裏話その3:夜の訪い
師匠視点の裏話です。
昔、シルが連日徹夜をしていた頃に使った睡眠魔法。
以前よりも少しだけ耐えられるようになったみたいで、弟子の成長が愛おしい。
まぁ、まだ眠気に勝たせてはあげられないんだけど。
倒れる体を後ろから支えて、後ろの木に声を掛ける。
「ユタ」
「ここに」
ついでに邪魔な壁も壊してしまおう。
ユタじゃぎりぎり壊せないもんなぁ。
「シルを部屋まで運んであげて。制服は替えがあるからそのままで。睡眠魔法の影響で朝まで起きないけど、気を付けて運んでね。あとは、メモ渡しとくから読んだら燃やして、速実行」
「承知いたしました」
メイド姿のユタにシルを預けて、今度は怒ってるルカ君の相手。
振り向くとそこには頭を抱えているルカ君の姿が!!
「人の丹精込めて作った障壁に、転移で容易く入ってくんな!」
「要改良って事だね!」
「後、中から割って人を入れるな!」
「そこも要改良って事だね!」
いや~愉快愉快。
ご自慢の障壁も、片手間だとこんな程度だよね~。
国を覆ってる方は一撃だと割れなくなってきたから、久しぶりにすっきり爽快な気分。
「俺の横恋慕を弔うんじゃなかったのか?」
「横槍を入れないとは言って無いんだよなぁ」
「じゃあ最初から止めに入れ!手間が省ける」
「基本的には自由にさせてあげたくてね。でも今、ルカ君が寝込むのは流石に困るなって」
「寝込む?」
とりあえずルカ君の側まで寄って、目的の子を探す。
「こちらシルのペットで、蛇のホシちゃん。猛毒があるけど、むやみに噛んだりしないから安心してね!」
ルカ君の足元から1匹、小柄なまだら模様の蛇を持ち上げる。
やや不機嫌なのか、口を開けて威嚇してくる。
「で、こっちがシマちゃん。毒はないけど締め技が得意」
反対の手で、ルカ君の背後から大きめの蛇も持ち上げる。
こちらもやや不機嫌なのか、腕に巻き付いてくる。
僕でも危ないので、先にシルの部屋へと転移で送っておく。
今回の課題で魔法にしか制限を設けなかったのは、追手の事も考えてだったんだけど・・・。
「魔力も無いただの蛇って、つい見落としちゃうよね~」
「いや殺意が高くないか?」
それだけシルの手札が無かったとも言える。
障壁破りのコツは、不意打ちと技量だと僕は思うから、いつかシルにも教えてあげよう。
僕の家に来てからは一度も蛇たちを使う様子が無かったから、奥の手の1つだとは思うんだけど。
何をどれだけ隠しているのか、実は僕も把握しきれて無かったりする。
さっきの子達に気付けたのも、学院に連れて来ていると知っていたから反応出来ただけで、まさか服の中に隠れているとは思わなかった。
無計画とは思えないから、ルカ君の警戒度を上げさせたかった、とかかな?
「解毒薬は常時携帯してるはずだし、ルカ君相手なら大丈夫だと思ったんじゃないかな」
「その信頼は嬉しくないし大丈夫でもない。ちゃんと躾けろ。蛇の気まぐれで一般人に危害が及んだらどうする」
「今までだってそんな事件は起きてないから、シルのペットに関しては杞憂。っていうのと、あの子達はおばばの形見だから、制限しづらかったり」
一応、手を合わせて首をかしげ、無駄に媚びてみる。
「お前と言い、ばあさんと言い・・・」
これは効果有り!
