臆病
「え、今何て言った?」
目の前の彼は、あまりに突然のことでひどく驚いているみたいだ。
まぁ、それもそう、か。そんな様子、微塵も見せなかったし。
だけどね、ずっと前から決めてたんだ。
「だから、“もう無理。別れよう”って言ったの」
なるべく、面倒くさそうに言う。
本当は嫌われたくないけど、さよならするためだったらそれもあり。
「なんでだよ! 理由を言えよ」
「理由なんて特にないわ。ただ、一緒にいても楽しくないし疲れるだけだから」
「なん…だよ、それ。そんなんじゃ、納得出来ねーよ!」
「納得してもらうつもりなんてない。話はそれだけだから。さよなら」
私はベンチから立ち上がり、歩き出す。
後ろから私の名前を叫ぶ彼の声が聞こえたけど、振り向かない。ううん、振り向けない。
だって、私の目からは止めどなく涙が溢れているから。
私だって、好きだよ。別れたくなんかないよ。だけどきっと無理だから。
私は明日、転校する。
このことを知っているのは、学校以外だと親友1人だけ。他の誰も知らない。そう、彼ですら…。
湿っぽくなるのが嫌だから言わないなんて言ってたけど、実際は離れがたく感じてしまうから。
話さなければ、そんなことにはならない。
私達はまだ子どもで、世間の理不尽さに打ち勝つ力なんて持っていなくて、ただ悪あがきすることしか出来ない。
どうか、私のこと忘れないでね。ううん、忘れて……?
『今度再会する時は、笑顔でいられるといい』