大地の女神の記念日
読んで頂きありがとうございます、昨日投稿するつもりでしたが出来ずに反省…
翌日、朝一番に図書館に出かけたが、本は無いままだった
しょんぼりしてしまったガーネットさんに王子様が声をかける
「本が存在する事はわかったのです、他の図書館や本屋でも見つかりますよ」
そう言って優しく微笑みかける
「そうよっ!黒子ちゃん!きっと見つかるわ!」
みどりさんは朝ご飯を準備しながら声を掛ける
「うむ!拙僧も本屋巡りを手伝うのである!」
【伽藍】さんも言う…ごめん本屋さんにいるイメージが…
「とりあえず、今日は冒険者ギルドの方を見てくるよ」
そういって食事を終えた俺は南門へと向かう
冒険者ギルドは南門の側にあり、多くのプレイヤーが出入りいていた
その中に以前丘陵で見かけた皮鎧の男を見つけたので話しかける
「おはようございます!この前はどうでした?」
「あっ!この前はどうも!いやあ駄目でしたよ、街道沿いに進んでたんですが、でっかいトカゲみたいな奴にやられましたよ!」
そういって皮鎧の男は苦笑いする、他のメンバーは各自遊んでいて、彼は何かいいクエストはないか探しに来たらしい
せっかくなので一緒にクエストの掲示板を見に行く、掲示板にはずらっと討伐系や採取系の依頼が並んでいた、数個は街中での依頼もあったが街中で済むクエストは報酬がどれも低いものだ
「あっ俺この討伐受けてきますので、ここで失礼します!」
皮鎧の人はそういって一つの依頼書をカウンターにもっていった
残された俺は残っている依頼で魅力的な物も見当たらないので、奥のカウンターで本の情報がないか聞きに行く、その時入口に【伽藍】さんが入ってきた、クエスト掲示板の前で腕組みをしながら少し考え込んで1枚の依頼書をカウンターに持っていくのが見えた
「あれ?【伽藍】さん何を受けたんだろう?めぼしい依頼はなかったはずなんだけどな?」
気になった俺は【伽藍】さんが受付したカウンターに向かう
「すいません、今の方が受けていったクエストって?」
受付の女の人は、少し頭を下げて
「申し訳ありません、他の方が受けたクエスト内容はお話できないのです」
他の人のクエストを聞いて邪魔する輩もいるため、何を受けたかは話せないらしい、
【伽藍】さんが何のクエストを受けたか気になった俺は、気が引けつつも後を付けていくことにした、
(しかし、わかりやすいっていうか…デカイというか、目立つな…)
街中を北に向けて歩いている【伽藍】さんだが、その巨体で、通行人の間から頭ひとつ飛び出ている上に、剃りあげられた頭が目立ちすぎていた、
20m程空けて、尾行しているがもっと離れていても大丈夫そうだ、
(おっと、曲がって路地裏にはいったけどここは?)
そこは第二城門の外側の少し古い民家が立ち並ぶ一角で、その中にある古ぼけた教会へと【伽藍】さんは入っていった
(モンクさんだから何か、教会の依頼なのかな?)
