにもう一度、声をさらに大きくして叫ぶ
「 【鉄火巻き】さーーん!ガーネットですーーーー!! 」
声は反響し、広がって行くが何処からも返事らしい物は聞こえてこない
同じ様に何度か叫ぶが、やはり声は反響するだけだった
「 別の場所に連れてかれちゃったのかな… 」
少し心細くなって、とぼとぼとベッドまで戻り腰を下ろす
自分の足元を見ながら、
「 何処に連れてかれちゃったんだろう… 」
不安になり、つい独り言も大きくなっていってしまう
「 はっ!まさか『お前は秘密を知りすぎている!』 とか言って何か酷い事をされているのでは! 」
アーニャ司祭が、【深淵を彩る色欲】だと知っている人間は少ない
もし、ログアウトして仲間にメールで知らせる事ができれば
状況はこちらに有利になるかも知れない
でも、ログアウトができない状況もある
戦闘中で攻撃を受けたり、攻撃をしている時…
ずっと微ダメージを喰らっていればログアウトは不可能だ…
私がログアウトしてメールすれば…
あ…メールアドレス知らない…
メールアドレスを知らない事に、少し落ち込みながら
再び【鉄火巻き】さんの事に考えを巡らせる
「 大丈夫かなあ…【鉄火巻き】さん…酷い事されてないといいなあ 」
呟きながら、伸びをして、ベッドに仰向けに転がる
一人で、退屈している性もあって、徐々に考えが暴走し始める
「 酷い事されてないと…まさかっ!あんな事もっ! 」
「 ほう、どんな事じゃ? 」
「 それは…あのみどり姉さんが教えてくれた本に書いてた様な事を… 」
「 ううむ、それでは解らぬ、どんな事なのじゃ? 」
「 それはーーーーや、----- とか! 」
「 なっ!なんとっ!それは酷い! 」
「 でもそれが最後には…って誰っ?! 」
自分の暴走に深く入ってしまい、周りの事をすっかり忘れていた
勢いを付けて起き上がり、鉄格子の方を見ると
綺麗な赤い着物に身を包んだ、十歳位に見える小柄な少女がたって
こちらを眺めていた
黒い髪は綺麗に結いあげられ纏められていて
丸くつぶらな瞳は、興味津々と言う様に、こちらに向けられている
(こんな子に、私の暴走を聞かれちゃった!恥ずかしい…)
少女のつぶらな瞳で、まっすぐに見つめられていると
さっき自分が話した事が、恥ずかしくて顔が真っ赤に染まってくる
「 どうしたのじゃ?顔が赤いぞえ? 」
小首を傾げて尋ねる少女に、思わず両手をぶんぶん振りながら
「 な、なんでもないよ! うん!なんでもない! 」
「 そうかえ、なら良かった、大きな声が響いたから何事かと心配したぞ」
少女は安堵した様な表情を見せ、また鉄格子から離れ、奥に戻ろうとする
「 まって! お願い! 」
「 ん? 妾になにか用があるのかえ? 」
少女は不思議そうな顔で、振り向き尋ねる
目を合わせながら、頷き
「 ここから出る方法を知らない?皆の所に戻らないといけないの! 」
鉄格子の側まで、駆け寄り屈んで、少女の高さに合わせて話す
少女は少し困った表情を受かべながら
「 妾には、今あまり力がないのじゃ、【色欲】めに妾の力の元の
憎しみを妙な短剣で奪われたからの 」
「 えっ!?アーニャを知ってるの?!それに奪われたって?! 」
少女の口から出た【色欲】という言葉に、驚きの表情を浮かべながら
聞き返す口調も早口になってしまう
「 そうじゃ、あ奴め、妾の家だけでなく、力も奪っていきおったわ…
定めが憐れと思い、家を貸してやったのにな 」
少女は、背格好に似合わぬ憎々しげな表情を浮かべ吐き捨てる
「 えっと…家ってここの事? 」
「 そうじゃ、妾の家【忘れられた神の聖域】じゃ 」
「 えーーと…じゃあ、あなたは神様? 」
戸惑いながら出した問いに、少女はそり返る様に胸をそらしながら
もったいぶるようにゆっくりと告げる
「 いかにも!妾は神様じゃ! 」
「 ええええっ!じゃあここのボスモンスター! 」
思わず上げた大声に、少女は、頬を膨らませ、拗ねた様な素振りを見せる
「 モンスターというな!妾は元々神様として崇められておったんじゃ!」
唾が飛んできそうな勢いで抗議を始め
言い終わった後に、また頬を膨らませ、ぷいっと後ろを向く
(ご機嫌そこねちゃったみたい…つい驚いちゃった…)
今ここから脱出できるチャンスはこの少女しかいない
なんとか機嫌を直してもらわないと…
「 ごめんなさい…ついびっくりしちゃって…可愛らしいから想像もつかなくって…ごめんね 」
ピクッと少女の身体が動く
「 可愛い…妾が可愛いとな… 」