「命があれば全て些事だよ!」
「些事で済ますな!使っても呪術の方だと思っていたから油断した」
「油断とは命取りだな~。ちなみにあの子達も呪術の道具らしいから、広義の意味では呪術だよ」
色んな使い道があるらしいけど、僕ら魔法使いには再現できないものが多くある。
実に興味深い分野だ。
「そういえば、シルヴィアから魅了魔法習得が課題って聞いたが」
「殿下を魅了出来たら凄くない?」
「酷い師匠だなとは思う」
「おばばの事かな?」
僕の事なんだろうけど。
「んで、ハルトの用は?まさか横槍の為だけって訳ないだろ?」
「ん?僕も殿下に用事があって、先にお部屋に伺ってたんだ。でも外にシルが来たから話を切り上げて、様子見がてら屋根の上で飲酒してただけだよ」
「飲酒・・・」
「弟子達の成長で酒が美味い!」
「達って言うな!!」
ルカ君も含・め・て、なんて口にしてないのに~。
何を隠そう、ルカ君が神官に就いたのも、国の要を担当しているのも、きっかけとなったのは僕。
魔力が凄く多い同年代の少年が居たから嬉しくて、毎日のように教会に通って鍛え上げていたら、いつの間にやら凄く信心深いひねくれ者に育ってしまっていた。
王都に来たての頃のルカ君はそれはそれは、素直な子どもだったのにね。
反省はしてる。
だからシルの事以外で、ルカ君の願いは出来る限り叶えてあげたいと思っている。
長官を焚きつけて国の防御壁強化を最優先でやったり、維持魔力の消費を抑えられるように魔法陣に詳しい他国の魔術師を誘拐してみたり、孤児院の子も読めるような魔法入門書を作成してみたり。
僕ってば魔法くらいしか役に立てないから、毎度怒らせてばかりだけど。
「どうせハルトも殿下の部屋行くのに不法侵入してるだろ。護衛騎士はどうした?」
そういえば、そんな会話の最中だった。
「不法侵入だなんてそんな、人聞きの悪い」
「転移魔法か」
「徒歩だよ?」
「なんでだよ!?」
「お伺いは立ててないけど」
「じゃあ不法侵入だよ!!」
そうとも言う。
「実験兼ねてたからさ。護衛に遭わず、王族の私室まで行けるのって不用心だと思わない?」
半分以上は嘘だけど。
警備状況が知りたいなって建前で、ただ王族寮の中を歩いてみたかっただけ。
つまりは好奇心が動機の大半を占める。
「お前が敵対人物で無くて良かったとしか・・・。念の為、殿下の護衛不備に関してはハルトから上に報告しといてくれ」
「不法侵入は許された!」
「許してはいない!!貴族らしく事前に伺いは立てろ。お前がそんなだからシルヴィアも覚えないんだ」
「そう言われると弱い。爵位って面倒だなぁ。報告って陛下でいいかな?」
「いきなり1番上。爵位が有っても難しいだろ・・・」
「大丈夫だいじょ~ぶ。じゃあ今から報告してくるよ。警備の事だから、早めが良いよね」
念の為、魔法で作った鳥を先に送ってちょっとだけ様子見。
「待て。こんな時間に?もう夜だぞ?」
「こんな時間の方が陛下は手が空いてるからね」
昼間は書類仕事とか会談で忙しいから、突撃すると怒られる。
大丈夫そうだし行こうかな、って思ったら呼び止められた。
「ハルトのここでの要件は、全部済んでるのか?」
勝手に割り込んだのはこっちなのに、気にしてくれるのがルカ君の良い所。
「うん。目標は達成済み。昼の件が僕も気になってたからさ!ちょっと異性の好みを聞いてきただけだよ。胸の見過ぎは嫌われるから、ちゃんと相手の顔を見て会話しようねって説教付きで」
「殿下相手に、シルヴィアの胸を見んなって釘を刺してきたと」
シル本人はまったく気にしないだろうけど、一応ね。
「大人げない。それに師弟揃って質問内容が一緒とか、本当に思考回路が似てる・・・」
「10年も一緒に暮らせば多少はね?」
「それで?殿下の好みは何て?」
自分の事は話さない癖に、他人の好みは気になるのか。
ちょっと迷ってから、人差し指を唇に添える。
「内緒」
別に守秘義務が有るわけじゃないけど、話す義理も無いわけで。
「まぁ、持ち直せるかどうかは本人たち次第って事で」
「・・・それは、ほぼ答えじゃないか?」
ルカ君には、ヒントだけで十分だったみたいだけど。
若人の初恋がどう転がるのか。
「僕はお酒片手に高みの見物するだけだよ」
「悪趣味だな」
「誤解で女の子を泣かせるのは許せないから、多少はね?」
「・・・同意しようかと思って気付いた。俺、泣かせてる側だ・・・」
「誤解じゃなくてお孫様の思い込みだけど、そうだね?」
頭を抱え込むルカ君の顔色はなかなか酷い。
無視するのが1番手っ取り早いと気付いているのに、慈愛の精神が勝ちすぎてる。
お孫様が聖女ついでに占術で託宣なんて出したもんだから、余計ややこしくなった気がするな~。
でもこればっかりは、僕の実家の権力を使ったとしても解決は難しい。
とりあえず、悩めるルカ君にも睡眠魔法をかけて、教会の私室まで一緒に転移。
明日は多分、もっと大変な事になるだろうから。
寝られる内に寝かせてあげよう。
教会の弱みが握れて、僕的には嬉しいんだけど。
早めに解決してあげたいな。
次回、仲直りと聖女襲来。