俺はその教会を正面から見ながら【伽藍】さんの消えたドアを見つめていた
すると、急にドアが開き【伽藍】さんが再び現れた、
ちっちゃいお子様達に襲われながら…
「おじちゃん!もっと高くあげて!」「あっ!ずるい!肩車次俺だからな!」「きんにくのおじちゃん!腕ブランコしてっ!」
などと十人以上の子供たちに群がられて
「うむ!待つのである!順番に遊ぶのである!」
といってる【伽藍】さんは、腰付近に群がる子供達の頭をなでたり、肩に乗せたりと大忙しだ…
なんかTVで見たお相撲さんに挑んでる小学生達の図が浮かぶ…
「【伽藍】さん…何をしてるのです?」
隠れて尾行してきたけど、今は5m程先にいるのでつい声をかけてしまう
「うむ?アシッド殿!これは恥ずかしい所をみつかったのである!」
そういって【伽藍】さんは、少し照れた様に頭を書いた
「うむ!実はーーー」
「ねえねえ!この黒い兄ちゃんも筋肉のおじちゃんのお友達なの?」
「うむ?そうであるが?」
「わー!」「ねね!お兄ちゃんは腕ブランコできる?」「肩車して!」
「わっ!ちょっとまって!ちょー」
そして俺も子供の群れに蹂躙されていった…
お子様パワー恐るべし……
落ち着いてから【伽藍】さんから少し話を聞けた(落ち着いたといっても、俺も肩車をしながらだし、【伽藍】さんは両腕に子供がぶら下がっている状態で、イタッ!髪はやめて!引っ張らないで!…)
ここは、大地の女神の教会が運営する孤児院で、【伽藍】さんは、
クエストの【孤児院にケーキを!】というのを受けてきたのだった
「うむ!大地の女神の記念日にケーキが無いのは寂しいのである!」
なんでも、今日はゲームの中の大地の女神の何かの記念日らしい、
そうして話していると奥から、優しそうな顔をした中年の女性シスターが出てきて話掛けてきた、
「すいません、冒険者の方々、今日は記念日なのでケーキを用意したかったのですが、材料が足りなくて…しかもあまり報酬もお出しできなく申し訳ないのですが…」
そういって頭を下げる
「うむ!気にしないのである!神に仕える者同士、奉じる神は違えど同志である!」
【伽藍】さんはそういって豪快に笑う
「何がいるの?俺も手伝うよ!」
俺も子供の頃はイベント事のケーキは好きだったな…
小学校高学年になると、照れもあって、いらない!とかゆってたけど…
「ありがたいのである!山羊のミルクと【バインドビー】の蜂蜜である!」
ミルクと蜂蜜か…、ミルクは確か牧場で簡単なタイミング押しのミニゲームで絞れたっけ、【バインドビー】は首都近くの森にいるので、巣を見つければすぐだな…
「手分けして集めた方が早いかな?」
「うむ!実は拙僧は山羊の乳のミニゲームは苦手である…」
あー…【伽藍】さんミニゲーム系は苦手だったね…
「なら俺が山羊のミルクにいくよ!」
「うむ!申し訳ないのである!アシッド殿にお願いが一つあるのである!」
【伽藍】さんのお願いは、このクエストは今日の記念日だけの限定クエなので、一人一回しか受けれないので、俺にもクエストを受けて欲しいとの事だった、
「うむ!せっかくの記念日である!二十名以上いる子供に小さいケーキ一つだけでは寂しいのである!」
【伽藍】さんはそういって、足元にいる子供達を見回して笑いかける
「わかった!じゃあ俺先にいってくるね!」
「うむ!拙僧もすぐいくのである!」
【伽藍】さんはそう言うが、足元の子供がまだ放してくれそうにないな…
【伽藍】さん脱出がんばって…
南門にむかって走っていると途中でガーネットさんとみどりさんのコンビにで会った、なんでも今からお城が見える丘にお弁当をもっていくらしい、
せっかくだから二人にもお願いしよう!ケーキは多い方がいいだろう
「わかったわっ!でもケーキだけでも寂しいわね…、黒子ちゃん!今こそ食べ歩きの成果を見せる時よっ!」
みどりさんは何故か盛り上がって、ガーネットさんはコクコクと頷きながら
「おかし系の回復アイテムがありましたよね…」
「そうねっ!いくわよっ!黒子ちゃん!やるからには全力よっ!」
