表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
傍観の人形使いと攻略対象の彼ら  作者: 朝霧波斗夜
第1章 物語の始まり
6/33

1-(5) 翼をもがれた天使 side大和

大和視点。

 幼い時から、とある本が嫌いだった。

 『光の天使』という題名のついたそれは、母がくれたものだった。

 光をつかさどっていた慈悲深い天使のお話。柔らかな色彩の綺麗な絵本。


 内容は、とある世界で光が消えた所から始まる。太陽の光から、小さなランプにともる光まで、世界中から光という光が消えていく。世界は混乱し、人は互いに傷つけあう。

 光をつかさどる天使は、仲間の制止を振り払い、いつか光を取り戻すことを決意し旅に出る。そして、世界中を旅していた天使は、やがて一つの噂を聞く。――――何でも知っている魔女がいると――――

 魔女の元を訪ねた天使は聞く。「この世界に光を取り戻す方法を知っているか」と。

 魔女は答えた。「知っている」と。

 喜ぶ天使に魔女は言う。「しかしその為には、お前の天使としての寿命が必要だ」「それを手放したら、お前はただの人になる」

 それは、天使のことを想った優しい言葉だった。天使は光をつかさどっていた。この世界には無くなってしまった、“光”をつかさどっていた。そんな天使の、『天使としての』寿命を犠牲にするならば、その寿命で光を作れる。それでしか、もう光は作れない。


 果たして、天使は自分の寿命を差し出した。大好きな世界のために。


 天使は人になり、世界には再び光が溢れた。天使は、自分を心配してくれた仲間に囲まれ、笑顔で生を全うしたという。


 くだらないと思った。ふざけるなと思った。

 「天使は幸せに暮らした」?そんなことあるはずが無い。遠くへ行ける翼をもがれ、多くを知れる時間を取られた。

 仲間がいたから幸せだった?

 よく分からなかった。


 そしてその思いは、一人の少女と出合った事で覆された。



 ◆ ◇ ◆ ◇



 「それで大和兄、話って?」


 もう日常のようになった櫛灘家での夕食を終え、リビングでくつろいでいると、向かいのソファーから瑠那が問う。思考の渦に飲み込まれていた頭を振りつつ視線をやると、俺の幼馴染は自分で声をかけてきたくせに話にまったく興味が無いようだった。今も膝の上に乗せたぬいぐるみの、頭部から生える長く大きい耳をぐぐっと握って遊んでいる。

 瑠那がここまで興味を示さないのには、自分の過保護が原因だと俺も知っている。それでも止めるつもりは無かったが。


 「まずは……」


 反応の薄い瑠那にかまわず、口は勝手に言葉を紡ぐ。

 瑠那の初等部入学から毎年恒例となった話である。学園の規則、つまり校則の説明だ。

 朔唐魔法学園は、世界最大の魔法学校であり、次世代の若き魔法師達が通う学び舎である。多くの生徒を育てるのとともに、個々人に合った教育を施す。そんな学園では、特待生のような、複雑な事情がある生徒達への対応も他の学校と比べ物にならないほど多岐にわたり用意してある。

 そしてそれは、毎年少しずつ改変されている。俺はその中から、瑠那の役に立ちそうなものをピックアップして伝えるのだ。

 興味が無くても、瑠那の頭の片隅にわずかでも残るように。


 一通り説明すると、最後に一つ付け足す。


 「何かあったら連絡して。……今度は、すぐに行くから」


 そう言って、シャツの胸ポケットをポンポンとたたく。ポケットには、小さな黄色の熊のぬいぐるみがのぞいていた。10歳の誕生日に瑠那から貰った携帯ストラップだ。


 「分かった」


 頷いた瑠那は、俺のジェスチャーの意味に気づいたのだろう。軽く頷く。

 




 俺の幼馴染、櫛灘瑠那は人形使いだ。

 正確には、人形を操る魔法の扱いに長けている。

 意のままに操る“操作”に、視覚の共有“視覚同調”。人形を(かい)して音声を届けることも、匂いを受け取ることもできる。

 この黄色のぬいぐるみも、所謂(いわゆる)隠しカメラのようなものだ。いつでも瑠那からの接触(コンタクト)で、音声を拾うことも、視覚を同調することもできる。


 『このぬいぐるみは、私の目にも耳にもなる』


 瑠那にこれを貰ったときに言われた言葉だ。その言葉に何の反応も返さなかった俺に、瑠那はとても驚いていた。


 『嫌じゃないの?私に生活の全てを見られるんだよ』


 そう、わずかに身を縮めながら言う少女に、俺はその時こう言った筈だ。


 『その目と足じゃ、瑠那は遠くまでいけない。だから俺が、瑠那を遠くまで連れて行ってあげる』


 何も分かっていない子供が立てる、本当に幼い誓いだったと思う。

 でもあの時、嬉しそうに微笑んだその姿が、今もまぶたに焼きついている。だから俺は、彼女にできる限り多くの景色を見せてあげようと思った。人形を介する景色なら、その両目で見れるのだから。 




 遠くまで飛べる翼をもがれた天使。でも、彼はそれでも幸せだったのかもしれない。

 自分が愛する者達が側にいて、ただ笑っている。その事実だけが、彼の求める“幸せ”だったのではないか。

呼んでくださってありがとうございます。

今回は大和兄の独白的な何か。

過保護なお兄ちゃんの幼い誓い。翼をもがれた天使は幸せだったのか。

ちょっとシリアス気味にお送りしましたー。


いやぁ、何とか更新できましたね。授業中に先生の目を盗んで考えた甲斐がありました。この調子でこれからも更新できるといいんですが。


まぁ、頑張ります。


誤字・脱字・感想お待ちしております。


では次回。

やっとヒロイン登場です。

何個かイベント書いたら、お話を次に進めたいですね。

主人公の本領発揮!とか、書いてみたいです。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