「 とっても可愛いわよ!それにその着物もよく似合ってる!裾の毬の模様も似合ってて素敵よ 」
また、少女の身体がピクッと動き、今度は綺麗に結われた髪の左右から
ピョコンと三角の白い毛が生えた耳が生えた
なにかの漫画で見た狐耳の様にもみえる
ぴくぴく動くその姿に、思わずその動きに目が釣られて、声が漏れてしまう
「 うわあ…本物のけも耳だあ…かわいい… 」
「 そうか…妾は可愛いか…ん?わわっ耳が出てしもうておる! 」
慌てて両手で、飛び出た狐耳を押さえて隠そうとする少女
「 凄く可愛いお耳なのにもったいないですよ~! 」
可愛らしさに、つい笑みを浮かべながら、声をかける
すると、少女は、恐る恐るという風にゆっくり振り向き
「 お主は怖くないのかえ?獣の耳なぞ異形の者ぞ? 」
下から覗きこむように、不安げな表情で訪ねてくる
「 怖くないわよ!文化祭で私も付けたもん!それにとっても可愛いわよ」
思わず鉄格子の間から、手を伸ばし少女の頭と狐耳をそっと撫でる
少女は、手が伸ばされた時は、緊張した様に身体を強張らせたが
ゆっくりと優しげに撫でられる手を払う素振りは見せなかった
「 うわあ…凄い…髪もとっても綺麗だし、お耳はとっても柔らかいのね」
ゆっくりと撫でていた手を戻し、少女を見つめお礼を言う
少女は俯いたままなので、気を悪くさしてしまったのかなと思い
慌てて謝る
「 ごめん!突然撫でちゃってごめんね 」
少女は、微かに聞こえる小声で
「 いや…妾も久しぶりに撫でられて、昔を思い出しただけじゃ… 」
少女は掠れる様な声で、昔の話をそっと語り始めた
少女は、まだ北の聖女が現れるずっと昔からこの土地にいた土地神の一人で人々は彼女達を崇め、彼女らも人々を守護する事で共存していた
その平和な時間はある日、突然誕生した【深淵】によって破られる
豊穣な大地だった南の大陸は、【深淵】の影響で不毛の大地に変わり
排除すべく挑んだ南大陸の神達は、逆に飲みこまれ
歪んだ存在となり果て、さらに災厄を起こした
中央大陸にいた神達も力を合わせ挑むが、徐々に【深淵】に飲まれて行った
この世界の終わりが見えた時、一組の男女が奇跡を起こした
女は北方にそびえるこの世界でもっとも高い山から
天上に住む原初なる神に祈りを届け
男は、【深淵】の最深部まで辿り着き、その身に【深淵】取り込み
拡散を防ごうとした
原初なる神は、【深淵】を取りこんだ男ごと、大地の深くに
封じる事に成功した
「 じゃがの…人々は北の聖女を崇め、無力だった妾らは、徐々に忘れられたのじゃ…人に撫でられたのは太古の平和な時以来ぞ… 」
少女は俯きながら、悲しそうに語る
そして、ふいに顔を上げ、私の目を見つめながら悲しげな瞳で見つめる
「 じゃがの妾らも、土地の人々を守ろうと闘ったのじゃ…あんなに一杯いた仲間が全ていなくなるまで【深淵】に飲まれても闘ったのじゃ…それが忘れられるのは口惜しいではないか…妾は、それが許せなかったゆえに邪に堕ちたのじゃ… 」
少女の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる
思わず少女の頭に手を伸ばし、優しくそっと撫でる
「 大丈夫よ…今、私がちゃんと話を聞いたわ、あなたの仲間が皆のために闘った事をちゃんとね 」
少女は、しばらく泣いた後、こちらを見て、思い出したように
「 そうじゃ、ここから出たいのであったの…すまぬ…妾は力を奪われ、新たな力の元になる信者もおらぬ…すまぬの… 」
何度も謝りながら、口惜しそうに鉄格子を握る
その姿をみて、私にある考えが浮かぶ
「 私があなたの信者になる!だってこの土地に住む皆の為に闘った神様なんでしょう! 」
笑いかけながら、少女の目を見つめ、ゆっくり話しかける
少女は、目を見開きながら驚き、
「 妾は一度、邪に堕ちた者ぞ… 」
「 こんな可愛らしくて泣き虫な邪神さんなんていないよ 」
「 泣き虫とはなんじゃ!ちょっと思い出に浸っただけじゃ! 」
少女がまた頬を膨らませる仕草をしたのを見て
思わず、微笑みが浮かんでしまう
「 ごめんごめん!ほら怒らないで、信者さんになるのはどうしたらいいのか教えて? ね? 」
「 謝るなら許してやらんでもないぞ、そうよな我の忘れられた名を呼び奉げ物を供えよ、そしてそちの真の名を我に告げよ 」
「 私の真の名って? 」
「 本来の魂に名づけられておる名前の事じゃ 」
えっと…リアルの名前って事なのかな…
「 わかったわ、お願い 」
私の言葉に、今度は胸を目一杯逸らして、、大げさに頷く
