その13:昼食と聖女襲来2
明けましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いを申し上げます。
午前の授業を無難に終えて、お昼ご飯の時間。
短時間で色んな事がありました。
授業自体は初日なためか、級友となった面子の確認と施設案内で午前が終了。
午後は、今後使用する教材の配布のみで解散予定。
明日から実技を含めた授業との事で、首尾は上々といったところ。
で!
なんと!
祝、友人追加!!
ファルンさんが去った後、他の生徒さんからの誤解や警戒が少しだけ解けたらしく、一部の方と仲良くなれました!
ご飯は断られたけれども。
ファルンさん、あれで一応、人気者らしくて。
皆さん的には近寄りがたい存在なんだそうな。
てっきりルカさんへの付き纏いの件で有名人なのかと思っていたのに、なんとも意外。
とりあえず、ハルベルさんは乗り気なので、ベルベルの2人はこれからも積極的に巻き込んでしまって問題はなさそう。
でも3人だけでの食事はちょっと気まずい!
という事で、近くに居た半分当事者のルカさんを確保・・・、しようとして逃げられました。
曰く、「話して通じる相手なら一緒に食事をとるくらい構わないんだけど・・・。丁度いいから、君に頼みがある。学院に居る間だけでいいから、ファルン様のお相手を任せたい。礼なら今度する。だから、あの方を無駄に近付けようと画策するのだけは、本気で止めてくれ。疲れるんだ・・・」との事。
人前で猫を被ることも無く、珍しく死んだ魚のような目で疲れ果てた声を出すルカさん。
師匠に弄ばれている時ですら、怒気で生き生きして耐久力あり余るお人なのに。
これは想定外で異常事態!!
何度も伝えたらしい「無理」が心底本気であると、他人の機微に鈍感な自覚があるわたしでも流石に理解できるのに。
まるで諦める気配のないファルンさんは、心の強度が強すぎる!!
そんな状態で私に一体何が出来るのか・・・。
クルーベルさんの書いた書籍一式で取引が成立したので、とりあえず今後は巻き込まない方向で。
こうなったからには、調停役というか話のまとめ役が欲しい。
ので、カロン様をお誘いしようと思ったのですが、残念ながら不在。
ついでに第2王子と取り巻きの方も居なかったので、書き直した手紙も渡せずじまい。
クルーベルさんは、初日から不登校が確定しました。
そうして迎えたお昼ごはん。
待ち合わせの場所から、生徒で込み合う食堂の奥へと3人で移動。
端寄りの長椅子に、ハルベルさんと横並びで座り、ファルンさんは正面へ。
卓上のお膳には、温かいスープとパンが人数分。
「さっそくだけど。私、友達が少ないから2人に恋愛相談に乗って欲しいの!!」
「無理ですね」
「なんで!!?」
ファルンさんから突然持ち込まれる問題発言。
教会の事を教えて下さる予定ではなかったの?
でもちょっと好都合。
今のわたしは、ルカさんとの取引が成立してしまった身。
午前中の囮作戦は捨て、ファルンさんを止める覚悟はできている!
「先程お話に上がっていたルカ様って、神官長補佐官のルカ様の事ですよね?なら、神官様は法律上、婚姻が禁止されていたと思うんですけど・・・」
ハルベルさんの正論も後押ししてくれます。
ちなみに結婚できない理由は女神様の嫉妬を買わない為らしい。
そうでなくても、ルカさんは国防一筋なので異性に興味が無いような?
「でもおじい様は結婚してるし、父様という子供も、私という孫も居るの。だから大丈夫」
「ファルン様のお爺様である現在の神官長様は、地位に就かれる前に、奥様と離婚されているのは巷でも有名なお話ですよ?」
「事実婚という手があるわ!!」
「「あぁ~・・・」」
めげないファルン様。
前例を見て育ったが故であったとは・・・。
「それに私、女神様には特に好かれている方だと思うから、出来る気がするの」
何を?
「確かに。ファルン様は聖歌隊の中でも特に有名ですから・・・あるいは???」
何が??
