【亡霊の古城】前篇 古城の市街地
古城の入り口編です
ダンジョン【亡霊の古城】
そう名付けられた蔦と苔に覆われた古城と昔は城下町として栄えたのであろう廃墟を見下ろす、廃墟群は、森に囲まれた静かな山間にあって
異様な存在感を漂わせていた
その廃墟群を見下ろす、小高い丘の上に、俺達のPTは佇んでいた
「あれが新ダンジョンすか、雰囲気があるっすね…」
後輩アサシン君はそういって、手にしたカタールを握り直す
カタールの刃の部分には、獅子の紋章が意匠されていて、何らかのレアなのだろう、
「なによっ!古城っていうから期待したのにっ!ただの廃墟群じゃないっ!
ロマンスを返してっ!」
みどりさんは目の前にある古城に納得できないらしい…
ガーネットさんも、がっかりした表情でコクコク頷いている
「うむ!強敵が楽しみである!」
【伽藍】さんは、両手に巻いた【聖骸布?の手甲】を
ゆっくり左右の手で、嵌め直しながら、豪快に笑う
「さて、侵入する前に、情報と装備の確認をしましょう」
王子はそういって皆に微笑みかけた
今回、挑戦にあたって、プリースト系がいない自分達のPTは
回復薬と聖水を各自二百本程準備はしてきた、
ただ回復薬に関しては連続して使用していくと徐々に回復量が落ちて行くので注意が必要だ、俺達は各自装備を点検し直して、オッケーサインを出す
「次は情報を整理しましょうか」
王子が集めて来た情報は、このダンジョンに一番近い街【アレッド】で
集めて来た物で、この街までは初めてワープポイントを使って来たのだった
VRになって初ワープポイントと言う事で期待していたが、あっけなく移動してしまって、がっかり…
【亡霊の古城】は四百年程前に建てられたお城で、そのすぐ後の城主が、より街道に近い所に、城を立て直したために放棄された城だった
本来なら【亡霊の古城】となるべき由来もないはずである
しかし二百年程前から急に、死霊系の魔物が住み始め、
それに惹かれるように周りに魔物が集まり始めたらしい
「というのが集めた情報ですが、魔物が集まり始めた理由が謎ですね」
王子様は少し、小首を傾げながら呟く
「うむ!制覇すればわかるのである!」
コクコク頷くガーネットさんと豪快に笑う【伽藍】さん
「そうよっ!乙女の夢を踏みにじった罪は重いわよっ!」
そういって古城を指さすみどりさん
その責任は古城にあるんでしょうかね…
「アシッドさんとこって色んな意味で凄いPTっすね…」
初体験のこのノリに、少し驚き気味の後輩君に、苦笑いを浮かべながら
「でも、楽しいでしょ?こういうのも?」
そういって後輩君と王子様を見ると、王子様も微笑みながら
「ええ、楽しいですよ、いつも通りです」
「マジっすか…上級ダンジョンにそのノリでいけるんすか…」
まだ戸惑っている後輩君にも笑みを向けつつ、みんなに声を掛ける
「とりあえず!いってみよ!」
「「「「 おう 」」」」 「凄いっすわ…」
城門とおぼしき場所に辿り着き辺りを見回す
城壁は所々崩れていて、町並みは崩れていて、瓦礫の山を晒している
「とりあえず私と【伽藍】さんが前を行きます、中盤にみどりさん、ガーネットさん、後輩さんで、最後尾をアシッドさんで行きましょうか」
そう言って王子様は、大きな武骨な両手剣を取り出す
「うむ!任せるのである!」
「わかったわっ!フォローは頼むわよっ!二人ともっ!」
「がんばるっす!足手まといにならない様にするっす!」
ガーネットさんは既に両手に短剣を持ち、臨戦態勢だ
「最後尾は任せて」
自分も両手に【シャドウペイン】を握る、上級ダンジョンだし油断はできない、まだVR内では蘇生アイテムは実装されていない、倒れたらそれまでで街まで戻りである、プリースト系スキルでは存在しているが、自分達のPTでは倒れたらそれまでだからね…
城門を潜り、前方に見える古城までゆっくりと進行し始める
崩れた街並みを、臨戦態勢のまま動く
