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裏話その2:腐れ縁

ルカ視点の裏話です。

 本来なら遠目に観察するだけの簡単な仕事で済むはずだったのに。

 何の因果か、初日から宝物の破壊に関して説教をする羽目になった。

 今は応接室で1人、できるだけ関わりたく無い人間を待っている。


 たまには幸せの足音とやらを聞いてみたい。

 



「やぁルカ君。待った?」


 しばらくすると、扉を使わずに転移して来た男が、身を屈めて覗き込んできた。

 敢えて上目遣いで首を傾げてみせる様は納得の直伝具合で、全身に怖気が走る。

 こいつは魔法以外に一体何を教えてるんだ!?


「師弟揃ってその仕草。止めろ、鳥肌が立つ」

「シルってば、そんなにお説教切り上げたかったのかな?」

 本当に何を教えてるんだ。


 人の横へと流れる様に腰掛け、笑いながら脚を組む。

 出会ったころから距離感のおかしいこの男は、興味がある物に対してだけなにかと近過ぎるきらいがある。

 まったく嬉しくないので、早くこの癖だけでも改めて欲しい。


 そう思いつつも一旦放置で、報告も兼ねた情報共有をしておく。


「お前の弟子はこれから第2王子の婚約者殿と茶会だと」

「ルカ君お口が悪いよ」


 シルヴィアはハルトを手本にしており、その完成度は年々高くなっている。

 おかげで気味の悪さと不快感も増し、シルヴィアに会う度に常識を説く時間が増えていくわけだ。


 それでも、知らない人に向けて魔法を使うなとか、物を破壊するなとか、力業で解決できる前提の行動を若干改めさせる程度の効果しかなく。結果的に魔晶石は割れた。


 師匠といい弟子といい、と言いたいところだがあの宝物は過去にも数名ほど割っていて、説教自体は世間体を整える意味しかない。なにせ俺も割っているくらいだ。

 今のシルヴィアなら割らずに済ませてくれるかと期待していたが、割ったことで安堵した面もある。

 魔法は器用さが加わったほうがより質が悪いと知っている身としては、このまま不器用なままで居て欲し気もするのだ。


 ハルトみたいに成ってくれるなという意味で。


「空間転移で入ってくんな。扉を使え」


 そもそも転移魔法なんぞ常人が使える類のものでは無い。

 にもかかわらず、こいつは時間も場所も無視して使う。

 行儀もクソもあったもんじゃない。

 教育に悪い。


「なるべく人に見られたくなかったんだよ」

「ただの横着だろ」

「酷いなルカ君。半分は本当なのに」

「半分嘘じゃねえか」

「実はこの学園に居る間はシルと接触しないようにしたくてさ」

「薄気味悪い。何を企んでるんだ?」

「人聞きが悪いな~。企んでるけど」


 ハルトの、日頃へらへらしている表情が真剣なものに変わる。

「例えば、友人からの横恋慕は念入りに弔っておきたい。とかさ」

 

 俺には誰にも言っていない秘密がある。


 そのせいで銀の瞳を見る度に押し殺した感情が燻って、罪悪感にも似た感情に苛まれる。

 それでも、出会う前に決めた事を曲げてまで関わるつもりはなく。

 この感情について誰かに相談するつもりもない。

 この事を神に懺悔した事もない。


 ハルトは薄々気付いていたようだが。


「神官として生きると選んだ時点で、恋だの愛だのは無縁だ」

「じゃあさ、結婚式上げる時は承認役よろしくね!」


 とりあえず勝手に他人の気持ちを弔おうとすんな。クソが。

 

「ついに告白でもしたのか?」

「まだだよ」

「許可は?」

「陛下も神官長も条件次第。シルの縁者からは急かされてる」

 俺の知っているシルヴィアの縁者は死んだばあさん1人。

 いったい誰に何を急かされているのか。


「今日、俺を呼び出した本題は?」

「話を進める前に聞いておきたいんだけれど、今回ルカ君の目的は何?」

「俺は神官長からシルヴィアの見張りをして来いとだけ。ずっと張り付く必要は無いが、最悪の場合は追加の仕事が入る。託宣関係がハルトに一任された事までは知ってる」

「託宣の内容については?」

「知らされてない」

「じゃあ教えとくね」

「不要だ、断る」

「僕は陛下に『入学される王子殿下とその近辺が、1人の女生徒と恋に落ちて、政を引っ掻き回した上に貴族社会を混沌たらしめ、果てには国が滅ぶ』って相談を受けてさ。シルに解決させたらどうかって進言した結果、今に至るというわけ」