二人はなにやらすごい気合い駆けて行った
みどりさんの気合いの入れようが怖い…
南門は相変わらずプレイヤー達の活気で満ちていた、王子様はここで新規プレイヤーと情報交換していた、王子様にも事情を話す
「わかりました、私もお手伝いしましょう」
そういって王子様は優しい笑顔を浮かべる
「あっ!殿じゃないっすか!ちわーす!でござる!」
ござる達の中の後輩アサシン君に声を掛けられた
「こんにちは、あれ?他の三人は?」
「今、外に臨時PTいってるっす」
そういって門の外を指さす、そうだ!この人も入って貰えばケーキは五つになるから、お子様達全員に充分いくかもしれない
「ごめん!今ちょっと時間あるかな?」
「俺っすか!暇っす、何か面白い事あるっすか?!」
「実はーーーー」
「やるっす!そういうの大好きっす!あ…でもそれ、人が多い方がいいんすよね?ケーキの数が増えるから」
「そうだね、一人一回のクエだからね」
「ならちょっと知り合い達に声かけてくるっす!いいっすか?」
「お願いしてもらえると助かるよ!ありがとう!」
「いってくるっす!」
「いい方ですね、友人達に声を掛けてくれるなんて」
王子様が、微笑む
「そうだね、俺らはこの街にはまだ知り合い少ないから助かるね」
王子様と十分ほど話してると、後輩君の声が聞こえた
「おまたせしたっす!来てもらったっす!」
「あ、ありがと後輩君!……えっと後輩君??」
「はい?なんすか?」
「これ…全員なの…かな…」
「そうっすよ!あとインしてる製造さんも何人かむかって来てくれるらしいのと、先輩とあと何人か狩りから戻ってきてくれるっす!」
後輩君の後ろには百人近いプレイヤーが、わくわくした目でこっちを見ていた、交友関係広いな後輩君……
「イベントだってよ!」「俺、裁縫スキルあるから何か作るわ」
「魚釣ってくる!」「何々なにはじまんの?」「クエ受けてくんの忘れんなよー」「俺なにプレゼントすりゃいいの?」「しらんw考えろよw」
口ぐちに騒ぎながら集まっているのだが、それを見て、他の人達も何か始まるのかと更に増えて行く…
「これはちょっとしたお祭りイベントになってしまいましたね」
王子様も苦笑いだ
「みんなちょっといいすか?」
後輩君がみんなに声をかける、集まっていた人々が一斉にそちらを向く
「孤児院の子供は二十名程っす!ケーキ組以外にもおもちゃやお菓子組に、普通の食糧も差し入れるといいかもっす!製造組は子供服や遊び道具をお願いするっす!せっかくの記念日すから、俺らも楽しみながらやるっす!」
「「「「 おう! 」」」」
後輩君実はしっかり屋さんだったのね…ごめん
そうすると人ごみの中から【伽藍】さんが見えた
「うむ!この騒ぎは一体何事である!」
事情を話すと
「なんと…拙僧は感激である!!」
といってみんなの方を振り向く、とそこに後輩君が
「今回のイベント発案者【伽藍】さんっす!拍手っす!」
「うむ?!むう!」
いきなり後輩君に、みんなに提案者として紹介された【伽藍】さんは照れてるのか、驚いているのか挙動不審になっていた
「せっかくなので【伽藍】さんからイベントスタートをお願いするっす」
後輩君はさらに畳みかける
「むう!うむ!皆の協力感謝である!せっかくの記念日である!子供たちに夢を与えたいのである!」
「それじゃみんないくっすよー!」
「「「「 おー 」」」
その日の夕方、孤児院には、多くの冒険者がケーキやお菓子、おもちゃを次々と運んできてくれた、しかも全員報酬はいらないという、そんな訳にはいかないとシスターが言うと口々に
「子供たちが喜んでくれたらいいですから」
と笑顔で帰って行くのだ、そしてこの孤児院の必要分が充分揃っても冒険者達は、次々と色んな物を運んできてくれ、他の孤児院の場所を聞いてはそこにプレゼントを運んだ、それでも余ったお菓子は街中を行きかう子供たちに配られた、
【大地の女神の記念日】はこの日より帝国首都では、プレイヤーやNPCを巻き込んだ一大イベントになったのだった