最後尾から、後方を警戒しつつ、ついていく
「うむ!右から敵影ありである!」
その声に、右前方を見ると、禍々しい二m程の漆黒の鎧がこちらに
ゆっくり進んでくるのが見える、首に当たる部分が無く、手には片手剣をもち、瓦礫の山を越え、距離を詰めてきている
「デュラハンですか、なかなかのお出迎えですね」
そういって両手剣を構え直す王子様に、声がかかる
「ちょい、いいっすか!一匹だけなんで挑戦させて貰えないっすか?」
後輩君が名乗りをあげる
「でも後輩君レベル的にきつくない?」
心配でそう声をかける、後輩君はまだ八十台に届くかどうか
デュラハンは百四十程のレベルで、差は倍近い
他のみんなも心配そうに見つめているが
「大丈夫っす!タイマンならレベル差も越える!それがアサシンっす!」
笑いながら後輩君はカタールを胸のあたりに構え直し、低く構える
「うむ!心意気やよし!危なくなればフォローするのである!」
「ありがたいっす!ではお言葉に甘えてっ!」
後輩君は一気に駆けだす、五m程あった距離は一気に詰まり
デュラハンも剣を上段に構える
「遅いっす【ブレイクポイント=レッグ】」
後輩君は、言葉と共に地を這うように潜りこみ、右手に握ったカタールを、デュラハンの右脚に叩きつける
右脚を払われ、よろけるデュラハン
「ブレイクもらいっす!【ブレイキング=ラッシュ】」
低い姿勢から一気に、せりあがりカタールを連続で叩きつける
六連続で切りつけた後、バックステップで二m程距離をとり
「効かないっすか!流石に堅いっすね…」
後輩君は苦笑いを浮かべる
流れる様な一連の動きに目を奪われていたが、
使用したスキルは二つとも知らないスキルだ、
「後輩君?今のは…」
「今の?ああ、ブレイクっすか、よろけやスタンスキルっす!本当はラッシュもブレイクとカタール系のラッシュの融合スキルで六連撃の全てにブレイク効果あるんすけど、耐えられちゃった感じっすね…」
そういって苦笑いする後輩君
ガーネットさんも驚いた様で、なぜか後輩君を指さしながらこっちを見ている、多分言いたい事はわかる
移行組のスタンやよろけを誘発するスキルは全て【シャドウウォーク】で潜るという前提が必要だ、新規組にはそれがない
そして融合したというスキルには六連撃全てにスタン効果があるというのだ
同じ職業として新旧混ぜられているがまったくの別職だ…これは
「私も行ってもいいですか…」
ガーネットさんが王子様に尋ねる
「黒子ちゃん!無茶はしちゃ駄目よっ!」
みどりさんは心配しているが、ガーネットさんは後輩君のスキルに刺激を受けたのか、両手の短剣を握りしめ、デュラハンをみつめる
「ええ、構いませんが後輩さんもよろしいですか?」
「頼むッす!堅いんで削りきれないっす!」
後輩君はデュラハンの攻撃を避けながら叫ぶ
その言葉が終らないうちにガーネットさんの姿が一瞬の影を残して掻き消える、
「消えたっす?!!」
「いや、そこにいるよ」
俺が指さした先は、デュラハンの真後ろ、一瞬で五m程の距離を潜り
背後をとったのだ
「【パニッシング=アサルト】」
ガーネットさんはその言葉と共に両手の短剣を、深々と鎧のある一点に突き刺す、移行組のアサシンの最上位スキルの一つで
影を潜り、相手の急所を突き、大ダメージを与えるスキルで
【シャドウウォーク】状態からのみ発動できる
急所に二本の短剣を突きたてられたデュラハンはゆっくりと崩れていく
「まじっすか…一撃っすか…」
呆然と消えゆくデュラハンを見つめる後輩君
ガーネットさんは二本の短剣を拾い上げたながら
「ん…私も一応高いレベル…」
はにかみながらそう言ってこちらに歩いて来る
「うむ!見事である!」
「すごいのねっ!黒子ちゃんっ!驚いたわっ!」
「見事でしたよガーネットさん」
「あー…悪い…」
俺はある事に気付き、この雰囲気を壊すのを躊躇いつつも手をあげる
