その6:庶民の噂話
ルカさんと別れて、カロン様の先導で進むことしばらく。
校舎と学生寮の間にある庭園で、沢山の生徒が保護者や先生と立食形式で会話を楽しむ姿がそこここに。
明日から保護者の面会は許可制。
必要時以外不可になるので、必然と言われると納得な光景なんですけど。
性別も年齢も入り乱れていて、またしてもうるさい状況なわけで。
わたしにはひたすら目が回る状況。
あ、リボンやネクタイに色が付いてる人が居る・・・。
たぶん、去年から引き続き、学生な人。
「カロン様、ここで、お茶をするんですか??」
わたしの気分は急下降。絶不調です。降参です!
わたしがお説教を受けている間も、お茶会の準備や先生方への挨拶、もしかしたら後始末なんかで動き回っていたのであろうカロン様。
にも関わらず、気づかわし気に小首をかしげ、朝から変わらず背筋を伸ばして立っていらっしゃるのは練度の違い?
「こことは別に奥に場所を用意してあります。もし宜しければ、先に行って待っていてくださいますか?私はもうお一人、ご挨拶しておきたい方が居るので、後から向かいます」
「お気遣い、ありがとうございます。そうします」
わたしが師匠みたいに、防音や転移の魔法を覚えていれば、付いていく事も、送る事だって出来たかも知れない。
そう思うと、勉強への意欲だけは湧いてくる、気がする。
気だけかもしれないけど。
「女子寮近くの薔薇園に席を用意してあります。クルーベルさんとハルベルさんが先に居りますから、もう少し遅れる旨、伝言をお願いしますね」
「わかりました」
カロン様と再び別れ、人の合間を縫うように歩き始めると、ふと違和感が。
なんだか静かで楽?
視線は前に、耳だけ集中してみるとあら不思議。
わたしの噂で持ちきりです。
内容的には、髪の毛の色と魔晶石を割ったように見えた(割った)件についてが殆ど。
噂の域を出ていないような裏口入学の真偽についてと、カロン様や師匠との関係を探ろうとする面倒くさそうな人間が少々。
後者の噂はどの程度のものかもう少し探りを入れたいので、簡単な目印を付けておいて。
どうするのかは・・・、後で、どうにか。
今はそれよりも、目の前にある左右どちらの建物が女子寮か。
そっちの方が大問題!!
横並びの古風な建物が2棟。
赤いレンガ造りの3階建てで、正面から見える佇まいにはなんの変化も特徴も無く、切って貼ったくらいにはそっくりそのままの外観。
厳密には手前の薔薇園が赤・白系統で別れてるとか、ツタの生え方が違うのだけれども。
だからどっち!?という話しでしかなくて。
事前の荷物運びを人に任せた皺寄せがこんなところに出るなんて考えて無かった。
部屋は1階で、名前プレートが出てるって事しか覚えてない。
これ、内部が広かったら部屋探しも大変なのでは?
しかたがない。
こうなったら誰かに尋ねるしか・・・。
「なぁんだ~、シルヴィアさんか〜」
「ルーベちゃん!!なんだは無いと思うよ!!」
「周囲が急に静かになったから、てっきり有名人とか王族とかが居るのかなって確認に来たのに〜」
「シルヴィアさんは有名人だと思うよ?」
「そうだろうけど~」
「ベルベルさんだ~!!」
救いの手が、今!ここに!!
謎にガッカリされているけど、本当に助かりました!!
2人が出てきた右側の白い薔薇園へ、今度は3人で入っていきます。
つまり、右が女子寮!!
