【忘れられた神の聖域】にて 新たに生まれる者
今回は微グロ表現があります、ご注意下さい
「 あら?そうなの、残念ねえ 」
【色欲】はそう言いながら、胸元に伸ばしていた手を降ろす
「 そんなもの見せなくてもいいわよっ!【色魔】 」
「 そんな物とはなによ!それに【色欲】よ!いい加減覚えなさいお子様 」
二人は、再び睨み合い始める
(やれやれ、またループすんのか…)
呆れ気味に思った時、ホールに微かな呻き声が数か所からおきる
呻き声の方を見ると、モルデ、大司教、騎士団から数人が呻き声を上げる
ただ、彼らから上がっているのは、呻き声だけではなかった
黒く染まった煙が彼らの身体から立ち昇り、身体は高速で明滅をしている
「 …なに…これ… 」
異様な光景に、目を奪われる、皆もその異様さに動きが止まって魅入られていた、【色欲】だけが楽しげに笑い声を上げる
「 ふふっ、【深淵の光】はね対NPC専用スキルなのよ、彼らの中に強い七大罪の心があれば、深淵に寄り添う者として、生まれ変わるの!素敵でしょう? 」
【色欲】は笑い声を更に高めながら、芝居ががった大げさな仕草で
両手を広げる、高らかに笑い声が響く中、ゆっくりとモルデが起き上がる
「 適応が早いわね、モルデは、あなたは何の大罪をもっているのかしら」
起き上がったモルデは、未だ呻き声を上げて黒煙と共に悶える騎士団の数人を侮蔑する様な目で、見下ろす
「 なぜ俺を馬鹿にする!産まれが卑しいからか!産まれた家がいいだけで安穏と騎士団にいるお前らに馬鹿にされてたまるか! 」
モルデは叫び声を上げながら、倒れている騎士団達を蹴り始める
「 ふふっ【嫉妬】ね、それもかなり強いわねえ、雑魚の味方が増えてもしょうがない物ねえ、モルデ、これをお使いなさい 」
【色欲】は、モルデに赤い血の色をした短剣を投げて渡す
受け取ったモルデは、短剣を訝しげに見た後、【色欲】を見る
「 それは【エヴァグリオスの懐刀】よ、他の者の大罪を吸収し、あなたの力に変えるわ 」
その言葉を聞いて、唇を釣り上げ凄惨な笑み浮かべるモルデ
「 やめろ!モルデ! 」
その笑みに嫌なモノを感じて咄嗟に叫ぶ
ちらりとこちらを見た後、モルデは厭らしい笑い声を上げながら
黒煙を上げている騎士に、短剣を振り下ろす
「 ははっ!今までよくも!俺の方が強いのにっ! 」
刺された騎士から、血しぶきの様な黒いエフェクトが上がり
モルデに吸い込まれていく
「 いけません! 止めますよ! 」
王子の言葉に、凄惨な光景に固まってしまっていた身体が反応する
一気にモルデの元へ駆けよろうとするが
空気を裂く炸裂音が、身近で聞こえ、咄嗟に地面を転がり回避行動に移す
「 させませんよ、モルデが強化する間、私の相手でもしていて下さいな」
【色欲】が、右手に鞭を下げ、妖艶に笑う
「 範囲で倒すわよっ! 」
「 いけません! みどりさん、まだ息のある騎士団も巻き込んでしまいます、彼らは深淵に魅入られていません! 」
「 ああっ、もうっ!ならモルデの足止めをするわ!【罪のいばら】 」
みどりさんの言葉に合わせ、モルデの足元から無数の植物の蔦が生まれ、
モルデを包み込む、---がモルデは止まらなかった
短剣で蔦を斬り払い、絡め取られた足からはダメージエフェクトを出しながらも、黒煙を上げている騎士に進んでいく、異様な笑い声を上げながら
「 うそっ!あの蔦は斬れる物じゃないわよっ! 」
「 あの短剣に何か力があるのでしょうね…くっ! 」
駆けだそうとした王子を、鞭が裂帛音を響かせて打つ
「 おお!モルデ、さすが儂の部下よ!褒めてやるぞ 」
いつの間にか大司教も立ちあがり、モルデに笑顔で歩み出す
その姿をみて【色欲】が鼻で笑うように
「 ふふっ、弱いのに強者のつもり【傲慢】かしらね 」
