その11:仲直りと聖女襲来
気が付いたら、寮のベッドの中でした。
北側の窓から差し込む光が柔らかくて、もう一度寝てしまいそう。
「お嬢、お湯用意したから身支度して。制服新しいの出しとくから、洗濯物は適当にその辺に投げといて。自分は朝食の受け取りに行ってくるんで、さっさと起きて。あと白湯は机の上」
ユタの声と共に開けられるカーテン。
慌ただしく動く気配と、わざと音を立てて閉められるドア。
せっかく師匠の魔法の余韻に浸っていたのに、朝は無情。
用意して貰った白湯を飲んで、お湯で身を清めてから新しい制服に着替える。
昨晩は結局、殿下にお会いする事が出来なかったので、しぶしぶではあるもののお伺いのお手紙を書いて・・・。
書くのはいいけど現代語、面倒くさい。
殿下は勤勉らしいから古語でも良いか。
「手紙に古語はまずくない?はい、朝食」
帰って来たユタが、1人分の朝食を並べてくれる。
今日のメニューは、葉物野菜と目玉焼きに拳大の黒パン、じゃがいもとハムのスープ。
「ありがとうユタ!」
手早く手紙とペンを片付けて、ご飯の前へ移動。
「いただきます」
今日もひとりご飯かぁ・・・。
「お嬢、食べながら聞いて。今日は校舎の入り口でリボンの受け取りだから自分で付けて、クラス一覧の張り出しも同じ場所だから確認も忘れないようにしてね。自分は情報収集しに街に出てくるから、お嬢はくれぐれも問題起こさないように。教師の言う事をよく聞くこと。とりあえずここまでで質問ある?」
食べてる合間にも、ユタが髪の毛を結ってくれる。
「授業には付いて来ないって事?」
「お嬢の身分は一応、庶民だから。校内へ使用人を連れてけないの」
「護衛とは?」
「帰ってきたら校舎の外から見護るって事で。本来は何かあっても学院側の責任っていうか・・・王族でもなきゃそこまで大事にしないんじゃない?」
そうかもしれない。
「ユタ。無理せず、情報収集しっかりね!」
「言われずとも。お嬢はほどほどに。あとさっき書いてた手紙は直すべきだと思う」
せっかく書いたのに!?
そこまで言われたら、しょうがないから後で誰かに相談しつつ直すとして。
「昨晩は師匠から頼まれ事とか無かった?」
景気づけに、寝てる間の師匠の話が聞きたい!
絶対に何か指示されてた。
「お嬢の服はそのままで寝かせろって言われた」
「他は?」
「朝まで起きないだろうけど気を付けて運べってさ。過保護過ぎない?」
「嬉しいから良し!」
「そりゃ良かった」
隠し事が在るのが透けて見えるけど、時間も迫ってるし気分が良いから見逃してあげよう!
今日から授業が始まるし、気合いは充分!!
「本日の目標は、ベルベルさんへの謝罪と殿下への面会申し込み、そして1番は!友達を増やすこと!!」
「まぁ、気合は大事。やり過ぎ注意と、強要は厳禁で」
「頑張る!ご馳走さまでした」
さくっと朝食を食べ終わり、身支度を改めて確認してもらってから部屋を出る。
少し時間が早いものの、校舎へ向かう他の生徒が居るので、後ろを付いて歩く事に。
なんだか周囲の人から距離を取られている気がする。
魔晶石の件で怖がられているのかしら?
ただの庶民で新入生なのに?
黒髪が目立つとか?
無駄に噂される位なら、正面から聞きに来て欲しい。
そうすれば、答えられる範囲で答えるのに・・・。
まずは同じ教室になる人たちから少しずつ、お昼ご飯を一緒に食べられる仲になりたい!
と、気が付けば無事に校舎へと到着。
入り口で2年生用の黄色のリボンを受け取って、改めて気分が下落していく。
「3年生なら赤色だったのに師匠の色を逃すだなんて・・・」
ちなみにクラスは1組でした。
貴族の人が多いみたい。
友人作りよりも先に、進級したいかも。
気分を凹ませつつ、ひとり虚しく2階へと向かう事しばし。
「おはようございます」
「この声は、ハルベルさん?」
視線を上げると、廊下の先に立っていたのは、やっぱりハルベルさん!
