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その12:神官長の孫

 風邪を引いておりました。

 皆さま、くれぐれもご自愛ください。

 予想は付く。

 けど、念のため確認。

「貴方様は、どちらさまでしょうか?」


「ワ・タ・ク・シ・は!神官長の孫にしてオルロ男爵家の長子。ルカ様の婚約者候補!ファルンちゃんよ!!」


 あぁ~、やっぱり例のお孫様!!


 茶のふわふわな長髪に橙の可愛らしい垂れ目。

 小柄な体躯に小さなお顔。

 さながら小動物の様。


 この人が、ルカさんへ恋に恋して早数年、教会の名物になっているらしい聖女様。


「お若く見える」

「私、いま15歳よ!ルカ様のお役に立てるよう、まいにちお勉強を頑張ってやっと入学できたの!!魔法をちゃんと使えるようになったら、ルカ様の横に居ても恥ずかしくないでしょ!!」


 きらきらと眩しい瞳、ふんすと胸を張る立ち姿。

 ルカさん神官だから可能性が無いのに。

 年齢差まであるのに。


「なんて健気」

「私、3年生で卒業して、もう一度ルカ様に告白するの!押してダメなら引いてみると良いって、本に書いてあったんだから!前は何回も「無理です」って断られたけど、ちゃんとした仕事に就いてっ、えらい人になればっ、今度はきっとルカ様にきちんと振り向いてもらえるはず!!!」

「執念・・・」


 ルカさんのきっぱりとした拒否が通じていない。

 なるほど、こんな方だから教会のお偉い様方に嫁ぎ先を探されているのね・・・。

 わたしが知る限りルカさんは志を曲げる人ではないし、この方も簡単には曲がらない気がするから困難を極めそう。


 いやでも第2王子とくっつかれても託宣に触れるから駄目なやつでは??

 殿下が王族じゃなくなれば、問題無いとか??


 あと個人的に気になるのは、この方が現在1年生な点。


 リボンの色が青色だから、カロン様の説明通りなら魔法の発動が不安定なはず。

 つまり王族の血が流れているとか、聖魔法に適性があるとか関係なしに、使えるかどうかはその人次第という事!

 呪術とこんなに違うだなんて知らなかった!!

 魔法は本当に奥が深い!!


 それにしても、この登場のしかたは想定外。

 いずれは接触する事もあるだろうとは思っていたけど、相手から来るだなんて思って無かった。


 さてはて、どうにかするべき・・・なのかしら?


 早い時間だったから教室内の生徒は少ないし。

 要らぬ噂が増えな・・・否、これはもう不可避。

 確かに人数は少ないけれど、聴き耳の気配が凄い!


 というか、後から来た人や横に居るはずのハルベルさんまで気配を断ってるんですけど!

 目の前の少女は、そんなに皆さん接したく無い存在なの!?

 どういう事なの!!?


「それで呪術の」

「初めましてファルンさん、わたしはシルヴィアと申します」

 こちらの名前を伝えてなかった。


「えっと、呪術の・・・」

()()()魔法使いの弟子のシルヴィアです」


 呪術はもう隠せないモノだとしても、連呼は止めて欲しい。

 無駄に不安が広まって困るのはこの国の民であって、わたしでは無い。

 でも師匠の生まれ故郷と喧嘩をしたいわけでは無いから、連呼は止めて欲しい。


「と・に・か・く!!ここで会ったのも女神様の采配!私、今日はシルヴィアちゃんのお説教に来たんです!!」

「ちゃん?」

「あなたってばいつもいつも。ルカ様に迷惑をかけるだけに飽き足らず!学院にまでついて来るだなんて、いったいどんなつもりなの!?」

「学院にまで、とは・・・?」


 ルカさんに何かしらの迷惑をかけてはいるだろうけれども、そもそも、そんなに頻繁に会ってない。

 もしそうだったとして、この方に責められる謂れは無い。


「知らないふりをしても無駄よ!ルカ様に会いに、教会にまで押しかけていたのでしょ!?」

 押しかけているのはファルンさんの方では??

 なにより。

「わたしは教会に行った事は無いです」


 ファルンさんの目が零れそうなほど丸い。


「無いの!!?」

「え!?シルヴィアさん教会に行った事が無いんですか!?1度も!!?」

「教会よ!?無いの!!?」

「なんでハルベルさんも驚くんですか!?」

 って、他の生徒さん達も驚いてる様子でザワついてる?