笑顔の大司教を、モルデもまた笑顔で迎える
騎士団を刺した時の様に、凄惨な笑顔で
「 大司教様… 」
「 ん?なんじゃモルデ?褒美は取らしてやるぞ! ぐっ…なにを… 」
「 私はいつも影の中…汚れ仕事は任せて、自分は栄華の中… 」
モルデは、大司教の胸に刺した短剣を抜き、更に振りかざす
「 それなのになぜ蔑まれねばならぬ!命じたお前に! 」
崩れ落ちる大司教を侮蔑の目で見ながら、呟く
大司教が崩れた後、モルデは、ゆっくりとこちらを振り向く
「 モルデ…お前、目が… 」
振り向いたモルデには、右目が無かった
いや、【怠惰】の時と同じく右の眼窩があった位置に
紅く蠢く深淵の渦が、不気味に揺らめいていた
「 ふふっ、凄いわ!モルデ、あなたは深淵に踏み込んだのよ! 」
【色欲】は歓喜の声を上げ、モルデに微笑みかける
モルデは、そちらを見ずに、俺達に向かい言葉を発する
「 俺は十年以上修行を積んだ…なのになぜポッとでてきたお前らの方が、圧倒的に強いのだ! 認めん!俺はお前らを認めんぞ! 」
モルデは、右手の短剣を握り直し、ゆっくりとこちらに歩み出す
「 そうねえ、NPCは定められた強さしかない、成長できるプレイヤーにはいつか負ける…不公平よねぇ…でもモルデ、あなたは成長できるようになったのよ!罪を吸収し強くなったあなたなら、勝てるわ! 」
妖艶な笑みをうかべ、モルデを優しげな瞳で見つめる【色欲】
その時、俺達の前に進み出る大きな影があった
【伽藍】さんだ、ゆっくりと静かな口調で語りかける
「 ふむ、モルデよ、嫉妬に狂う程強さを求めるか? 」
「 当たり前だ!強く無くては蔑まれる、虐げられる! 」
「 ふむ、ならば強くなったらどうするのであるか? 」
「 決まりきった事!俺が蔑み、虐げるのさ! 」
高笑いを上げるモルデに【伽藍】さんは諭すように語りかける
「 モルデよ、それは真の強さとは違うのではないか? 」
「 何をたわけた事を!真のも何も関係ない!強ければ勝つ、勝てば勝った方が正義となるのは、世の常ではないか! 」
「 ふむ…拙僧も未だ修練の道半ば、正解には辿り着けぬ… 」
【伽藍】さんは、ゆっくりと両手を構え、ファイティングポーズを取る
「 だが、お主とは強さを求める道が違うと解った、お相手願う! 」
その言葉を聞いたモルデの唇が不気味につり上がる
「 ちょっと脳筋っ! 」
「 【伽藍】さん! 」
俺とみどりさんの声が同時に響く
「 【伽藍】さんに何か思う所があるのでしょう、お任せしましょう 」
「 うむ、済まぬのである 」
王子の言葉に、振り向かず感謝の言葉を告げる【伽藍】さん
「 ふふっ、いいわよ、楽しそうじゃない!私も手出しはしないわよ 」
【色欲】は楽しげに笑い、鞭を何処かにしまう
「 では、参る! 【闘士の咆哮】【剛の覇者】 」
攻撃力強化の重ねと防御力も強化し、間合いを詰める【伽藍】さん
「 いいぜ!かかってきなよ!お前も倒してやるよ! 」
笑みを浮かべ、駆けだすモルデ
距離が一気に縮む、【伽藍】さんは腰を落とし、左手を正面に伸ばし
右手を腰の辺りの添える型をとる
モルデは、低く態勢を取り、地を這う様な姿で接敵する
【伽藍】さんの構えから回避動作は無いと読んで
確実な脚を狙いにいったのだろう
モルデの攻撃が【伽藍】さんの右脚に当り、白いダメージエフェクトが浮かぶ、
「 ヒャハ!グべーーーーー 」
モルデが歓喜の叫びを上げようとした瞬間
ーーーーモルデの姿が消えた
「 【渾身の一撃】 」
それエクストラスキル!
HPの九十九%、SPの全てを使う攻撃スキル、使用後は2分間あらゆる回復が不可能の捨て身スキルですから! それ!!
普通PT全滅危機とかに『此処は俺に任せて、後は頼むぜ!』
みたいな場面で使う物じゃないの?!
この後の【色欲】戦はどうする!
