受信メール
※実在したメールをAIと再現による再編集の為に実在とは異なります
【メール】
件名・あのホテルのことを、どうか忘れないでください
宛先:編集部様
突然のメールをお許しください。差出人の名前は書きません。書く必要もないでしょう。この内容を読めば、あなた方なら誰なのか分かると思います。あなた方が特集している、あの二つのホテルのことです。
翠嶺ホテルと、蒼嶺グランドホテル。
蒼嶺グランドホテルのオーナーだった男が、もし今、誰かに言葉を残すとしたら、きっとこんなことを書くはずです。私は、あの頃とにかく有名になりたかった。観光地で一番のホテルを作りたかった。雑誌に載り、芸能人が泊まり、名前が広まる。
そんな場所を作ることだけを考えていました。
そのためなら、何でもやりました。宣伝も、評価も、噂も。
綺麗なやり方だけではありませんでした。正直に言えば、
あの頃の私は、見境がなかった。競争相手を蹴落とすことに、
何のためらいもありませんでした。
翠嶺ホテルのことです。あそこは古くて、小さくて、けれど静かで、良いホテルでした。私はそれを知っていました。あのホテルで働いていたのですから。それでも私は、あのホテルを終わらせる側に立ちました。レビューの評判が崩れていくのを見ても、止めることはしませんでした。
あの人がどれほど追い詰められていたのか、あの時は考えようともしなかった。結果として何が起きたのかは、あなた方も知っている通りです。あのホテルは閉まり、その後、私のホテルも同じように終わりました。
人はよく言います。「因果応報だ」と。
そうかもしれません。けれど、一つだけ思うことがあります。
あの場所には、確かに人の思い出がありました。旅行に来た家族。仕事帰りの人。静かな夜を過ごした人。笑っていた人たちの時間が、確かにあそこにはあった。
だからどうか、あのホテルをただの“事故物件”として終わらせないでください。あの場所に泊まった人たちの時間だけは、どこかに残しておいてほしい。それが、あの頃の私が壊してしまったものへの、せめてもの償いになると思っています。
……もしこのメールを読んだあと、あなたがあのホテルの前を通ることがあれば、少しだけ見上げてみてください。夜の窓に、灯りがついていることがあります。あれは、きっと誰かの思い出が残っているだけです。どうか、そのままにしておいてください。
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【メール】
差出人:不明
受信日時:同日 03:12
編集部様、先ほど届いたメールを読みました。あのホテルについて書かれていたものです。
あなた方は、あのメールを「蒼嶺グランドホテルのオーナーからの懺悔」だと思ったはずです。内容から考えれば、そう思うのは当然でしょう。
ですが、一点だけ確認してほしいことがあります。そのメールの送信時刻です。
送信日時
03:03
その時間は、蒼嶺グランドホテルで最後の事件が起きた時間と
同じです。オーナーが死亡した時刻も、記録ではその時間になっています。
つまり、もし本当に彼が送ったのだとすれば、死亡した瞬間にメールを送信したことになります。
もちろん、そんなことは普通はありえません。ただし、もう一つ気になることがあります。
編集部の方ならレビューのログも確認しているはずです。あの二つのホテルのレビュー。翠嶺ホテルの最後の投稿と、蒼嶺グランドホテルの最後の投稿。あのレビューを投稿した人の中に、同じ名前がいくつかあったはずです。
そして、その名前の多くはすでに亡くなっている人の名前です。これは噂ではなく、実際に確認された事実です。もう一つだけ。あなた方が特集記事を公開した後、レビューサイトのデータを確認しました。
【最新レビュー】
投稿日
今日
投稿内容
「今夜泊まります」
その投稿のIPアドレスを追跡すると、発信場所は翠嶺ホテルになっていました。念のため伝えておきます。
あのホテルは、2015年から電気も水道も止まったままの廃墟です。もしこれ以上調べるつもりなら一つだけ覚えておいてください。
夜にあのホテルの窓を見ると、灯りがついていることがあります。それは誰かがいるからではありません。
宿泊している人がいるからです。
ただし、そこに泊まった人は、もうチェックアウトできません。このメールの送信者を調べる必要はありません。どうせ見つからないでしょう。
なぜならこのメールは蒼嶺グランドホテルのロビーの回線から
送信されているからです。
送信時刻
03:12
※蒼嶺グランドホテルは2020年から閉鎖されています。




