あじゅ11 事代の独り言
大国の跡を継いで苦労する事代
唐土は四分五裂して内乱状態
そして保知石のせいで港が浅くなり使い物にならなくなった。
そこで一計を案じて神在月というのを編み出す。
しかし、呼んだのは唐土系の神ばかりで
八百万は、来ない。
私は、大黒の長男の事代と申します。
私の兄弟は、180人おります。
それだけで、集落がひとつできてしまう人数です。
若いころの父は羽振りがよく、私と兄弟たちは何不自由なく裕福に育ててもらいました。
父は貿易の仕事を行っていて、杵築の崎に大きな屋敷で居を構えておりました。
もっと大きい家が欲しかったそうですが、うまく行かなかったようです。
唐土を相手に貿易を行うことで、景気のいい時もありました。
適齢期になった私は、出雲の中で嫁を探す旅に出ました。
まず、北に歩を進めましたが、なかなかいい縁はありませんでした。
次に、東に歩を進めてみましたが、ここにも良い縁はありませんでした。
それから、南に歩を進め、海に出たのですが
そこは半島の一番東端になっていて、私の趣味である釣りをするには最適な場所でありました。
釣り糸を垂らしていると、強い引きがありました。
半日がかりでなんとか釣り上げてみたところ、それは女性でありました。
どうやら、空腹に耐えかねて、間違って釣り餌として使っていたエビを食べてしまったらしいのです。
私はこれを運命の出会いと感じ、言問を申し込みましたが、名前がないというのです。
名前がなければ言問が出来ません。
それではと、私が「美保の姫」と名前をつけて差し上げました。
安直ですが名前があれば言問ができます。
私は美浦の姫に毎晩、言問に向かいました。
今から思えば、嫁探しに出雲を出発する時、北に向かわず、東に向かえばすぐ会えたと言うのに。
大きな大回りでございました。
しかし、幸せは足元にあるという諺が唐土にあるのですが、本当にそうだなぁと思いました。
毎日通うのに、歩くのは大変でしたので、宍道湖と中海を船を漕いで往復してました。
私、自慢ではないのですが父にそっくりの顔立ちでして。
中海で鰐に襲われた時は、死ぬかと思いました。
どうやら、父に恨みのある鰐の使い手が襲ってきたようです。
父も商売をやっていると、どうしても敵を作ることがあるのでしょう。
今でも鰐に噛みつかれた足が痛いです。
色々ありましたが、私は無事に美保の姫と契りを結ぶことが出来ました。
父のように名前を忘れるほどの嫁も子供も私には必要ありませんので、嫁は美保の姫ひとりで十分です。
それからしばらくして段々と事業に陰りが見えてきました。
唐土が四分五裂して貿易ができなくなったことが大きな原因でした。
私は父の仕事の補佐として事務系の担当をしております。
杵築の岬も水深が浅くなり大きな船が入りにくくなってきましたので
美保との言問で得た知見を元に日本海ー中海ー宍道湖という、新しいルートを開発しました。
貿易先を唐土から韓、越に変え、なんとか事業として継続することが出来てます。
また、社を拵えて「神様が10月に杵築に集まる」という噂を出しました。
私も父ほどではありませんが、事代とは「言代」でもあります。《言霊》が使えます。
だんだんと杵築に信者が集まってくれるようになりました。
今で言うインバウンドですね。
信者が増えインバウンドでも儲かる。これはとても助かりました。
ある日、保知石から父に文が届きました。
「須佐之男命の件で問い合わせをしたいことがある。申開きあらば承る。」
私は驚いて父、大国に問いました。
「だって、八岐は儂の港の水深を浅くして邪魔するんじゃもん。」
・・・頭が痛くなりました。
わざわざ、事を荒立てることなどないではありませんか。
それ、保知石への八つ当たりでしょう?
父は積年の恨みとでも言うが如く、保知石からの使者を籠絡して杵築に住まわせてしまったり、部下に取り込んだり。
私も頑張ってはいるのですが、どうにも順調に交渉が進みません。
その昔、八岐の奥様を拐かしたとか、交渉中にそういう話も入ってきました。
そして、今回も須佐之男命様を騙して奥様を拐かそうとしたらしいのです。
私、頭痛が止まりません。
あれだけ嫁がいるのにそれでも更に人妻が必要なんでしょうか?
あ、人じゃないんで神妻と言ったらいいんでしょうね。
「杵築の社の鍵の管理は保知石がします。」そう通告が来ました。
これでは、交渉しようがありません。
私は泣く泣く、杵築の社の鍵を保知石に渡しました。
折角、事業の立て直しをしているというのに台無しです。
その後今度は、鍵の置いてある知之宮が焼失。誰が燃やしたかって話ですよ。
私、だんだん腹が立ってきました。
もう、こうなったら父に大人しくしていただかないと、交渉が終わりません。
杵築の社を立て直し、高さ96mの拝殿を作りました。
父は大はしゃぎです。
父が拝殿に上がったところで、八俣様に貸していただいた刀で魂と体に別れていただきました。
魂はそのまま拝殿(牢屋)で5柱の執行役員に動けないように監視されています。
執行役人たちも、情けなくって泣いていましたよ。
私も本当はこんなことがしたいんじゃないんです。
しかし、180人の兄弟たちをはじめとしたひとつの集落を守れるのは多分私です。
父のことはずっと尊敬しております。
しかし心を鬼にして、父には引退をしていただきました。
杵築の大社は私の言霊で「日本中の神様が集まる」ことにしております。
しかし、杵築大社の神在月は、今でも実は不完全です。
なぜなら実際は大唐の神様がおいでになられていて、日本の八百万の方々はまだおいでくださらないのです。
父大黒から八百万の方々つまり保知石への仕打ちは、未だに許して頂けておりません。
私はこれからもずっと、いつかお許しいただけるようにまっとうな事業を続けたいと思います。
父にはいい加減、拝殿から出ようと足掻くのを諦めていただきたいと思っております。
最後までお読み頂きましてありがとうございます。