首都潜入前
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麻痺させた白装束達を街道の脇に、纏めて置いてきて
俺達の馬車に老人を乗せて、暫く進んだ後
老人は今までの経緯を、目を閉じ、ゆっくりと話しだす
「 元々、大司教ゲルミウスは、片田舎の小さな教会の司祭じゃった…、
それが、数年前から急に、教皇府に登用され、あっと言う間に先代大司教の側仕えにまで登りつめたのじゃ… 」
「 うむ?! 側仕えから大司教になれるものであるか? 」
【伽藍】さんは小首を傾げながら尋ね
「そうですね、普通はありえないと思いますが…」
王子も【伽藍】さんと同じ疑問をもったようで
二人で、老人の方を向き直る
老人は、閉じていた目を開き、ため息をついて、話を続ける
「 普通はなれぬよ…何十年にも及ぶ研鑽と、人望がなければな… 」
「 ならば、なぜ? 」
老人の答えに、王子が尋ねる
「 あやつは、一つの事件をしかけたのじゃよ…大司教と枢機卿議会が
お互いを監視し合う立場だという事を利用してな…」
老人が語る事件は、
ある日、先代大司教が殺害された
その犯人として捕まえられたのが、ある枢機卿の身内で
証拠となる書類も押収された
その枢機卿は、大司教と政策で対立する事が多く
殺害された日も、直前まで大司教の部屋で言い争う声が聞かれていた
枢機卿は無実を訴える、
「信頼しているからこそ、言いあえるのだ!それが解らないのか?
俺が大司教を殺す訳がない! 」
しかし、彼は捕えられ、獄中で死に至ってしまう
証拠とされた書類には、他の枢機卿の関与を仄めかす部分もあり
枢機卿議会に不穏分子あり、と一時閉鎖されてしまった
「 そしてのお、奴は周りを買収し、一時的な代理大司教となるんじゃが
そこで教皇様が病に倒れたのじゃ…奴は、立場的に最高指導者となってしもうたのじゃ、そして自らを、大司教に改めて選出し、対抗相手もおらずに
まんまと大司教についたのじゃよ…」
苦虫を潰したような表情で吐き捨てる老人
奴の野望を甘く見過ぎておった…
最後に、そっとそう呟きながら
「 じゃあ教皇様の病ってのも? 」
俺の疑問に、王子が小さく頷く
「 間違いなく大司教の仕業でしょうね、古典的な力技ですが、あまりにもうまく行きすぎてますね 」
「 うむ! 予め準備が念入りに行われたのであろうな 」
【伽藍】さんの言葉に、老人が頷く
「 あやつに対抗した者や邪魔になりそうな者は、事前に中枢から遠ざけられたのじゃよ、わしも含めてな… 」
ため息をついた後、さらに老人は続ける
「 後手に回ってしまったが、教皇様を此方側に取り戻せば、
まだ教国は、元に戻せる…そう思い、わしは協力者を募る為に各街の
教会を巡っていたのじゃ、護衛の冒険者を雇ってな 」
その言葉を受け、今まで老人の横に控えていた
九人のプレイヤー達から、一人の男が前に進み出る
亜麻色の肩まで伸びた髪を一纏めに結った、軽装の皮鎧の男
「 挨拶が遅れちまった、俺達はPT【The sushi】で、
俺がリーダーの【鉄火巻き】っていうんだ、よろしくな!
で、こいつらが、右から【はまち】【甘えび】【あなご】【はまち2貫目】
【えんがわ】【まぐろ】【しゃこ】【天然はまち】っていうんだ 」
王子は、何か思い当たった様で
「 ひょっとして、元二鯖のギルド【回転寿司】の方々ですか? 」
「 おっ!知ってくれてる人がいるとは、嬉しいねぇ、その通りだよ! 」
軽装の男は、笑顔で、王子に握手を求めて、
王子も、にこやかに握手を返している
「 うむ!なかなか楽しいギルドだと拙僧も噂は聞くのである!」
あら?【伽藍】さんまで知ってるの?
