1-(9) 大和兄の髪は、触り心地最高です。
大和兄、壊れてきてます。
「瑠那っ」
いきなり名前を呼ばれ振り返る。声の聞こえてきた方を注意深く見ると、特別教室棟の屋上に大和兄がいた。風に遊ばれた前髪の間から、まっすぐに私を見ている。
どうやら、私が学園で使った魔法の気配を、どこかで見つけたようだ。少し強張っている顔を見ると、学園に来ると知らせなかった事について怒っているのかもしれない。
うぁ、お説教は避けて通りたいんだけどな。
仕方なく、方向転換して大和兄の所へ行く。私が屋上の手すりに止まると、さっそく大和兄が口を開いた。
「学校に来ているなら、何で俺に連絡しないんだ」
「だって別に(普通に)登校しているわけじゃないし」
過保護な大和兄に、もごもごと返す。
すると、
「登校してるわけじゃなくても!連絡ぐらいしてくれてもいいじゃないか……」
仲間はずれにされた子供のように、大和兄は呟く。
普段はクールな大和兄だけど、少し相手をしないだけで拗ねるという可愛いところもある。
「拗ねてるの?大和兄」
「別に、拗ねてない」
そう言って、大和兄はぷいっとそっぽを向く。
その頬が薄紅に染まるのを見て、私は手すりから離れると大和兄の肩に乗る。翼を伸ばして頭をポフポフとなでてあげた。
その時私の脳内は、「可愛いなぁ、大和兄。顔が良いから女の子みたいだよね」などと失礼極まりない言葉で溢れていたが、それをおくびにも出さず口調だけは神妙に謝る。
「ごめんね、仲間はずれにして」
副音声に「今度は一緒に学園を回ろう」と含ませると、大和兄は頷いた。
私はその後しばらく大和兄の頭をなでていたが、柔らかな茶髪を心ゆくまで堪能すると、翼をはためかせて手すりに戻る。
「あ、ごめん。髪乱れちゃった」
一応謝っておく。羽に引っ掛かったのか、大和兄の髪はところどころはねている。
大和兄は、いつも通り優しく微笑むと片手で髪を整えた。
いやぁ、ありがたい。直そうと思っても、この羽じゃ余計くちゃくちゃにしそうだしね。
「じゃぁ、私はこれでっ?!」
そろそろ帰ろうと身を翻しかけるが、後ろから突然体を掴まれる。
大和兄は暴れる私を胸に抱き、上機嫌で屋上から連れ出した。
◆ ◇ ◆ ◇
生徒会室。
「……大和、それは?」
暴れるカラスを胸に抱く、というか押さえつけている妙に機嫌のいい大和兄に、生徒会長の九谷先輩が聞いてきた。九谷先輩だけでなく、四見先輩や三海くんの視線も全て大和兄に注がれている。
「いえ、ちょっとありまして」
大和兄は、疲れて脱力した私を抱いたまま、自身の席に着く。
そのまま書類仕事を始めた大和兄に声を掛けられなくなったのか、大和兄以外の全ての視線が私に向いた。
私は降ろされた机の上で、羽に頭をうずめて顔を隠す。
内心は「逃げたいっ!切実にっ!!」である。
向けられる視線に耐えていると、何を思ったのか、書類仕事をしていたはずの大和兄に持ち上げられた。
さっきみたいに抱え上げられるのは、もうたくさん!
必死に手から抜け出して、捕まえようとする腕をかわし、天井近くまで飛翔する。
「あっ」
大和兄が何か言う前に私は一つ鳴き声を落とすと、開いていた窓から外に飛び出した。
◆ ◇ おまけ ◆ ◇
「何でカラスを連れてきたんだい?」
「書類仕事ばかりで癒しが欲しかったんですよ」
「癒しにカラスって、どうなんですか?先輩」
「人の好みはいろいろだ」
「うるさいよ南、智也。あのカラスは特別なんだ」
更新遅くなりました。連日の暑さで私のパソコンが悲鳴を上げまして、すぐにブラックアウトするという地獄に追い込まれました。
新規小説の執筆が遅々として進まず、思わず拳を握ったり。
いやぁ、殴らなくて良かった。ごめんよ相棒。
さて、今回はちょっとした寄り道話ですね。
最初に考えたサブタイトルは、「1-(9) 誘拐です。犯人は幼馴染。」でした。さすがにそんな大げさに書く必要は無いと思いましたんで、今のタイトルです。でもいつかこのサブタイトル出したいですね。
今回の話、私の個人的感想を言えば、「やっちゃった」です。傍観の話なのに主人公攻略対象と関わりすぎですね。今回はカラス姿だったから「ギリギリセーフか?アウトか?いや、セーフだ!」な感じです。
大丈夫、次は徹底的に傍観ですから!!……たぶん。
それはそうと次回は、予定としては次の攻略対象との出会いイベントですね。
作者の勝手でいろいろ変わります。
ではまた次回でお会いしましょう。
アデュー
誤字・脱字・感想お待ちしております。