「なによっ!どうしたのよっ!黒子ちゃんの活躍に異論があるのっ!」
いや…みどりさん異論はないんだよ…
見事だったよ…ただね…
「異論はないんだけど…騒ぎすぎちゃったかなって…」
そういって周りを見回す俺に釣られて皆も周りを見回して気付いた様だ
「これは見事に遠巻きに囲まれてますね」
「うむ!包囲されているのである!」
「もうっ!気付いてたなら早く言いなさいっ!」
いやあ、言おうとしたんだけど…
なんか盛り上がってたから…つい…
周りを遠巻きに瓦礫の山の向こうに佇んでいるのは
五〇以上のデュラハンと黒いローブに身を包んだ魔術師の様な影が十体程
(あー…あれはリッチ系かなあ…面倒だな…)
「もうっ!面倒ねっ!纏めて蹴散らすわよっ!」
みどりさんはそう言って、銀色の指輪を煌めかせながら
廃墟をさらに破壊し、灰塵と化すべく範囲魔法を繰り出し始める
降り注ぐ隕石の雨に、吹き荒れる吹雪、空からは雷が降り注ぎ
まさに天災の集中砲火
「みどりさんが前に言われたみたいに綺麗ですね」
「うむ!百花繚乱である!」
コクコク頷くガーネットさん
「なによっ!あんた達働きなさいよっ!こらっ!王子っ!ティーセット出してくつろごうとしないで手伝いなさいっ!」
「凄いっす…半端ないっす…」
「あっ…王子、俺も【伽藍】さんからもらったリスさんがあるんで大丈夫ですよ…」
ティーカップに入れた紅茶を渡そうとしてくれた王子様に断りをいれ、俺もリスさんバージョンを出して、腰を下ろす
「もうっ!ほっっっんとに働きなさいよっ!怒るわよっ!」
「うむ!みどり殿、あっちがまだ生き残りがいるのである!」
「えっ?!どこよっ!あそこねっ!【メテオストーム】……もうっ!」
「私こんな事もあろうかと、サンドイッチを準備してたのです…」
そういってサンドイッチを出して配りだすガーネットさん
「マジっすか…あっ頂きます…上級ダンジョンがピクニックすか…」
後輩君は唖然としつつ、サンドイッチを受け取っている
「みどりさんの分もあるので安心してくださいね!」
笑顔でガーネットさんはみどりさんに手を振る
「もうっ!黒子ちゃんっ!私が怒ってるのはそこにじゃないのよっ!!」
みどりさんはまだ色々範囲魔法でお忙しい様だ
「まだダンジョン入口ですからね、本番は城の中からでしょう」
王子は紅茶を飲みつつ、古城を見つめる
「うむ!あの城には異常な瘴気があるのである!」
コクコク頷くガーネットさん
ガーネットさん…絶対瘴気とかわかってないでしょ…
だって今卵サンドかハムサンドにするか、
どれにしようかな神様の言う通りって指を動かしながら頷いてたもの…
「ちょっとっ!誰かそろそろきてよっ!スキルのクールタイムもあるのよっ!もうっ!私は卵サンド残しといてっ!」
意外と余裕あるじゃないか…
とはいえ任せきりも悪いので、立ち上がり敵に向かっていく
「交代ねっ!後は頼むわっ!私の卵サンドはどれっ!」
ちょ!今度は俺だけになるのかよ!
罠かあああ!!
とりあえず、近くにいるデュラハンを切り倒しながら
残りを探す、ほとんど片付いていたが、さっきからの魔法で
別の地域からも、ここに来てる感じがする
後から後から湧いてくる敵を切り倒しながら、移動していると
後ろから声がかかる
「アシッドさん、食後のケーキもありますからねー」
ガーネットさんの声が遠くに聞こえた
ケーキまで持ってきていたのか…
今度からおやつは禁止だな…
「チーズケーキ残しといて!」
そうとりあえず叫び返す
「まだまだ余裕ねっ!任せときましょっ!」
みどりさん酷い!
俺が交代出来たのはそれから、さらに十分程後の事だった…
市街地の敵を一時的に殲滅した俺達は
ダンジョンの本体ともいえる古城の入り口の扉を潜る
市街地はダンジョンの入り口部分に当たります
明日は仕事の都合で投稿できないかもです、すいません
明日できなければ、明後日の昼位に投稿予定です