「 では…われの名は【白き大地を守護する者】【九尾】 」
「 私の真の名はーーーーーー 」
名前を告げた瞬間、二人の身体が輝く光に包まれる
「 きゃあ!何これ! 」
「 落ち着け、さあ供物を妾に 」
あ…えーと…
「 あの… 」
「 なんじゃ?はようせい 」
「 イチゴケーキでも平気ですか? 」
「 イチゴケーキ?何じゃそれは… 」
アイテムボックスからイチゴケーキを出して
少女にそっと手渡す、少女は不思議そうに掲げて、全方位からケーキを見つめ、今度は鼻を近づけ匂いを嗅ぎ出した
「 なんぞコレは…また面妖なモノをだしおって… 」
訝しげに、目を細めイチゴケーキを見つめる少女に
「 甘くておいしいですよ~お勧めです! 」
「 なんと!甘いのかコレは!ふむ…では…ンンッ! 」
少女の耳が、ピーンと伸びる、
それに釣られる様に、少女の身体も直立不動の姿勢で硬直する
「 あれ…気に入りませんでした…? 」
硬直してしまった少女は暫く固まったままなので恐る恐る声を掛けてみたが
反応が返ってこない、そのままとりあえず待っていると
二十秒程して、少女がゆっくりと呟く
「 な…なんという…お主これはまだ持っておるのか! 」
最後の方は、興奮した様子で、顔を鉄格子に押しつけながら
まくし立てる
「 まだまだありますよ~他の種類もいっぱいですよ~ 」
「 な…なんと!まだ種類があるというのかっ! 」
興奮しているのか、狐耳がぴょこぴょこ激しく動かされる
(ふふっ、可愛い!)
「 よし!そなたは今日から、妾に毎日これを供えよ!絶対じゃぞ!毎日絶対じゃぞ!約束じゃ! 」
「 いいですよ!毎日お供えしますよ~ 」
「 ほ、本当かえ!よし待っておれ、すぐにそこから出すゆえに 」
少女は、目をきらきら輝かせながら、鉄格子に手を掛ける
少女の目が一瞬だけ、紅く煌めき、次の瞬間には
鉄格子がまるで飴の様に、ひしゃげる
「 すごい… 」
「 どうじゃ!凄いじゃろ!ありがたいと思うなら更に、お供えをしてもいいんじゃぞ! 」
少女は得意げに、ふふんと胸をそらしつつも
右手をこちらに、そっと出してくる
「 ふふ、ありがときゅーちゃん、はい!イチゴケーキ 」
「 な、なんじゃ!きゅーちゃんというのは!妾は神様じゃぞ! 」
「 だって本当の名前は皆の前で呼んだら駄目なんじゃないの? 」
私のイタズラッ子ぽい笑みを、ぐぬぬと見つめながら
少女はイチゴケーキに手を伸ばす
「 他に信者がいないから、特別じゃぞ!そのかわり毎日お供えするのじゃぞ!絶対じゃぞ! 」
イチゴケーキを、手に持って食べるながら、まくしたてる少女に
「 ほら、口の横にクリームが付いてますよ 」
アイテムボックスから出した、ハンカチでそっとぬぐう
「 ん…この姿では、付いて歩いていくのが手間じゃの 」
イチゴケーキを、あっという間に食べ終えた、きゅーちゃんは
自分の姿を眺めながら、一人呟き、くるりと一回転する
すると一瞬で、少女は小さな白い狐に変わる
「 綺麗… 」
白く輝く毛並みは、薄暗いこの部屋にあっても、艶やかに輝く
見とれている私に、きゅーちゃんは、近づき飛びあがる
「 きゃ! 何? うわあ… ふかふか! 気持ちいい! 」
「 これ!あんまり撫でるでない…も少し背の方ならよいぞ 」
首にするりと巻き付いた、きゅーちゃんの感触は
ふかふかのすべすべで、ずっと触っていたくなる
「 これ!そなたの仲間がおるのであろう!はよういくぞ! 」
あ…そうだった!
早く行かなきゃ!でも何処にいるのかが…
「 ここは元々、妾の家ぞ、【色欲】が居そうな所は見当がつく 」
「 本当?! 案内をお願い! 」
きゅーちゃんの案内で駆けだした私は
ふと、最後の言葉が気になった
「 ねえ、きゅーちゃん 」
「 なんぞ? 」
「 【色欲】が憐れとか居る所が見当が着くとかいってたけど… 」
「 ああ…その事かえ、あ奴も元々妾らの仲間じゃったのじゃ…【深淵】に挑み、飲まれて歪められてしまったがの… 」
寂しそうに呟くきゅーちゃんがそっと続ける
「 あやつは元々、酒場とか水商売を守護する騒がしい女神じゃったよ 」
そこまで呟いてから、厳しい口調に変わる
「 久しぶりに会ってな、懐かしさから気を許したのが間違いじゃった」
きゅーちゃんの言葉を聞きながら
案内に従って、駆け抜ける
自分が迷惑を掛けてしまった仲間の元へ
自分のミスを取り戻さないと!
前話との間を開けたくなかったので、書き始めたのですが、もう四時って…仕事が…