その3:増える友人
カロン様が手元の扇で壇上を指し示す。
「殿下の友人とも呼べる護衛騎士で、レオナルド・エヴァ伯爵。学生ではないので騎士服を纏っていますし、赤毛に黄色い目の、正直殿下より人気の美男ですから他の方と区別しやすいでしょ?」
美男かどうか分からないけれども、制服ばかりの中で騎士服は確かに分かりやすいかも?
師匠みたいな派手な美形って今のところ王妃陛下しか見たことがないな~なんて。
こういう脱線は良くない。
今は集中!ちゃんと確認しないと。
「壇上の、水魔法の気配がする方ですか?」
「通称レオ様!町娘の間で姿絵が良く売れる御仁ですね!!」
「どちら様ですか!??」
後方からの突然の乱入者にびっくり!!
そういえば講堂内には他の人も居るんだった。
入り口までは師匠が結界を張ってくれていたし、カロン様に付いて来たから1番前の席だったので視界に入って無くて。
しかもこの席、なんと他の席と離れてて後ろが通路!!横は教員の方が座ってたんだけれども、今は離席中。
だから余計に忘れてました。
「いや〜さっきから色々凄く気になってて!ついつい声をかけちゃいました」
暗い緑色の髪に緑色の瞳。弱目の土の魔力を持つ少女で、とりあえず聖女では無さそう。
「アタシはクルーベル・カチェット。横の子はハルベル・ラティス。2人合わせてベルベルです!!」
「駄目だよルーベちゃん!お貴族様に失礼だよ!!」
薄い黄色の髪に淡い黄色の瞳。この子も弱目の火の魔力で、聖女では無さそう。
「ハルは男爵令嬢なのに庶民のアタシと仲良くしてくれるいい子で、実家はお菓子屋さん!ハル自身もお菓子作り上手で美味しいんです!アタシは活版と書籍を取り扱ってる商家のただの庶民。よければご贔屓にどうぞ!!で、レオ様が標的って何するんですか??」
商人、押しが、強い!!
「貴族の挨拶、しきたり、って、どんなでしたっけ?」
思わず頭真っ白でカロン様に確認を取ります。
「学院内は不問ですわ。私は、」
「カロン・サクレット伯爵令嬢様ですよね?第2王子殿下のご婚約者様。ご実家は貿易関係で仕入れた商品が爆売れで昨今儲けが右肩上がりだとか。下町でも王子様との仲に距離があると噂が立っているんですけど、もしかして貴族の中で嫌われてるんですか?王子様の女癖が悪そうですけどサクレット様いろいろもろもろ大丈夫そうですか??」
「ルーベちゃん!!失礼だよ!!」
本当にそう!!
でもカロン様は怒ってないみたい。
「ご心配おかけして申し訳ありません。私が未熟なばかりに殿下との仲を疑われてしまうなんて、国に仕える身として恥ずかしい限りですわ。ちなみに嫉妬はよく買っております」
「あ、なんか怖そうなので謝ります。ごめんなさい!」
訂正。ただの慣れだった模様。
静かな怒気がより怖いやつです。
2人仲良く頭を下げるベルベルを見ながら、わたしは今後いろんな人とうまく会話できるのかに付いて考えてみる事に。
結論。
圧が凄いと無理かも。
いやだって口を挟む間の取り方が分からないというか、そもそも腹の探り合いとかそういうの向いてないみたいで、多分わたしも止める人が必要な側の人間。
なぜならまだ常識についての勉強が不足しているから!
でも、ここは学び舎。
師匠と結婚したらわたしも貴族。必要最低限は大事だと、王妃陛下もおっしゃってた。
学院生活は練習台に持ってこい!失敗するなら今!
場数は踏めば踏んだだけ身になる、はず。たぶん。おそらく。
一応カロン様に視線で確認を取ると、にこりと微笑みを返されました。
これは行けって事ですね!
「わたしはシルヴィアと申します」
背筋を伸ばして微笑みを絶やさず穏やかに。
「凄い黒髪ですよね!地毛ですか?フワッフワだ~!!レオ様を仕留めるって物理的にですか??他人の魔力が見えてるんですか!?カロン様とはどういった関係で!?さっき有名な魔法伯とも歩いてましたけど感想をぜひ!!」
「ルーベちゃん!!」
・・・いままでこんなに前のめりに質問されたことが無いから、分からない。
どうしたら正解?どこまで答えて良いの??
「だって時間は有限なんだから気になる事は気になった時に質問しておきたいでしょ!」
それはそうかも?
「初対面でそれは流石に駄目!ちゃんとお友達になってから!せっかくの機会なんだよ!!流石に怒っちゃうよ!ッメだよ!!」
お友達!?
「じゃあまずお友達になって下さい!!」
「よければ私ともお友達になって下さい!!」
2人同時に差し出される手。
これが類・友。
ベルベルの息の合い方にびっくり。感動です。
個人的にはこの2人の関係を掘り下げて聞いてみたくもある。
羨ましい。
でもここで手を取るのは有り?無し??
と、ここでカロン様が救いの手を差し伸べてくれました。
「よろしければ、後程お茶でもご一緒致しましょう。年分けが終われば本日、他の予定はありませんから」
「「ぜひ!!」」
「シルヴィアさんもそれでよろしくて?」
「わっ、はい!大丈夫です!!」
「ここだけの話、城下でのエヴァ伯爵についての噂話に興味があるの。私のわがままにつき合わせてしまってごめんなさいね」
「レオ様の噂だけじゃなくて王子様の噂も沢山知ってますよ!!」
「お耳に入れていいのか分からない物もあるから、ルーベちゃんまずは私と話し合いだよ!」
「じゃあ後程!!」
「お騒がせしました!!」
スカートを翻し、慌ただしくも軽やかに去って行く後ろ姿を見送って、改めて周りを確認する。
まだ戻ってこない教員に、近づいてこない生徒。通路付近のカロン様付の護衛騎士。
魔法を使わなくても機能する人避け。
わたしにはできない人脈の賜物。これが貴族。
「カロン様は、ベルベルとお友達になりたかったんですか?」
「必ずしもあの2人である必要はなかったのだけれど、結果的に良い巡り合わせだと思うわ。怖い物知らずで噂好き。ハルベルさんのラティス家は代代、城へお菓子を納める名誉男爵の家系。クルーベルさんは、貴族の間でも流行っている恋愛小説の作家ロゼと同一人物だと噂される人物。俄然面白くなってまいりましたわね」
扇で口元を隠しつつコロコロ笑う姿はとても可愛らしいのに内容がちょっと不穏。
「もしかして、生徒の事全部覚えてたりするんですか??」
「まだ学院内の半分とちょっとくらいかしら。流石に雑務をこなす職員の方や庶民の方すべてとまでは把握しきれていないの」
純粋に凄い。
「王子妃になるって大変なんですね。わたしには無理そうです」
「師弟揃って人への関心が薄いですものね。それを補うための人選が私だったのでしょうけれども」
「お世話になっております」
心からの深いお辞儀をする。この方の希望の為にも、頑張らなくてわ!
「シルヴィアさんには大役があるもの。まずは年分けからね」
カロン様の優しい笑顔を受け、この時わたしに嫌な予感が走ってしまった。
裏口入学の実力ってどう評価されるんだろうって。
次回、年分け。