思わず小声でガーネットさんに、知っているか尋ねる
ガーネットさんは小声で
「 攻略とかにも出て来る上位ギルドらしいのですが…寿司ネタというより…ただのネタプレイに走りがちらしくて、ある意味で有名なのですよ…
実力は高いらしいのですが…」
うん…メンバー紹介の時に、少しおかしいな~って思ったんだ…
ふと、護衛にいた残りの三人が気になったので尋ねる
すると、【鉄火巻き】さんは、顔をしかめながら
「 ああ…一人百八十台後半がいてな、デスペナの経験値マイナス七%喰らって、首都で途方に暮れてるよ… 」
VRに移行してもデスペナの経験値マイナスは変わらない
基本は五%だが、そこからオーバーキルダメージ分が加算される仕組みだ
高いレベルの経験値は、結構きつい、
レベル百五十から一気に次のレベルの必要経験値が跳ね上がる
ほぼ倍々ゲームのような経験値が並び、気が遠く成程で
六年続いてもカンスト者が、一握りの元凶でもあった
老人は、俺達の様子を眺めながら
「 知り合いじゃったか?ならばどうであろう、お主達も協力しては
もらえんじゃろうか? 」
ピコンッ!
機械音がして俺達の前に半透明の文字列が浮かぶ
【時限クエスト】
【囚われの教皇】
【首都の何処かに幽閉されている教皇を救い出せ!】
【成功 教皇の救出 失敗 ???封印 】
【残り日数 七日 別クエスト???と連動 】
【 受諾 拒否 】
「 なんだこれ… 」
俺の呟きに、皆も唸る
「 時間の区切りがあるのはいいとして、???って何だ?」
「 そうですね…連動と言う事は、他の事件にも巻き込まれる可能性もあると言う事ですね 」
王子の言葉に、【伽藍】さんが、笑いながら応える
「うむ! 面倒事大いに結構である! この筋肉でねじ伏せるのである!」
両腕に力瘤を作っての笑顔…
ガーネットさんは、高速頷きで同意してるし…
面倒事が更に増えそうな予感しかしないのですが…
「 受けてみませんか? 何か秘密があるかもしれません 」
受ける事に異論はないけど、今日はまだみどりさんが来ていない
「 みどりさんには、後で聞いてみましょう、教国には行くのですから 」
【鉄火巻き】さんが、真剣な顔で俺達にそっと告げる
「 俺達の集めた情報だと、教皇府を囲む十二の塔のどれかに幽閉されているらしいのだが…どの塔かまでは解らなかった 」
そういって肩を落とす
「 いえいえ、そこまでこの段階で絞り込めれば、助かりますよ 」
王子の笑顔の言葉に、俺達も頷く
「 とりあえずは、首都、そして十二の塔かな? 」
老人を含めた全員で、頷いて街道の先を見つめる
その時、場違いな声が響く
「 おまたせっ! みんな来てるっ?! って何?!これっ! 」
馬車の中から、紅いローブのみどりさんが顔を出し
今の状況をみて驚きの声をあげる、
ガーネットさんが、近づいていき小声で説明を始めた
「 えっ!ふむふむ…そうねっ!あのケーキは美味しかったわねっ! 」
ガーネットさん、何を説明にいったのですか…
「わかったわっ!私も賛成よっ!救出に潜入って事は、あの白亜の神殿
と白い塔に登れるって事でしょっ!乙女の夢に第一歩だわっ!」
訳のわからない理由を、力強く語り、ガッツポーズをとるみどりさん
ガーネットさんは、なぜか横で拍手を送っている
二人の行動理由がたまにわからないよ…
みどりさんの力説を受け、王子が結論を出す
「 私達PTも参加しましょう! 」
全員で頷く
「 ならばまず、首都へ!此処からなら飛ばせば、一日半で着きます 」
「 そうねっ! 時間制限があるなら早いに越した事は無いわっ!」
それぞれが、馬と馬車に乗り、先を急ぐ
馬のメンバーが先行し、首都の様子を探ってくる手筈になっている
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馬車が首都まで、あと数時間に迫った頃
先行していた、馬組が引き返してきて、悔しそうな顔をする
「 だめだ、モルデの奴らが先に首都に付いた様で、城門の警備が厳重すぎる、あれじゃあ首都に入れないぞ 」
焦った様子で、城門の様子を語りだす、【鉄火巻き】さん
