その15:お友達のお友達
「実は以前からの知り合いで、ガレシア様はルーベちゃんのパトロン様なんです」
「パトロン?」
名前で呼んでいるので、てっきり友人か何かかと思ったんですけど。
「クルーベル様には制作だけに専念して頂きたくて、少しばかりですが資金援助をさせて頂いてますの」
なるほど、侯爵令嬢ともなると金銭的に余裕が在りそうですもんね、と言えない雰囲気だけれども納得。
「それで、ルーベちゃんの製本作業がある日は終わるまで、私の家のお店で待っていらっしゃってね。お得意様ついでに、個人的にも親しくして頂いているの」
「王家御用達のお菓子屋さんですもんね。わたしも行ってみたいです」
「ありがたい事に3代御贔屓にしていただいてるの。自慢のお菓子が揃っているから、ぜひ食べに来て欲しいな!」
「私はいつも家族の分まで購入しておりますのよ。ラティス家の焼き菓子はどれも美味しくて、使用人たちもとても喜んでおりますわ。因みに私はハルベルさんとも特別懇意にさせて頂いておりますから、試作品を頂くこともありましてよ!!」
これは多分、牽制されている?
嫉妬??
あとどことなく、控えているヴァリエ家の使用人達が嬉し気に見える。
そういえば、ハルベルさんから貰ったお菓子を教室に置いて来てしまったから、残りは寮に帰ってから味わって食べないと。
何となくヴァリエ様に好かれていないようだ、っていうのは把握できたから、この場を穏便に納めて早く教室に戻りたい。
こういう気質の方に気分よく去ってもらうためには、持ち上げておく方が無難。
「つまり、ヴァリエ様はベルベルのお友達であるという認識で良いのでしょうか?」
後でわたしの因果に巻き込む確率が跳ね上がるから、これも確認しておかないと。
「違いますわ!!」
即答するヴァリエ様。
「お友達は、身分が離れすぎてて恐れ多いかな」
両手を振って遠慮するハルベルさん。
「それも違いましてよハルベルさん!!」
さらに即答で否定するヴァリエ様。
「違うらしいですよ?ハルベルさん」
わたしもついでに乗ってみる。
「私とハルベルさんはお友達ですが、クルーベル様はあくまでも信仰の対象!!」
宗教か~。
「お2人がとても仲が良くベルベルと呼ばれる事を好んでいると私も重々承知しておりますがそれであっても私にとっのてクルーベル様は人生を救って下さった恩人であると同時に天上に居られる女神様の如き貴いお方であり私ごときが気安く近寄るのも憚れますがそれに対してハルベルさんは心安らぐ唯一無二の存在で心の底から得難い友人だと思っておりますので違うと言ったに過ぎませんわ!!」
・・・どっちにしろ重い。
「要するに、クルーベル様の大事な親友たるハルベルさんを気安く友人と称している、私の方こそ本来ならば恐れ多いのですわ」
胸を張って見せるヴァリエ様。
身分に重きを置く貴族的に、とても駄目な発言をしていらっしゃる。
言われたハルベルさんは困惑しつつも嬉しそうに照れていらっしゃるから、まぁ・・・。
いや、重い。
巻き込まれるのって、面倒。
侯爵家的にこれで良いのかと使用人を確認すると、何人かが目頭を押さえていた。
感動してる?
何故??
「だからこそ、ベルベルのお2人にはこの者には近寄らず、健やかに学院生活を過ごしていただきたいのですわ」
わたしを厄災か何かだと思っておられる?
否定しかねるけど。
「先程も申しましたが、それは出来ません。ガレシア様がそのようにおっしゃったとしても、誰と付き合うかは私達で決めます。なぜならこんなに面白そうでレアな人はそう居ません。初日で爆発ですよ?絶対にこの先も何か起きます!ルーベちゃんの新たなお話の足掛かりは、いくらあっても足りないのです。ガレシア様。諦めて下さい!!」
ハルベルさんは、わたしを踏み台だと思っておられる!?