「シルヴィアさん、大丈夫ですか?なんだかとっても落ち込んでる様に見えたので。私に話しかけられるの、余計なお世話かもって思ったんですけど。つい心配で」
わたしと同じ黄色のリボンを付けて、手には美味しそうな香りのする紙袋。
あれは、きっとお菓子。
「おはようございますハルベルさん!昨日はごめんなさい。その後お加減はいかがですか?」
まずは謝罪。
もし許されなかったとしても、迷惑をかけたのは事実。
謝罪は大事って、ゼンさんが言ってた。
「もう大丈夫ですよ!朝ごはんもちゃんと食べられて元気です」
「ならひと安心!」
確かに、昨日別れた時よりも顔色は良い。
「あの、こちらこそ、昨日は探る様な真似してごめんなさい。不快にさせてしまって・・・信じて貰えないかもしれないんですけど、お友達になって欲しかったのは本当で。それで、これ。お詫びのしるしに、お菓子を焼いて来たんです。もしよろしければ受け取って欲しいなって。でも・・・」
「ハルベルさん優しい!昨日のお菓子も凄く美味しかっったのでぜひ貰いたいです!!」
やった~お菓子!
わたしも謝罪の品を用意すべきだったかもしれないけど、今度考えるって事で!!
さっそく受け取った紙袋の封蝋を、丁寧に開けていきます。
「えっと。私が言うのもおかしい気がするんですけど。もっと警戒しなくて大丈夫ですか?昨日の今日だし、何か混ぜられてたら危ないと思うの」
「例えば、昨日のお茶みたいな?」
「あれ、良くない物だって知らなくて。本当にごめんなさい」
「あれは常飲しなければ、気にするほどの量でも無いので別に・・・、っていうのと、香りが良いのは確かだな~って。故郷に居た頃はお茶として楽しむ考えが無かったので、発想に関心しました。むしろ懐かしくて、感慨深かった的な・・・開いた!」
紙袋の中身は、ひとつずつ丁寧に油紙に包まれて、まだほんのり温かい。
「でも・・・」
困り顔のハルベルさんを安心させる言葉とは?
「あの手に効く解毒薬を常に持ち歩いてるので大丈夫です!」
「それはそれで心配」
「なにより!あんな事があっても話しかけてくれて、お菓子までくれて、心配までしてくれる。そんな友達の心を疑うのは疲れるので、お菓子いただきます!」
「えっと」
「美味しい!!」
濃厚なバターが香るパンケーキに、ドライフルーツの酸味が合う!
小ぶりなサイズなのに満足感が凄い!!
これは師匠と一緒に食べられたら幸せ倍増な予感。
ハルベルさんに教われば、わたしも作れるようになる?
手作りのお菓子で誘惑するのって良い案では!?
残りはお昼に食べるとして。
「ご馳走様でした!ハルベルさんの作るお菓子は本当に美味しいので作り方を教えて下さい!!」
「信じてくれてありがとう。私も、魔法の勉強を一緒にやって貰えると嬉しいです!」
「喜んで!」
これにてハルベルさんとは無事和解。
「シルヴィアさんて、変わったお人ですね」
「よく言われます。自分では普通だと思うんですけど」
「それは、ちょっと無理があるかも」
それも良く言われます。
「そういえば。わたし、クルーベルさんにも謝りたいんですど、今どちらに?」
「今日は朝から別行動なんです」
「そっか。3年生なんでしたっけ」
正直凄く羨ましい。
「ルーベちゃんも謝りたいと言っていたので、また今度時間を下さいね」
「お昼も会えないですか?」
「・・・。正直に話すと、ルーべちゃん貴重な体験が出来たって、大喜びで執筆作業に入っちゃって・・・」
「あぁ。小説家って噂、本当なんですね」
「そうなの!ロゼって名前で本を出してて、結構人気なんですよ!」
「世俗に疎くて・・・」
「今度貸すのでぜひ読んで下さい!シルヴィアさんから感想をもらえたら、ルーベちゃんとっても喜びます!」
「じゃあ、ありがたくお借りしますね。どんなお話か楽しみです!」
なんか、こういうの、凄くお友達らしい会話な気がする!!
ハルベルさんも同じ組だったので、一緒に教室に入って適当な席へ着席。
と、同時に大きな音を立てて開かれる教室の扉。
「黒髪・・・。黒髪・・・」
どうやら入って来た女子生徒の探し人は、わたしの様子。
でも顔に覚えが無い。
ので、ちょっとだけ魔力を拝見・・・って、聖女?
「居た!貴方が呪術の、・・・悪魔的な悪い人ね!!」
お口が悪い!
次回、神官長の孫。




