プロローグ 転生しました。
それは、いつも通りの帰り道のことだった。
部活を終え、薄暗い夜道を足早に歩く。特にホラーが苦手なわけではないけれど、人気と街灯のない暗闇はそれだけでどこか不安をあおる。
目の前にコンビニのある十字路が見えた時、私は無意識につめていた息を吐き出した。ここからは街灯のある道だ。
やっと明るい道を歩ける。そう油断したのがいけなかったのだろうか。
青に変わった信号を見て横断歩道を歩き出した私は、半分ほど渡った所で、まばゆい明かりに目を細めることになる。なんだなんだと目を開いた私が見たのは、眼前に迫ったトラックだった。
そこからは、はっきりと覚えていない。
コンビニの客だろうか。誰かの悲鳴と強い血臭。血に薄くぼやけた見慣れた帰り道。
――――それが私の見た最後の景色
ここまでが、前世の私。
今の私は、15歳の少女。櫛灘瑠那。
結論から言おう。私は転生したようだ。前世の記憶を持ったまま。前世でプレイした乙女ゲームの世界の脇役として。魔法のある世界に。
今は淡々と説明できるが、転生した当初の私は、何も理解できないまま混沌とした日々を送っていた。
そんな私が、ここが乙女ゲームの世界だと気づいたのは、3歳のときだった。正確には、きれい過ぎる幼馴染と引き合わされた時。十塚大和と名乗った彼は、その特徴的な黄色の瞳を細めて笑った。私は、そんな彼の顔を見たことがあった。前世の私が一番はまっていたゲーム『朔唐魔法学園の恋愛事情~6人の彼と~』の攻略対象キャラクターだったのだ。
そして自分の役割も理解していた。十塚大和の幼馴染“櫛灘瑠那”と言ったら、生まれながらに足の不自由な天才人形使いである。
攻略対象たちが、ある事件に出くわしたヒロインの素性を探るために十塚大和が連絡を取る人物であり、度々ヒロインに忠告をしに出てくるキーキャラクターであったりする。
まぁ、現世で十塚大和を生に見た私の感想としては、「よくこんなキラキラした生き物と付き合えるな主人公」という可愛げの欠片も無いものであったが。やっぱり乙女ゲームの攻略キャラクターは、ゲーム内だからあんなにかっこいいんだよね。現実で見ると、顔が整いすぎてちょっと近寄り辛いというかなんというか。
ヒロインの恋を邪魔する気はないし、ほっといてもいいかなぁと言う感じだ。
と言うことで、私は十塚大和を大和兄とか呼びつつ幼馴染をして、すくすくと育ちました。足が不自由だからほぼ引きこもりだけど。
もちろん魔法の練習も頑張ったさ。人形も自分の手足のように動かせるようになったよ。
そして、ついに明日。高等部の入学式です。
見苦しいかもしれませんが、これからも見てくださると嬉しいです。