その16:昔話とカロン様
「では殿下がヴァリエ様に恋をしている様だとお伝え・・・」
「無いに決まってるでしょ!?」
見事な即答。
「先程も言ったように私と殿下は高位貴族というだけで幼少期から無駄に接点が多いだけの幼馴染の類いであり実際にはタダの他人の距離感を待ちつつも年齢差もあって姉と弟のような気を回す関係でしかなくてそこに恋愛の要素は過去含め1度も欠片も微塵も存在しませんのに余計な口出しでサクレット様に不必要な不信感を抱かせる様な真似事は本当に不本意だから真剣にお止めなさい!!」
「なるほど?」
少なくともヴァリエ様は現在、殿下から恋愛感情を向けられている、とは感じていない御様子。
あとカロン様への気遣いなのか畏怖なのか、妙な配慮を感じる。
なんにせよ、この方を巻き込めば殿下についての情報収集は捗りそう。
殿下がカロン様に隠し事をしている件の調査もあるし、別方向からの情報は有れば有るだけありがたい。
現状わたしには協力して貰えそうに無いけど!
策なら有る!!
まずは、確認から。
「ヴァリエ様は殿下たちの婚約が、つつがなく結婚まで進む方が嬉しい派ですか?」
「もちろん嬉しいに決まっていますわ」
「身分的に、カロン様より自分の方が殿下に相応しいとか思ったりは?」
「一度も無いわ。先程も同じ様な事を聞かれたけれど、そもそも、お2人の婚約を陛下に進言したのは私よ。殿下に相応しい令嬢はサクレット様しか考えられませんわ」
真っ直ぐな視線に揺らぎは感じられない。
でも、侯爵令嬢が伯爵令嬢を推薦する意味とは?
第2王子と婚約したくない理由・・・。
他に好きな方が居たとか?
高位貴族が感情だけで婚姻を操作するはずが無いし・・・。
「わざわざどうして?」
「こちらの都合よ。・・・貴方まさか、王家の決定に不満があるというの?それとも侯爵家に対して何か、含むものでもあるのかしら?」
「無いです!不満とかは無いです!!」
あらぬ疑いに今度はこちらが焦る番。
これは早く誤解を解かないと危ないやつ!
ヴァリエ様の都合が気になるけど、とにかく今は深堀=危険!!
その辺を聞くなら他の、王妃様かカロン様が良さそう!!
なので話題を換えつつ、釣り餌も兼ねた情報開示をひとつ。
「むしろ現在、わたしは王家のお使い中。つまりどちらかと問われれば、王家側の人間です!」
殿下は魔法の実験台程度にしか敬ってませんけど!
本音を言えば王家自体には、興味も関心も無いですけど!!
「貴方が、王家のお使い?」
食い付いた!
不信感が凄いけど!
「どうして貴方なんかに?」
眉間に皺が寄った美人はなかなか迫力がある。
でも考え込むって事は、託宣についてはご存知で無い?
「もしかして、王家は今さらサクレット様の資質を疑っているというの?」
むしろカロン様は殿下より信頼されてそうです。
「それともサクレット家の交易先で怪しい動きでも有ったのかしら・・・?」
東の商人についてだったら申し訳ない事もない。
「まさか、他国から姫を宛がう予定が・・・!?」
そんな当てがあるんですか!?
この反応、わたしよりも不敬だと思うのだけれど、良いのかしら。
まだ、何のお使いとも言っていないのに。
想像力が凄い。
でも、託宣という単語は出てこない。
この方は侯爵令嬢であるにも関わらず、託宣や王家の動きなど色々ご存知でないのはほぼ確定。
言動から、殿下との恋愛的可能性はまるで無い、というのもおそらく本心から出たもの。
でもそうなると逆に、王太子殿下と仲の良いお兄様が居るのに、当事者とも言える聖女に何も知らせていないのはおかしいような?
・・・よほど大事にされているのか、戦力外と思われているのか。
或いは、王家が巻き込まれない様、取り計らっていると考えるのが正解かしら?
一層、腹芸が上手いのであれば理解もできるけど、周囲の使用人も狼狽えているし分からない!!
何か特異体質があるとか?
露骨に巻き込むのは悪手??
あと関係無いけど、この方が素で素直だとしたら国母には向いていない!!
・・・巻き込んでいいのかしら??
いやでもこの方も聖女!!
