教国への旅路
教国編に入りました
読んで頂きありがとうございます
少しでも楽しんで頂ければ幸いです
のどかな丘陵地帯で南北に走る街道を、ゆっくりと走る幌馬車
帝国から、随分と北に進んだためか、遠くに見える森達も
針葉樹が目立つ様になってきた
【ミスルバ教国】【首都ミネヴァ】までは、あと二日程の距離だ
帝国を出発する時に、首都から、もっとも教国に近い街まで
ワープポイントで飛んで、そこからレンタル馬車で旅路に出たため
予想より遥かに早く着く事ができそうだ
「【うーちゃんJr】も【まーちゃんJr】も御苦労さま!今日、泊る予定の街までは夕方までに着けばいいから、ゆっくりでいいよ!」
そう声を掛け手綱を緩める、二頭ともつぶらな瞳が可愛い栗毛のお馬さんで馬車を引く姿も、可愛らしい
ただ、二頭に名前を付けた時に
「もうっ!変人っ!今日はログアウトして寝なさいっ!きっと仕事で疲れてんのよっ!」
みどりさんに、半分呆れられ、半分は本気で心配されていた事を思いだし
苦笑する、そのみどりさんだけが今日はまだログインしていない
馬車の速度がゆるゆると落ちて行く中、王子から声がかかる
「どうです?みなさん、時間も余裕がありますし、ここら辺で昼食にしませんか?」
「うむ!いい景色であるな!賛成である!」
「任せて下さい!そういう事もあろうかと、アイテムボックスの空きに全部お弁当を入れてきました!」
にこにこ笑いながら、次々とサンドイッチやら、アップルパイやら色々な物を出現させるガーネットさん
その姿に微笑ましく思いつつも、苦笑が浮かんでしまう
「うむ!いくつもってきたのであるか?」
【伽藍】さんも、苦笑しつつ聞くと
「えーとですね…二十種類程ですよ!」
元気よく笑って答えるガーネットさんに、俺もついでに尋ねる
「へえ~、けっこう持って来たね、数はどれ位なの?」
「はい!上限九十九個づつですよ!なので安心して下さい!」
そっかー、一つのアイテム欄の上限の九十九個ずつかー
そりゃー安心だな……
お弁当って量じゃねえよな…それ…
千九百八十個…
そりゃ腐ったりはしないけどもね…
「う…うむ!豪気であるな!」
「凄いですね、暫くは食糧には困りませんね」
予想以上の量に、皆、少し戸惑いつつも、笑みを浮かべ答える
しかし、ガーネットさんは更に追い打ちを掛けて来た
「でしょう!みどりさんはもっと買ってました!お気に入りのケーキ屋さんの全棚買いしてましたよ!」
大人買いすぎんよ…みどりさん…
ガーネットさん以外のみんなが、固まっている間に
テキパキとガーネットさんは、テーブルとイスを、街道わきの草原に並べ始める
「さあ!なんでもありますよー!照り焼きチキンやイチゴケーキも!あっ…イチゴケーキはできれば少なめで…」
そう言って、手元にあるイチゴケーキを見つめる
あー…好きだもんな、ガーネットさん
「じゃあ、ガーネットさんのお勧めを頂きましょうか」
「うむ!お任せで頼むのである!」
「じゃあ俺も、任せるよ!」
「んー…じゃあお気に入りのケーキ屋さんのアップルパイと、
【黄金の羊亭】特製サンドイッチでいきましょう!」
にこやかに宣言するガーネットさんだった
昼食を始めて暫くして、街道を一台の豪華な造りの馬車が過ぎてゆく
護衛のクエストだろうか?、その周りには十二人のプレイヤーが
守る様に馬に乗りながら、進んでいた
「フルPTで護衛クエストとは、凄いな…」
王子が入れてくれた紅茶を飲みながら、思わず呟きが漏れる
普通の護衛クエストなら六人もいれば、事足りる場合がほとんどで
それが、十二人、PT人数の限界までとなると
難易度がとても高いのかもしれない
「そうですね、先頭のレンジャーらしき人も、かなり慎重に索敵しながら進んでますよ」
豪華な馬車を守る馬達より、さらに二十m程先に、先行して弓を背に持つ
レンジャーらしき人と、軽装の皮鎧の人物が、ゆっくりと馬で進んでいる
「うむ!ローグ系とペアで、索敵漏れが無い用にとは、慎重であるな」
【伽藍】さんも、腕を組みながら感心したように答える
ガーネットさんは、小首を傾げながら
「そこまでして、護衛する人物って誰なんでしょう」
その疑問は当然浮かんでくる、装備や配置、動き方をみても
新規プレイヤーではない、移行組がフルPTで慎重に護衛する人物
色々クエストを思い浮かべてみるが、二D時代に思い当たるクエストは
無かった、新しいクエストだろうか