そして侯爵令嬢相手に図太い。
でもそう言い切られると、ハルベルさんのクルーベルさんへの献身もなかなか重い。
そうまでして書きたい話とは一体・・・。
「ハルベルさん。クルーベルさんの新作って何ですか?」
朝、物書きの為に休むと言っていたはず。
「昨日から書き出したのは、年嵩公爵の後妻の座を狙う令嬢達による、血みどろのサスペンス物です。楽しそうですよね!!」
【・・・手前どもが何の役に立ったというのか】
「え?なんて?」
「すみません、思わず母国語が出ました」
足掛かりとは一体、何を指していたのか分からない。
そして新作のひと言で侯爵令嬢の目が輝きだしてしまって、気まずい。
「新作の為でしたら、仕方がありませんわね。ハルベルさん、十分にお気を付けて。何かあればすぐに相談して下さいな」
「ありがとうございます!ガレシア様」
なにやら話は上手くまとまった様子。
「そういえば、ヴァリエ様の貴族らしからぬ言動って、他人に見られても大丈夫なんですか?」
今なら聞けそうな空気なので、しれっと聞いてみる。
使用人の人達も、高位貴族に仕えるには教育が足りていない気がするのだけど、そこは触れない。
生徒同士は平等だとしても、使用人は当主が雇用主のはずなので、貶したと思われたら堪ったものではない。
「問題ありませんわ。多少噂になったとして、心から信じるような愚かな人間はこの学院に居りませんもの」
なるほど、貴族らしい解答。
なら追加の質問。
「もしそれが第2王子殿下だったとしても?」
やっと思い出したけれど、この方は第2王子の元婚約者候補。
肌の色は透き通る様に白く、肉付きも適度に良い。
出るところはしっかりと出て、引っ込むべきところは心配な程に引っ込んでいるという、男性の理想を具現化したようなお姿。
王子が新たに恋に落ちるとしたら、ファルンさんよりはヴァリエ様の可能性が高い。
「ヴァリエ様のお立場的に、下手な噂を殿下に聞かれるのは、宜しくないのではありませんか?」
どうせいつかは探りを入れるのだから、ここで済ませてしまいたい。
「殿下は私の事を、昔から良くご存知ですの。今更ですわ」
「昔から?」
「私達、幼馴染ですもの」
「言われてみれば、お兄様が王太子殿下の付き人をなさって居られるんですから、兄弟同士の繋がりもありますよね」
そう考えると、家族ぐるみの付き合いで、古くから交友があってもおかしくはない。
「言われなければ気が付かないだなんて、貧相なお頭をしていらっしゃるのね」
「そうかもしれませんね。そういえばヴァリエ様は幼少期より、身体が弱いために社交や外出を控えていると聞いた覚えがあります」
目の前の令嬢は、体が弱いようにも、社交が苦手なようにも見えない。
実際は外出も多い様子なのに、どうしてこんな噂が立ったのか。
健康そのものにしか見えない所為で、余計に何故婚約しなかったのか、っていうのが気になってくる。
「貴方、何が聞きたいのかしら?」
おや、バレた。
「・・・仲がよろしいはずなのに、なんで婚約されなかったのかなと思いまして」
この方に下手な隠し事は火種になりそう。
「この学院における貴方の後見人は、殿下の現婚約者で在らせられるサクレット伯爵令嬢だったわね」
「そうですね」
「サクレット様に何か探って来いとでも頼まれているのかしら?」
「いえ、別にそのような事は」
周りの男性の動向を探る様には頼まれていますけど。
「では殿下の言動に対し、サクレット様か・・・周囲の人間が不信感を持っている状況かしら?」
「思い当たる節でもあるんですか?」
ヴァリエ様の視線が少しだけ迷いを見せる。
以前からハルベルと親しいという事は、この方も殿下周りの噂はご存知のはず。
「私の口からは、何も言えませんわ」
つまり、思い当たる節が有る、と。
で、あるならば脅しが通用するはず。
「カロン様に、ヴァリエ様は殿下に気が在る様子だったとお伝え致しますね!!」
「それは絶対に無いから止めて下さる!!?」
割と本気の拒絶を引き出してしまった。
次回、昔話とカロン様。




