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その14:侯爵家の令嬢

 眼前に来られたのは、ちょっと様子のおかしなご令嬢。


「初めまして。私はヴァリエ候爵家の長女。ガレシア・ヴァリエですわ」

 なるほど、侯爵家の御令嬢。

 この国の上層階級の上澄みに居られる方。

 道理で尖った雰囲気ではあるものの、品のある所作が板に付いていらっしゃる。


 先程の発言さえ無ければ、模範的な貴族令嬢そのもの。

 建て前を重んじる相手、であるならば、挨拶は大事。


「お目に掛かれて光栄です、ヴァリエ様。わたしはシルヴィアと申します」

 口に出してから、ふと引っかかりを覚える。


 ヴァリエ・・・、どこかで聞いたような気がするけど誰だったかしら?


「貴方の噂はお兄様から色々と伺っておりましてよ」

「お兄様?」

「長兄のジェラルド・ヴァリエですわ。王太子殿下の付き人をしておりますから貴方もよくご存知のはずよ」

「あぁ~ヴァリエ大臣の御子息!」 

 いつも無表情で何を考えているのか、さっぱり分からない御仁。


 王太子殿下が訪問される際、いつも後ろに控えて居られるものの、最初の挨拶以降は話した事が一度も無い。

 父親である大臣の方も、財政をまとめている文官の長ということしか知らない。

 つまり、ほぼ他人。


「それで、御息女であるヴァリエ様がわたしに、どういったご用件でしょうか?」

「ここで話すのでは落ち着きませんわ。貴方、いま時間はあるかしら?」

「時間ですか・・・」

 柱に掛けられている時計に目を向ける。


 学院のお昼は長めの休憩時間が設けられているので、まだ余裕はある。

 視線だけで左右を確認すると、昼食を食べ終える頃合いとはいえ食堂内はいまだ込み合っているし、有名人が2人も居る所為か、聞き耳をたてる輩も不躾な視線も、無駄に多い。

 内容にもよるのだろうけど、侯爵家の御令嬢と話をするには確かにこの場は不適切。


「友人がご一緒しても宜しければ、喜んでどこへでも伺います!」

 とりあえず、よそ行きの笑顔を張り付けてハルベルさんとファルンさんを巻き込んでみます。


 相手の目的が正確には分からない以上、何かしてしまった際の保険も欲しいし、なにより他人の耳目があれば下手な行動は取れない・・・。

 否、現時点で大分、高位貴族らしからぬ行動を取られている様な??

 まあでも、少なくともハルベルさんは喜んでいる様子だから大丈夫。


「・・・ご友人方も宜しければご一緒に、私のサロンへご招待致しますわ」

 少々間があったものの、ヴァリエ様からの了承も得たので、4人で移動です!!




 ところ変わって、豪華な個室。

 どうやらここは身分の高い方専用の場所で、一般の学生は存在すら知らないらしい。

 今回はヴァリエ様のお誘いという事ですんなりと入室できたけれども、在ると思って見ないと扉の場所も分からない。

 これは魔法陣による隠蔽、流石魔法使いの学び舎といった所。


 扉の横には数名の使用人が控えていて、おそらくはヴァリエ家の配下。

 教室や寮と違い過ぎる、見るからに価値の高そうな調度品の数々。

 腰を下ろすと思いのほか沈む長椅子に、食堂組3人で並んで腰かける。


 平民のわたしは場違い感で気後れしてしまう・・・なんて事は微塵も無いのだけれど。

 ついて来てくれた2人はどうやら緊張している様子。


「そういえば、ヴァリエ様はお食事はお済ですか?」

「済ませてあるわ」


 眼前のガレシア・ヴァリエ侯爵令嬢。

 聖女という以外にも、何か重要な事を忘れているような気がする。

 なんだったかしら?


「それで、昨日クルーベル様に取り入ったという不届き者は、貴方で間違いないわね?」


 先程の食堂での質問は、残念な事に聞き間違いでは無かった模様。

 というか、もしかして目的はこれの確認()()

 その為に移動までしたとは思いたく無いのだけど・・・。


 どうせなら、王太子殿下や配下の方からどう思われているのかを聞き出し、今後の印象操作に利用したいところではある。


「昨日新たに知り合ったのがわたし1人であるのなら、その話題の人物はわたしの事だと思いますけど・・・。ですが、不届き者とは何の事でしょう?」

 思い当たる節しかないけれど、カロン様の事後処理に不備があるとは思えないし。

 ベルベルが昨日あの後で、周りに話す余裕があったとも思えない。


 まさか、言葉通りクルーベルさんに接触したのが駄目だったとか?

 そんなわけが・・・。

「お黙りなさいこの泥棒猫!!!クルーベル様を一体どなただと思っているの!?神作家様よ!!」

「・・・ん?」


「幼少期に才覚を発揮し御両親が出版された幼児用の御本から始まり先日発売された長編恋愛小説に至るまで全ての女性読者に愛され常に即完売する程の人気作家様がこの度有難くも同時期に学院へと御入学されたというのに何故貴方のような東方出身の身元からして胡散臭い呪術師崩れなんかと一緒にいらしたのか取材の一環とは分かっていても心の底では理解し難いし私的には解釈違いなので安全の為にも近付いて欲しく無いのですわ!!」

 ・・・圧が凄い。


「宜しい事!ちゃんと理解なさい!!彼の方は貴方の様な粗暴な人間が気安く声を掛けて良いお方では無くってよ!!」

 低い机に勢いよく手を叩きつけて叫ぶ姿は、とても模範的令嬢とは思えない。

 周囲の使用人が若干呆れ顔なので、おそらくは素の顔。


 成る程、つまり、ヴァリエ様はただの狂信者の類い!!


「要するに、今後はクルーベルさんに近付くなとおっしゃる訳ですね」

「その通り。自覚を持って、弁えなさい」

 瞳孔が開いていらっしゃる。

 やっぱりこの方、正気では無い。


「せっかくお友達に成れたのに?」

 面白いので少し煽ってみる。

「自分の立ち場は貴方が1番、理解しているでしょ?」

 一理ある。

 一応は理性も残っているもよう。


「ガレシア様」

 静かに座っていらっしゃったハルベルさん。

 どうやら仲裁に入ってくれるらしい。


「昨日は私達の方からシルヴィアさんに声を掛けたんです。ルーベちゃんもお友達になりたいからって」

 持つべきものは友達!!

「確かにちょっと怖い目にも合いましたけど、それは私達が距離感を誤った結果です」

 と思ったけど逆効果では?

「ちょっと楽しかったし・・・」

 楽しかったの?

「シルヴィアさんは私とルーベちゃんのお友達です。ガレシア様が心配して下さった結果だとしても、交友関係に口を挟まれるのは嬉しくありません。お友達を辞めるつもりは無いです」

 これってもしかしなくても、お知り合い?


「・・・ハルベルさんがそうまでおっしゃるのなら、一旦保留にしますわ。ですがこの者に対し、何の策も無く近づくなど不用心が過ぎます!!」

 それはそう!


 ので、ここはひとつ、話を逸らしましょう。

「もしかして、ヴァリエ様とハルベルさんはお知り合いなのでしょうか?」

次回、お友達のお友達。

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