「 脳筋…何も考えてないわね… 」
「 まあ、【伽藍】さんは全ての闘いは全力でが信条ですからね 」
「 お…おう… 」
俺達は、膝を付いた【伽藍】さんのカバーに走る
今HPは一%しか残って無い筈、一撃喰らえばアウトだ
カバーに入り、辺りを見回す
「 あれ? 【色欲】何処行った? 」
【色欲】が立っていた場所には誰も居なくなっていた
俺達が廻りを警戒しだすと、ホールの遥か後方で叫び声があがる
「 ふざけんじゃないよ!あんたら順序見たいな物があるでしょう! 」
声がした方に目を凝らすと、ホールの壁際で、モルデを抱きかかえた状態で寝転がっている【色欲】が見える、壁には無数の亀裂も走っていて
どうやらモルデが吹っ飛んできて、一緒に飛ばされたらしい
「 あら【色魔】そんな所で何のんびり寝てるのかしら? 」
みどりさんが、口調をモノマネしながら叫び返す
「 ふっざけんな!いきなり初撃から捨て身スキルとか有り得ない!もっと色々お約束の攻防とかあるでしょう! 」
「 うむ?初撃から全力で迎え撃つのは闘いの礼儀である! 」
膝を付いたまま【伽藍】さんが返す
「 聞いた事無いわよ!どこの闘いよ!もうっ! 」
【色欲】はモルデをのかし、起き上がろうと身をよじる
「……ちか…ら…がたりな…い… 」
モルデの瀕死の虫の羽音の様な呟きは誰の耳にも届かない
「 また…俺は…蔑まれ…疎まれるの…か… 」
モルデは、微かに動く右手にまだ短剣が握られてる事に気付く
【エヴァグリオスの懐刀】他の者の大罪を吸収し、自分の力に変える短剣
( ああ…なんだ…力ならそこにあるじゃないか…)
( 俺はまだ…負けてない…二度と蔑まれる側に戻るものか…)
モルデは残された力を込め、そっと【エヴァグリオスの懐刀】を
自らの身体の下にある物に突き差す
【色欲】の身体へと
「 今度は私、アーニャ自らがっ!ガッ?!モルデ?! ギャァァァ! 」
突如響き渡った【色欲】の絶叫に、俺達は身を固くする
「 な…なんだ?! 」
「 【色魔】どうしたの?! 」
「 警戒してください!【伽藍】さんのカバーを! 」
【色欲】の絶叫が止む頃、システムログが流れる
【 【深淵から簒奪する嫉妬】【モルデ】 が誕生しました 】
【 モルデは自由に動き回る人型ボスとなります 】
【 モルデに倒されたプレイヤーは、金銭、装備、経験値から 】
【 何か一つを簒奪されます、ご注意下さい 】
「 なんだ…モルデがボスに?! 」
「 どうなってるの?! 」
俺とみどりさんが叫びを上げる中
モルデはゆっくりと身を起こす
「 最高の気分だ! 力が溢れる! 」
叫ぶモルデの両眼は、深淵に渦巻く紅に染まって蠢いていた
モルデはゆっくりとこちらに歩みを進めながら
「 お前達からは何を奪ってくれるかな…ハッハー! 」
高笑いを上げる
「 ----させませんよ! 」
その時よく知った声が聞こえ、モルデと俺達の間にあった壁が
爆発したように吹き飛ぶ
「 黒子ちゃん?! 」
「 ガーネットさん?! 」
「 うむ!無事であったか! 」
それぞれが叫びを上げる中、土埃の中
小柄な少女の姿が浮かび上がる
「 ご心配をおかけしました! ガーネット無事帰還致しました! 」
小柄な少女は、なぜかこちらに敬礼をして笑顔をこぼす
その姿に安堵するも、一つ気になる物が増えていた
「 その首に巻いてる、白い狐の毛皮みたいなのは何? 」
「 失礼な!毛皮ではない! 」
「 うおっ!毛皮が喋った!! 」
ガーネットさんは、白い喋る毛皮を撫でながら、
にこやかに
「 えっとですね、ここの本来のボスの【忘れられた神】様です! 」
「「「「 はっ?! 」」」」
あまりの答えに固まる俺達、なぜかモルデも足を止め
ガーネットさんを見つめている
「 閉じ込められてたのを助けて貰って、ここまで来ました! 」
「 これ!頭を撫でるでないわ!できれば背の方も…ええい私は神じゃぞ」
「 信者さんは私しかいませんけどね~ 」
首に巻いた白い狐を撫でながら笑顔のガーネットさん
「 あの…どういう成り行きで? 」
「 はい!信者さんがいないと言うので、私が信者さんになって、お供えのイチゴショートケーキを供えたら、付いてきてくれたんですよ~! 」
ガーネットさん…
ボスモンスターをイチゴケーキで買収したのか…
今度wikiに万能アイテムとして書いておこう…
うーん…やらかしてしまった感が…