「生誕月の感謝の礼拝とか、新年の祝いの礼拝とか、どんな人でも年に1度は教会に行くはずで・・・あ、でも、この国で生まれたわけじゃないなら、生誕月は行かない??え?でも、シルヴィアさん本当に1度も行った事が無いの???」

「懺悔とかは、いつでも行っていいのよ?シルヴィアちゃんも心の中のお悩みとかあるでしょ??いつでも大丈夫だから。ほんとう。懺悔は誰でも、自由だから」


 ファルンさんまで焦っていらっしゃる。

 この国の人は本当に、地味に、信仰心が強い。


 ・・・もしかして、師匠が信仰心薄いだけ?

 いや、でも教会へは頻繁に行かれていたはず・・・。


「女神さまは心の広いお方だから、どんな人のお悩みも聞いて下さるのよ!」

 と、今はファルンさん達と会話中でした。

「悩み・・・応用魔法って、どうやったら扱えるんでしょうね?」

 目下一番の悩みといえばコレ。


「「「「そうじゃなくて!」」」」


 皆さん、息ピッタリ。

 まぁ、聞きたいのはそこじゃ無い事くらい分かるけど。


「教会へは、いつかは、行ってみたいと思ってるんですけど。こんな外見も相まって、お屋敷を出る機会があまり無いんですよね~」

 整えて貰った髪をつまんで、左右に振って見せる。


 帽子だけでは隠しきれない漆黒。

 師匠のように転移も出来ず、ゼンさんやユタの様な変装も出来ない。


 結論、無駄に目立つ。


 それになにより、教会からルカさんを通して「あまり気安く来てくれるな」とも言われている。


「ファルンさんの誤解が解けるかは分かりませんが。ルカさんとは、お客様としてお屋敷内でたまに会う、知人の域を出ない関係性です」

 ルカさんだって、わたしと懇意だと思われるのは不本意なはず。

「今回学院に来られている理由は、ファルンさんが直接ルカさんに確認した方が誤解も無くて安心です!!」

 面倒事を押し付けられるし。

「なにより話すきっかけになりますから、次回からは本人に突撃してください!!」

 

 ハルベルさんが心配そうにこちらを見ていますが、今回は『お願い』不使用。

 昨日の反省も兼ねてしばらくは我慢。


「・・・あなたが付きまとっているわけじゃないのよね?」


 なにやら疑いが残っておられる?

「付きまとって無いです」

「私の、勘違い??」

「勘違いです」


 眉間に皺を寄せながら頭を抱えるファルンさんを見守りつつ、他の生徒の様子を探るも、みなさん疑心暗鬼な様子。


「もしかして、呪術師が悪い人っていうのも、私の、勘違い???」

 そこ?

「人によりますから、警戒はしても良いと思います。でも、わたしは安心な存在です!!」


 ちょっと呪術関連で巻き込みそうで申し訳ないな~、とは思っているけれど。

 そんな事、今ここで言ってもしょうがないので、後々巻き込んだ人には個別に謝罪します!!


「シルヴィアちゃんは良い子だけど、悪い人も居るかもしれない、って事ね!」

「この国の人が全員、善人で無いのと同程度だと思います」

「直接お話ししてみて、シルヴィアちゃんがルカ様の事を愛していないことは分かったわ!!」

「それは良かった」


 とんだ勘違いもあったものだけれど、何となく師匠のやらかしが原因な気がするから、深堀しない!!


「それじゃあシルヴィアちゃん!お昼は一緒に食べましょう!!私、教会について色々知ってるのよ!お詫びに教えてあげるわね!!」

「お昼ご飯は、ハルベルさんを誘おうかと思ってまして・・・」

「ハルベルちゃん?」

「あ、私です。ラティス男爵家のハルベルと申します。オルロ様さえ宜しければ、私もご一緒させて下さいますか?」

「ファルンで良いわ、ハルベルちゃん!食べる人は大勢い居た方が美味しいのよ!!他にもご一緒したい人が居るならみんなで食べましょう?とりあえず、食堂の前で待ち合わせでいいかしら?」


 師匠、なんという事でしょう!

 授業初日にして脱☆ぼっち飯です!!

次回、昼食と聖女襲来2。

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