ケーキ屋さんにて
ちょっとみどりさんネタです
「とりあえずっ!この棚のケーキを全部ちょうだいっ!」
そう言って私は、最近お気に入りの中央広場にあるケーキ屋の一番上の棚を指さす、このケーキ屋さんは、オープンテラスがあって、そこで行きかう人々を見ながら、食べるのが日課になっている
「そんなに頼んでも大丈夫ですか…」
少し不安げに黒子ちゃんこと、ガーネットちゃんが呟く
私は少し大げさに、二段目の棚を指さしながら
「なにゆってるのっ!まだまだ全種類制覇までの道は続くのよっ!」
そう言って全部で六段ある棚を順番に指差していく
「全種類制覇…夢ですね…」
「そうよっ!大人買いよっ!自分へのご褒美なのよっ!」
そういって五つの大きなお皿に次々並んでいくケーキを見つめ
二人でにんまりとする
「まずは第一歩よっ!最初の敵、一段目20種類を倒すわよっ!」
「はっ!了解しました!」
黒子ちゃんはそう言ってテーブルまで大皿を運び出す
あとは紅茶を頼んで二人で次々運んで行く
オープンテラスの一番広場よりの特等席が二人のお気に入りだ
黒子ちゃんは、なにかと私の我儘に付き合ってくれる
お城が見たいと言えば付いてきてくれるし、
今日みたいに食べに出かける時も付いてきてくれる
ずっと長い期間、ゲーム内で人付き合いを避けてきたけれど
黒子ちゃんと居ると少しずつ、今まで人と接する事を避けて来た事が
馬鹿馬鹿しく思えてくる
「どうしました?みどりさん?イチゴケーキたべちゃいますよ?」
アップルタルトを頬張りつつ、黒子ちゃんが尋ねてくる
フォークはすでに、イチゴケーキをロックオンして
あとは仕留めるのみの状態だ
「いいわよっ!ちょっと考え事してたから、イチゴは譲るわっ!」
そういって、黒子ちゃんに笑いかける
「ほほほ本当ですか!ラッキーです!イチゴさんげっとー!」
そう言ってイチゴケーキを仕留めにかかる黒子ちゃんを見てると
自然に笑みが増していく
(あの頃の私もこれ位、純粋だったらなあ…)
遠い過去に思いを馳せる
私がこの紅いローブを纏う前、叩き用の杖も無くて
多くのギルドメンバーに囲まれていたあの頃
二D時代のさらに遠い昔
私は、その時の時点でそこそこ高いレベルのプレイヤーではあった
けれど狩りやGV、ボス戦などより、
ギルドメンバーとわいわい溜まり場で話をしているのが好きだった
世話焼きのギルマスがいて、よく初心者さんを拾ってきては
あれこれ面倒を見ているうちに、初心者支援ギルドなどと呼ばれだした
ギルドメンバーも面倒見のいい人が多く、初心者さんを支援していくのに抵抗も無く、それがギルドカラーになり、馴染んでいった
(楽しかったなあ…毎日大騒ぎだったなあ…)
紅茶を新しく注ぎ足し、広場を行きかうプレイヤー達に視線を移す
真新しい装備に身を包み、四,五人のPTメンバーと
次に行く狩り場について、賑やかに笑いながら話しあっている
(新規組ね…ふふっ、みんな楽しそうでいいわね…)
思わずこぼれた笑みを隠すように、紅茶を一口飲みながら
まだ、今のプレイヤー達の様に過ごせたかつての日々を思い出す
ギルドは徐々に大きくなり、最初の頃に初心者でギルドに入ったプレイヤー達も、中堅所になってギルドの幹部になっている者もいた
初期メンバー達は高レベルになりギルドとしての装備も充実してきた
そんな時、世話焼きのギルドマスターが、初心者から幹部になった者達に声をかけた
「みんなもそろそろボスとか色々挑みたいだろうから、ギルドから貸出もするから気軽に申し出てくれ!」
他の初期メンバーも、中堅レベルから一気に遊べる範囲が増えるので、その提案を歓迎した、もちろん私も…
そして、その中堅プレイヤー達は、ギルド倉庫から多くのレアやレジェンド級装備を借り出し
「これでボスに挑んできます!」
そう笑顔で言い残し、消えた
そう、いなくなったのだ…充実してきた資産や装備と共に
もちろん私達は居なくなった人達を探した
世話焼きで人のいいギルマスは二-三日は信じて待っていたが
結局誰も戻らなかった
仲の良かったギルドも、ギクシャクし始めて
人もどんどん去って行った
私はまた楽しかったあの頃に戻れないかと必死で話して回ったが
壊れてしまった歯車は戻らなかった…
そんなある日私は掲示板で、ある変化を見つけた
今までGVで下位だったギルドが急激に力を付け
中堅まで上がって来たのだという
そしてその補強された装備が、私達のギルドから
持ち出された物と、一致する事も
思い出に引き込まれているとふと声を掛けられた
「みどりさん?どうしたんですか?イチゴの事怒っちゃいました?」