聖歌隊は、歌を通して加護を与える事が出来る、教会独自の人の集まり。
確かに、女神様に愛されてる人ほど長くて強い加護を付与できるとか聞いたことがあるけど。
「ルカさんからの愛情が向いてない時点で、何も起こりようがないのでは???」
「そこなの!!どうしたら、私の事をもっと好きになって貰えるか、他の人のアドバイスが欲しいの!!」
「好かれていると思っていらっしゃる、と」
「ルカ様は、嫌いな人間には一切口を利かないのよ!!つまり、私を見てくれる可能性はゼロじゃ無い
!!」
「凄い前向き・・・」
これは手強い。
たしか、ファルンさんの聖魔法は占い特化だったはず。
「手っ取り早く、女神様に託宣を貰えば後押しになるのでは??」
「私が、聖女だって知ってたの!!?」
「ファルン様、聖女なんですか!?」
「もしかして隠してましたか?」
ちょっと青ざめるファルンさん。
驚愕して口元に手を添えるハルベルさん。
勝手に他人の秘密を暴いた予感のするわたし。
食堂内の一部の沈黙が、やってしまった感を増幅させる・・・。
でも教会関係者の有名なお孫様が隠してるとは思わないじゃないですか。
魔法で占いが出来るのって、女神様に近しい聖属性の一部の人だけで、珍しい部類の人なのは知ってたんですけど、有名人なんですよ!!
「ごめんなさい」
とりあえず床に降りて、ファルンさんの横で土下座。
おそらくだけれども、第2王子まわりの託宣はファルンさんが女神様から受け取ってる気がするから、詳しく聞けるまでは友人を続けて欲しい!!
「あの、私、おじい様の迷惑にならないように、苦手だから、内緒にしてたの。でもね、学院で学ぶうちに、みんなに知られる事だったから、大丈夫。ちょっと不安で・・・、怖かっただけなの」
「ごめんなさい!!!でも占術が出来る魔法使いがそもそも少ないですから、あまり気になさる事は無いはずです!!うまく扱えるようにわたしやハルベルさん達と一緒に練習しましょう!!」
わたしも防音魔法の取得を頑張るので!!
「・・・うまくなったら、ルカ様、好きになってくれるかしら?」
それは多分無理。
何とか場の雰囲気も落ち着き、食事が進んだ頃。
「わたし実は、ファルンさんがルカさんに好意を寄せ続けているのは、女神様からなにかしらの託宣でも受けているのかなって思ってたんです」
一応、確認は必要かなって。
「託宣だとしたら、ルカ様からの好意がもう少し見えそうな気がするの・・・」
先程の取引を見て知っているハルベルさんは、気まずげな表情で茶器を揺らしています。
「女神様は関係ないの!私が、子どもの頃に誘拐から助けて貰って、一目惚れしたのがきっかけなの!!」
まだまだ食事中のファルンさん。
「でも、よく考えてみると運命的で、託宣みたいなものかもしれないわよね?」
「そういう形の託宣もあるのかしら?ルーベちゃんが居たら、何か聞けたかもしれないのに・・・」
「違うと思います」
雛の刷り込みみたいな状態です。
魔法における託宣とは、必ず夢の形で授けられると師匠の書庫にある魔導書に記載されていました。
つまり出会いは偶然で、運命的ではあっても託宣では無い。
あと、ルカさんの立場を考えると、上司の孫を助けるのは職務の一環かコネ作りの可能性が非常に高い。
ファルンさんは、それでも構わないのだろうけど。
わたしも師匠が好きだからこそ、ちょっと分かる。
わたし達の恋の違いは、相手にどう思われているかの差でしかない。
「わたしも魔法、もっと上手くならないと・・・」
それにしても、なんだか食堂の入り口付近が静かになっているような?
皆さん食事が終わる頃?
視線を向けてみると、人の裂け目に佇む令嬢と目が合いました。
「あの方は!」
「ファルンさんのお知り合いですか?」
遠目でも分かる、気品ある佇まいと人目を惹く立ち姿。
しっかりと結われた、赤みの強い橙色の髪。
意志の強そうな琥珀色の瞳。
3年生の紅いリボン。
魔力は、聖。
「貴方が、黒髪の異人」
薔薇のような唇から呟かれた声は少し低めで、落ち着いた音。
どうやら、ご用があるのはわたしの様子。
「昨日、クルーベル様に取り入ったという不届き者は貴方ですわね!?」
・・・ん??
次回、侯爵家の令嬢。