何よりベルベルが巻き込まれる前提で動いている以上、この方も巻き込む可能性しかない訳で、つまりはえぇっと・・・、巻き込んで良し!!
本人も知っておいて損はない!!
これは善行!!!!
「シルヴィアさん。シルヴィアさん。大丈夫ですか?頭が痛いのですか??」
ハルベルさんが何か言ってる・・・。
最悪、王家の所為って事で、カロン様に投げれば万事解決。
どんな手段であれ、ヴァリエ様が誰かに殿下の事を相談してくれれば、作戦通り。
これも全ては情報の為!
で、あれば。
情報をもうひとつ追加。
「わたしはカロン様から、婚約者の座を退く気だと聞いています」
「「「え”!!!??」」」
室内の全員が驚愕している。
さっきまで好奇心を隠しきれない表情で、それでもなるべく口を挟まないでくれたハルベルさんも、これには流石に驚いている様子。
凄く狼狽え始めたファルンさんは、おそらく理由に察しが付いた様ですっかり涙目に。
託宣について、この場で語ってくれるなら尚良しって思ったのだけれど、あの様子では何も聞け無さそう。
そういえば、ここに来てからずっと黙っていたような?
ヴァリエ様はこの件もご存知で無かったのか、血の気の引いた顔でふらふらと、椅子に倒れ込んでしまいました。
これも演技だとしたら、無理。
わたしでは対応できません。
「・・・どういう事。貴方が知っていることを全て話しなさい!!」
「ヴァリエ様こそ、殿下が下町で探っている何かしらだったり、殿下とカロン様の関係だったり、ある程度の裏事情をご存知なんですよね?昔話を聞かせて下さるのでも構いませんよ」
一応、駄目押しで首を傾げてみる。
「話してくれます??」
「貴方の言葉を、頭から全て信用する気はありませんわ」
臍を曲げてしまったみたい。
「わたしが嘘を吹き込んでいるとでも?」
「この件に関してはサクレットさま本人に確認しますわ。このように大事な事柄は本人同士で話し合わなければ。他人の口を介していては、どこかで拗れるだけですもの」
「今ここで話す事は無い、と」
「えぇ、そうね。貴方に話せる事は、何も無いわ」
よし!想定通り。
これで今日中に動いて下されば御の字。
カロン様か殿下にでも相談してくれれば、奥の手が使える。
失敗しても、カロン様なら何とかして下さるはず。
秘儀、丸投げ作戦!!
いや~煽った甲斐がある~。
「シルヴィアさん!ここであの『お願い』は駄目ですよ!?」
ハルベルさんから阻止が!?
「使いませんよ!」
「本当ですか?」
信用が無い!!
視線を動かしながら、一応弁明を試みる。
「残念ながらこの部屋には妨害用の魔法道具も多く置かれていますし、そもそも聖魔法を得意とする人にはあの『お願い』は効きにくいので、面倒だから使いません」
おまけに師匠☆直伝の笑顔も添える。
「安心してください!!」
「その言い方だと安心しきれません」
「むしろ怪しさが増しただけね」
「うんうん!!」
ハルベルさんの不信感が増した!?
ヴァリエ様はともかく、ファルンさんにまで同意されてる!!?
2人にはまだ使用した事も無いのに、一体、何故??
説明した通り、この部屋は魔道具まみれ。
家具に紛れるように実に多種多様な妨害魔法がそこここに。
壁に飾られた絵からカーテンの刺繍、目の前に置かれた茶器に至るまで隠す気も無いであろう魔法陣がびっしりと!
特に見事なのは足元のカーペットに織り込まれた魔法陣の模様で。
これがおそらく、この室内で一番高い品。
これでは室内に居る人間すべてが、思うように魔法が使えないのは明白。
わたしなら全て破壊できるし、呪術への効果はまるで無いけど。
今回は本当に何もしない!!
賠償請求は嫌!!
「使わないですよ~。何で怪しむんですか。悲しくて泣いちゃいますよ!!」
「この程度で泣くような性格では無いでしょう。それに、これ以上不審な動きをされたら厄介だわ」
「信用が無い」
「最初から無いわ」
「そうでしたね」
「あのお2人とも。色々と気にはなるのですが、そろそろ午後の授業が・・・」
ハルベルさんの指さす先には、品の良い壁掛け時計。
そろそろ教室に戻らないと、確かに遅刻しそうな時間。
「そうですわね」
どうやら話し合いは無事に終わりそうです。
次回、入学祝い。