そういって黒子ちゃんが首を傾げながら恐る恐る聞いて来る
「違うのよっ!怒っては無いわよっ!ちょっと嫌な事を思い出しただけよ」
紅茶をもう一口飲みながら、レアチーズケーキにフォークを伸ばす
「大丈夫ですか?嫌な事はドーンと食べて吹き飛ばしちゃいましょう!」
そういって笑顔で、残りの大皿を指さす黒子ちゃん
(そうね…思い出せても、戻る事は出来ないものね…)
「わかったわっ!ドーンといくわよっ!黒子ちゃん!」
フォークを構え臨戦態勢に入り、黒子ちゃんに笑いかける
黒子ちゃんは笑顔で、コクコク頷いている
(ありがとね、黒子ちゃん、黒子ちゃんとかのお陰でまた人と過ごす楽しさを思い出したわ…、今のPTメンバーにも感謝ね…何があっても受け止めてくれる王子、なんでも笑って吹き飛ばす脳筋、結局いつも付き合ってくれる変人に黒子ちゃん…)
次のケーキを二人でロックオンしつつ思う
(でも…まだ私を守る棘は外せないの…)
人を信じて裏切られて辛い思いをするなら
最初から近づけなければいい、そうすればもうあんな思いはしなくても
済むかもしれない、自分勝手な言い分だと分かりつつ
私は、人と接する事から逃げた
大好きだったギルドからも離れ、一人で過ごした
棘を出し、茨を纏い誰も近寄らせない様に…
そして私は、気づけばカンストプレイヤーになっていた
一人きりで…
その時の私にはどうしても許せない事があった
持ち逃げ犯とおもしきGVギルドに話を聞きたかったのだ
そうして聞きに行った先で待ってたのは、冷笑だった
「証拠もねえだろ!w」「信じる方が悪いんだよ!w」
「言い掛かりはよしとくれwみーちゃんよw」
みーちゃん それは初心者支援ギルドでの私の愛称だった
嘲笑するつもりで放ったその相手の一言が
私の棘をさらに鋭くした
それから数カ月後
私はそのギルドが所持する砦を落とした
魔法は全て対ギルド用に範囲魔法に
杖は殴れば相手を激痛で行動不能にするネタ武器と言われた物で自衛して
アーティファクト装備の銀の大罪の指輪と真紅の煉獄のローブを纏い
近づく物は杖で殴り行動不能にし、範囲魔法で殲滅し
煉獄のローブで攻撃を反射しながら
そして二つ名を頂いた
【紅棘姫】 近づいてはいけない触れてはいけないプレイヤー
私の望んだ結果だった…はず…
「ほら!みどりさん考え事は駄目ですよ!ケーキ無くなっちゃいますよ!」
「えっ!まだまだよっ!二つ目の棚もいくわよっ!」
「えーーー!!!」
そういって、椅子からずり落ちて行く黒子ちゃんを見ながら
微笑みを浮かべる
(やっぱり誰かと一緒の方が楽しいよね…我儘だね…私は)
「わかったわっ!今日はこれぐらいにしとくわよっ!そしてみんなで新ダンジョンの【亡霊の古城】に行かないか誘ってみましょうっ!」
そう言って食べ終わった大皿を重ね始める
「ほほほ本当ですか!新ダンジョンいけるんですか!」
すり下がっていた椅子から、ピョンと跳ね起きる黒子ちゃん
そして両手をぶんぶん振りながら興奮している
「ええっ!お城よっ!古城よっ!ロマンスの香りよっ!」
そういって黒子ちゃんに笑いかけながら、大皿をかたずける
「うちの男達に頑張ってもらうわよっ!頼りになるからねっ!」
その言葉に高速でコクコク頷く黒子ちゃん
「じゃあっ!いったん戻ってみんな捕まえるわよっ!その前にPTチャットいれとくわっ!」
「ねえっ!みんなっ!新ダンジョンの【亡霊の古城】いかない?」
「いいですね、久々に暴れますか」王子様が
「うむ!任せるのである!制覇一番乗りである!」脳筋が
「あー…ちょい準備する時間をもらっていい?」変人が
「いきます!」黒子ちゃんが
「黒子ちゃんは横にいるんだからPTチャットじゃなくてもいいのよ…」
私のその言葉に、ハッとした顔になって真っ赤になる黒子ちゃん
「ごめん、一人追加してもいいかな?」変人が聞いてきた
「どうしたのよっ!誰がくるのよっ!」
「後輩アサシン君なんだけど…」
あの人か…軽いノリは好きじゃないけど、人柄はいいのは何回か合ってわかってるし、新規組の闘い方は初見になるのよね…
「いいんじゃないんでしょうか?新規組の闘いも見たいですし」
「うむ!戦友は歓迎である!」
「いいわよっ!前衛特化PTねっ!」
コクコク頷いている黒子ちゃん
「黒子ちゃんも頷いてるわっ!」
「ありがとみんな、じゃあ宿屋集合で」
PTチャットを終えて黒子ちゃんに向き直る
「いくわよっ!乙女の夢にっ!」
「はい!」
そうして私は歩き出す、
また出会えた仲間と呼んでくれる人達の元へ
次回は新ダンジョンに挑む予定です、後輩アサシン君が参加して新規組との初PT予定です