部屋は後で考えるとして、まずは遅れた事への謝罪とお使いを果たさないと。
「お2人が来てくれて助かりました。遅れてすみません」
「サクレット様がお迎えに向かわれたはずなんですけど」
「もしかしてすれ違い?それとも、はぐれちゃいました?」
「カロン様はご挨拶したい方がいるとの事で、お待たせする事を、先にお2人へ伝えて欲しいと頼まれました」
「なるほど。ちなみにそれって相手が誰か分かったりは~?」
「知らないです」
助けて貰った御恩は早めに返しておきたいところ。
代わりになにか答えられそうな事といえば・・・。
「年分けの時の質問。そういえば答えて無かったですよね?この黒髪は地毛です。元は他所者なので」
「何処ですか!?どんな国ですか!?たぶん東の方ですよね!」
食いつきが凄い。
「ルーベちゃん!!せめてお茶の席に着いてからにしよう?シルヴィアさんお腹空いてるかもしれないでしょ?」
そう言われてみると、お昼ご飯を食べ損なってる時間帯。
不思議なもので、思い出したとたんにお腹が鳴るという。
と、綺麗に整えられたお茶席へと丁度良くたどり着きました。
机の上には4人分の茶器と、お花の形を模した焼き菓子が沢山。
「あのね、お友達と食べるようにって、今朝とっておきのお菓子を焼いてきたの。良かったら食べて欲しいな!」
「ハルのお菓子は凄く美味しいんですよ!アタシのお勧めはジャムクッキーなんですけど甘いの苦手だったらこっちのチーズのやつとかナッツの方が好みに合うと思います」
色とりどりのお菓子の中から、ハルベルさんの作った物を幾つか教えてもらい、とりあえずジャムクッキーを食べてみます。
真っ赤な苺ジャムが師匠の瞳の色みたい。
「こってり甘めで、お茶によく合う!これ美味しいです!!好きです!!」
「ありがとうございます!!うち実家がお菓子屋さんで、どれもお茶に合う物を目指してるんです!」
「ハルはお家の新商品も手掛ける腕前なんです!!今淹れてあるお茶もハル特性のブレンドで、ちょっと渋めな分、よりお菓子の香りが際立つんです!!濃い味が多いから、お酒のお供としても大人気!!是非、お知り合いの方にも宣伝して下さい!!」
クルーベルさんの熱意が、なんか凄い。
でもこれは本当に美味しくて、お腹が空いてたこともあって沢山食べてしまいそう。
それにこのブレンドティーも渋みが気にならず飲みやすい。
「そういえば、ベルベルさんはとっても仲が良いですけど。いつから友達なんですか?」
カロン様が来られるまで、わたしの適当な好奇心でもって時間を潰しておきましょう。
「ハルとは家が近所で歳が近かったから、それこそ幼児の頃から一緒で!親友でニコイチです!!」
「私の方がルーベちゃんより、1歳分お姉ちゃんなんですよ!でも、せっかく一緒に学院に入れたのに学年が別れちゃって」
「試験で飛び級出来るらしいので、2人で猛特訓するんです!!」
「飛び級出来るんですか!!?」
なんと耳寄りなお得情報!!
「アタシが集めた情報だと、2か月後の試験で一旦、学年変更ができるんです!突然応用が出来るようになった2年生を上げても問題ないくらい、3年生は元から少ないらしくて」
「応用魔法、難しいですもんね・・・」
家庭教師付きの高位貴族ですら、一部の人しか3年生になってないそうですし。
わたしなんか国1番の師匠が付いていながら、2年生ですし・・・。
そう考えると、庶民で3年生になったクルーベルさんて、凄いのでは?
応用魔法のポイントは、クルーベルさんが握ってたり??
「超・実力主義っていうか、卒業試験が厳しいから、半年足らずで諦めて、1年生に降りて卒業資格取ったら即辞めちゃうって人も、例年そこそこ居るみたいです。貴族の箱入りお嬢様とか、才能が足りないって感じた庶民とかは特に」
「今年は魔晶石の不具合もありましたから、1ヶ月の様子見でクラスの再編をする、なんて話も上がってるみたいですよ」
「アタシとハルの目標はとりあえず卒業!なんですけど、どうせなら一緒の学年で一緒に卒業したい!!」
「3年生の卒業資格が取れたら、ルーベちゃんとお城の採用試験受けるんです」
「ネタとアイディアは多ければ多い方が良いですからね!!」
怖いもの知らずの噂好き、さらには結構な野心家。恐るべし。
しかしこれは有益な情報!
殿下とその近辺に自然に近づくチャンスはまだ有る!!
「そういえば、王族の方の寮って、こことは別の場所?なんですよね?」
「王族寮は校舎を挟んで反対側で、教員寮の横にあるらしいですよ」
「ハルと見学に行ったけど、柵と木の所為で建物の影も見えなくて・・・。流石に柵を越えてまで探索は出来ませんでした!悔しい!!資料が欲しい!!だからこそサクレット様と仲良くなりたい!!」
「本音が出てるよルーべちゃん!」
「あら、私と仲良くなりたい理由は資料集めの一貫でしたの?」
楽しそうにコロコロと笑う声。
ご挨拶が終わったみたいで、カロン様も無事合流。
本格的にお茶会開始です。
もうだいぶお菓子を食べてしまったけれど、主催はカロン様なのです!
次回、レオ様について。