 思った以上の厄介ごとだった。

「つまりシルヴィアの行いで『国が滅ぶ』?」

「シルとルカ君て考え方がよく被るよね。『1人の女生徒』は聖女らしいよ」

「じゃあ教会(うち)の問題児か?」

 一般的に聖女と呼ばれる人間は数が少ない。

 必ずしも教会に入るわけでは無いが、今の教会関係者には厄介なのが一人居る。

 しかも丁度入学したばかり。


「誰の事かはまだ不明。候補は3人。聖魔法を使える女の子って珍しいのに、今年に限って豊作なんだよね」

「本来なら聖女の存在はありがたいけど、面倒だな」

「お孫様はルカ君に惚れてるから、第2王子に関わるとはちょっと思えないけど。一応候補」


 訳ありで神官長に収まった元王弟に溺愛されてる、孫。

 魔法馬鹿で他人に関心の薄いのハルトにまで、教会の恥が認知されているのか・・・。

 押しつけ先は随時募集しているが、できるだけ穏便に済ませたい。


「ルカ君が神官じゃなかったら、長官からの圧力で結婚させられてたかもね」

「神官長は悪い人では無いんだけど。神官になってて良かったと心底思う」

「そんなにお孫様が苦手なの?」

「11も歳が離れてる上に恋愛脳とか、色々疲れるんだよ」

「今15歳だっけ?」

「俺が15の頃は、神官になる為の勉強しか興味無かったわ」

「僕も魔法以外はどうでも良かったな~」


 お孫様は一応貴族で、男爵と家格は低いのだが。元王弟が甘やかしまくった所為でだいぶ感覚が狂っていらっしゃるから、生徒の中で大人しくできるとは思えない。

 今回そっちの見張りじゃないだけ温情だと思っているが、何かあれば追加されるだろう事を考えると悩ましい。


 むしろアレより問題視されている、シルヴィアの素行の悪さに悩むべきか?


「残りの2人だと、侯爵家の引き籠り令嬢が未知数なんだよね」

「元々第2王子の婚約者になる予定だったご令嬢か?」

「そうそう。病弱だから辞退しますって子。当時そこそこ話題になったよね」


 公の場に姿を現さないと庶民の間でも有名な人物で、実は死んでいる、なんて噂されているほどだ。

 どんな人物か想像もつかないが、身分が高いという事はそれだけ殿下との接触が容易になる。

「学院に通えるほど健康になったのなら、婚約の件を蒸し返すなり、端から引っ掻き回す可能性が出てくるわけか」

「タイミング最悪な事に、殿下は婚約者であるカロン様と絶賛拗れ中だしね~」

 

 殿下の婚約者と聞いて、ふと先程のシルヴィア達との会話を思い出す。


「拗れた原因に、胸囲は関係あるか?」

「胸囲?なんで??」

「シルヴィアが、異性にとっての魅力について考察してるらしくて、胸囲以外で教えてくれと聞いて来た時にサクレット嬢が横に居たから何となく気になっただけだ」

「拗れた原因は知らないけど、ルカ君の異性の趣味か。僕も聞いたことないな~」


 さほどの興味も無いだろうに、聞こうとするのはなんなんだ。


「神官に異性観察の趣味があってたまるか」

「同姓観察はするのか」

「しない!!」

 植物の観察ならするが。


「まあ、託宣に関してはシルがなんとかするとして。実は他にもお願いされてる事があってさ」


 国に関わる託宣を弟子に任せて取り掛かるお願いとやら。

 なんとなく嫌な予感がする。

 

「他に何を?」

「シルの身内から、後始末を2つほど」

()()()()()()()から?」

「そう」

「どんな?」

「内緒」

「面倒ごとか?」

「まあまあ」


 シルヴィアの存在、国を覆う結界の破壊、隣国の魔法使いの誘拐、その他もろもろ。

 こいつが秘密を抱えている時は大抵ろくな事が無い。

 しかも依頼元から考えるに呪術がらみ。


「巻き込んでくれるなよ」

「それは無理!僕もルカ君も、もう巻き込まれてるから」


 毎度これだ。

 俺の不幸は、大体こいつが運んでくる。

次回、本筋に戻って庶民の噂話。

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