「 ふむ、それは困りましたね 」
王子は、少し考え込むように腕を組む
「 夜になれば、俺とガーネットさんは侵入はできるけど? 」
アサシンのスキルで、夜になれば無数の闇の中を自由に動ける
二人なら、侵入自体は可能だ
「 いえ…少し待って下さい、そちらのPTの倒された三人は、首都に死に戻ってますよね? 彼らは拘束されていないのですか? 」
「 ああ…無事だ、三人は街中にいるが? 」
【鉄火巻き】さんの答えに、王子は頷くと
「 では、彼らにワープポイント付近の様子と、司祭服を幾つか買い求めて貰える様にお願いできますか? 」
そうか…死んだ場合、拠点登録していた場所に戻される
登録してない場合は、一番近くの村や、街に戻される仕組みだ
首都に戻された彼らが、街中で拘束されていないと言う事は
警戒は、城門に集中しているという事なのだろう
「 成程! わかった! すぐ調べさせるが、司祭服はなぜなんだ? 」
【鉄火巻き】さんは、すぐにPTチャットで呼びかけながら
首を傾げながら、王子に尋ねる
「 ワープポイントは、メルディオスさんは利用できませんからね 」
ワープポイントはプレイヤー達しか使えない
老司祭は、城門から抜けるしか方法がない
「 ワープポイント付近は、ほぼノーマークらしい、どうする? 」
「 ならば、三手に分かれましょう、一つは一番近いワープポイント都市から入る本隊、もう一つは、メルディオスさんを連れて行く別働隊、
あと一つは…囮として司祭服を着て街道に引きつける役目です 」
王子は、そこで一旦言葉を切り、皆を見回す
「 ワープポイントまではそちらのPTと連絡役にガーネットさん
別働隊には、街に戻っている三人、囮は、私達の残りでやりましょう 」
【鉄火巻き】さんが、慌てて、王子の意見に異を唱える
「 そいつはいけねえ! 相手は何十人、下手すりゃ百人単位ででてくるんだ! 一番危険な役割を、そっちのptに負わせるなんて! 」
心配してくれるその言葉に、少し嬉しくなる
「 大丈夫だよ、ありがとね【鉄火巻き】さん、俺らなら平気、逃げ切って近隣都市から、すぐ追ってワープポイントに入るよ 」
笑顔で彼らに告げるが、彼らの心配気な顔は変わらなかった
そんな彼らに、王子がゆっくりと優しげに告げる
「 危険だからこそ、私達がいくのですよ、最悪数百人と戦闘になっても切り抜けれますからね 」
王子がにこやかに告げる
「 ただ…そうなってしまえば手加減が難しいので全滅させてしまうかもしれませんね…あまりこの世界の方々は傷付けたくなかったのですが… 」
王子の自分達より、数百人になるかも知れない敵の心配をする言葉に
彼らPTが固まる
「 あんたらは一体…? 」
王子はにっこりとほほ笑んで
「 只の通りすがりの隠居していた冒険者ですよ 」
「 そうよっ! 水戸のちりめん問屋よっ! 」
王子の言葉を受けて、みどりさんが、腕を腰に当てながら
胸をそらす、それを受けてガーネットさんが
懐やポケットをまさぐり、
ある物を手に皆の前に突き出す
小さな呟きと共に
「 あっ…とりあえずこれでいいですかね… 」
【 ケーキショップ ローズマリー 特別優待会員証 】
「 ひかえおろう…このお方は、帝国首都のケーキショップの全メニューを一日で制覇されたみどりさんである…他にも色々ーーむぐっ… 」
「 やめてっ! 黒子ちゃんやめてっ! お願いっ! 」
みどりさんは、顔を真っ赤にしながら、ガーネットさんの口を押さえる
その様子に苦笑を浮かべつつ、
呆然としている【The sushi】メンバーに言う
「 そんな訳で、俺らは平気だから、安心して 」
「「「「 どんな訳?! 説明になってねえよ! それ! 」」」」
大声で彼らに、一斉に突っ込まれる
王子が苦笑しながら、
「 カンストプレイヤーが複数いますから 」
「 な…そうなのか?!一人でも珍しいのに、複数もか…」
「 ええ、だから安心して任せて下さい、では作戦に移りましょうか 」
王子の言葉で、俺らは各自の行動班に分かれて動きだす
昨日、書いてる途中で寝てしまいました…すいません
久々にPCに突っ伏して寝てました…