「何にせよ、彼らのクエストの成功を祈る事にしましょう」
その王子の言葉に、皆で頷くしかなかった
豪華な馬車の一行が過ぎて、暫くして俺達も出発しようとしたが
王子が、先のPTに追いつく可能性が高いので
もう少し遅らせましょう、という提案で、また少し紅茶タイムに入っていた
牧歌的な丘陵地帯の広場で、何気ない世間話を始める
「そういえば、王子ってこういう牧歌的な景色好きだよね?」
何気なく王子に話を振る、王子が紅茶を飲んでるのは何時もの事だが
牧歌的な景色に出会うと必ず、その景色の中で休憩を提案してる気がする
まあ…誰でもこういう景色は好きだし、深い理由はないんだろうけどね
「そうですね、子供の頃を過ごした場所がこういう感じで懐かしいんです」
そう言って王子は微笑む
そうか、子供の頃に過ごした景色ならしょうがないな、
懐かしいもんな、そう納得していると
「うむ?子供の頃であるか?ここまでの自然の景色とは何処であろうか?」
【伽藍】さんは、飲んでいた紅茶の手を止め、尋ねる
「あれですよ!北海道とかじゃないですか?写真でみました!あとは南アルプスとか!」
ガーネットさんは、笑顔で、ちょっと『私わかっちゃいましたよ!』
みたいなドヤ顔で答える
あー…そこら辺ならありえるかなー
あとは、逆に南の方の田舎もノンビリしてたなー
仕事の出張でいった九州の田舎の方を思い出す
王子はそれを、にこやかに聞いた後で
「いいえ、カナダですよ、モントリオールの近くです」
そっかーカナダかー、いい所だもんなー
田舎の方じゃ、マイカーとかないと、一日数便のバスしかないんだろうな
雪とか凄いんだろうなー、お婆さんとか、雪下ろし大変だろうな……
んー… 俺、耳がおかしくなったかな?VR機の故障かな?
今、なんか外国の名前が聞こえた気が…
「うむ?!なんと王子殿は外国の方であったか?!!」
【伽藍】さんも、驚いたのか大きな声をあげる
よく聞こえるな、VR機の故障じゃないな
「え?!まさか本当に王子様なんですか!」
ガーネットさんも、口に手を当てて、驚いた表情を浮かべる
ハッハー!ガーネットさん、カナダは王政じゃないぜ!
「いえいえ、父が日本人、母がカナダ人のダブルですよ」
王子は、にこやかに俺らに告げる
うん…聞き間違いじゃなかった!
俺の心にある物が浮かぶ
【悲報】王子はリアルでも王子様と判明【爆ぜろ!!】
いやいや、仲間にそんな事をいっちゃいけないぞ、俺…
まだ確かめてないじゃないか…
恐る恐る尋ねる
「王子…まさかそのアバターって?」
王子は、意外な事を聞かれた様な顔をして
王子自らを指差しながら
「アバターですか?修正が面倒なのでそのままを取り入れたのですが
なにかおかしいですか?」
なんだってー!!王子…自分の外観のインパクトに気付いてない?
その衝撃の言葉に、他の皆も固まる
「う…うむ、王子殿はリアルでは目立つであるな…」
【伽藍】さんも動揺したのか、少々ずれている言葉を発し
「私の学校の友達でも、ダブルの女の子がいます!お人形さんみたいです!その娘も、二D版はやってたんですよ!サーバーが違って会えなかったんですけど、その娘、VR先行も外れちゃったんですけど…」
ガーネットさんは、元気に手を上げて、満面の笑みでそう告げる
「おや?そうなんですか?!いつかお逢いしたいですね」
そういって王子も微笑み返す
ガーネットさんは『本当にかわいいんですよー!えへへ』
となぜかガーネットさんが照れている
俺は…
俺から王子にいえる事は、ただひとつ…
魂から力を込めて叫ぶ!
「王子っ!このリア充候補めっっ!爆発しー『ドゴォォォォン!!!』」
俺の魂の叫びと同時に、凄まじい爆発音が響き渡る!
やばい!俺の魂の力が、王子様を倒してしまった…
「街道の方です!先ほどのPTかもしれません!行きましょう!」
「うむ!この爆発音は大魔法級である!急ぐのである!」
「馬車の準備おっけーです!」
王子の叫びと共に、皆が一斉に、戦闘態勢を整え馬車に乗りこむ
「アシッドさんもはやく!」
そうですよね…VRですもの
魂の力なんてなかったですよね…
リアルでもあるのかわかりませんけど…
「わかった!今行くよ!」
とりあえず、最後まで聞かれなくてよかったと思おう
そして俺達を乗せた馬車は、街道を駆けて
爆発音のした方角へと進んでいく
お読み頂きありがとうございました
王子様の秘密が一つ明らかに!