その9:案内人
「結果的にシルヴィアさん側の問題が浮上しましたから、無駄とまでは言えないかと」
「国からの追手は、いつか来るかもって思っていたので、準備万端どんと来いです!酷い目に合わせてやりますよ!」
「それもどうなんでしょう」
師匠経由で最低限の情報は確保してるから、問題無し!!
「でも無駄骨になるといけないので、今度は行動に移す前に、誰かに確認します」
「そうして頂けると、フォローがしやすくて助かります」
「お嬢様方、御歓談中のところを失礼致します。ユスフ魔法伯家の遣いでシルヴィア様のお迎えに参りました」
背後から突然聞き覚えのあるバリトンボイス。
これは師匠の侍従を勤める、ゼンさん。
お城に1人で赴く際に、必ずついて来てくれたのでカロン様とも顔見知り。
「が、それよりも先程聞こえましたお話の内容が気になりますので、今度は何をなさっておいでだったのか、少々お伺いしても宜しいですかな?」
隠密が得意で年齢不詳。
魔法で髪色や目の色を毎日変えているのだけれど、なにせ声が凄く良いのと壁のような長身に分厚い筋肉、その上で古典的なメイド服を纏う、特徴の塊。
視覚の暴力、奇行の達人、文字通りのやべぇ人です。
ちなみに趣味で着ているメイド服は、本人拘りのくるぶしがギリギリ出るスカート丈で無駄に上品。
しっかりと鍛えた筋肉も、ゆとりを持って覆い隠す事に意味があると豪語し、いつでも長袖のメイド服で生活している生粋の変人。
こんなにふざけた姿で気配を殺すのが得意なところと、お城への入場が許可されているのが、怪異じみてて本当に怖い。
心なしか、カロン様の使用人さん達も視線を逸らして震えています。
「やらかしてません。一応。ぎりぎり。多分」
「丁度、シルヴィアさんを探している黒い姿の商人が居ると発覚したところでしたの。魔法伯様へ伝えて下さる?」
「承知しました」
よし、許された!
「ところでシルヴィア様。まさかあの妙な『お願い』を用いて聞き出したりなどは、しておりませんでしょうな?」
許されてない!
バレてる。
まずい。
いつも改良につき合わせてたから、ゼンさん『お願い』嫌いなのよね。
メイド服が趣味で全て自作だって喋らなせてから、当たりが強くて・・・。
「情報収集の為に使用しましたが、そんな事より丁度良い所に!わたし寮のお部屋が分からないんです。送って下さい!!」
「お部屋までのご案内に関しましては、迷子になるはずだと主人から頼まれてここに参りましたので元よりそのつもりでございます。間者につきましてはこちらでも探っている最中ですのでくれぐれも、く・れ・ぐ・れ・も・余計な手出しは無用でお願いしたい。せっかく学び舎に入られたのですから、多少は魔法伯家の奥方様に成られる自覚を持ち、大人しく一般常識を学び、魔法習得に集中しては頂けませんか」
わたしの片思いがバレている!?
誰にも言ってないのに師匠にもバレてたし。
感情が筒抜けなのかしら?
それともご褒美が結婚だからバレたのかしら?
でも奥方様の響きは悪くない!
むしろ良い!!
「善処します!!」
「では、私のお茶会はお開きといたしましょう。クルーベルさんとハルベルさんに関しては、後はこちらで対処しておきます。慣れない人ごみで疲れたでしょうから、後はお部屋でのんびりしてくださいな」
カロン様からも何となく、無言の圧を感じます。
「ありがとうございます。夕食後に散策に出たいのでそれまで大人しくしておきますね」
「ゼンさん誰か付き人の予定はお有りかしら?」
「寮に入られてから後の事はユタに任せます故、おそらく大事には至らないかと。何かございましたら教員棟に居ります我が主まで遣いの者を寄こして頂ければ、別の者も対処にあたります」
「なら大丈夫かしら」
まるで信用が無い!
まあそれでも動くのだけれど。
カロン様にお別れの挨拶を告げてゼンさんの横を歩く事しばらく。
1階の角部屋がわたしのお部屋でした。
一応2人部屋なんですけど、同室の人は居らず、貴族籍でも無いのに付き人可。
しかも付き人の控え用に隣の部屋を使うそうで、真上の部屋も未使用との事。
「思ってたより広くて困惑です。学生寮なんて、机とベッドと洋服が仕舞える棚さえあれば、大きさは十分なはず。なぜわたしの為に3部屋も使うんでしょう?無駄が多いのでは?」
「貴族向けの部屋はもう少し広くなっております。それと使用人に別部屋を用意するのは基本です。真上は、念の為の空室でございますね。扉横の棚の上に、魔法障壁用の魔道具がございますので、くれぐれも壊されません様、十二分にお気を付けてお過ごしください」
覗いてみれば両手でやっと持ち上がりそうなサイズの箱があります。
コインサイズの魔晶石を使用した魔道具!
これはどれほどの効果を発揮するのかちょっと気になる!!
でも、なぜか動いて無い。
「いざという時の、奇襲対策ですか?」
「逆でございます。他所様に迷惑をかけない為の気休めと、対外的なパフォーマンスでございます」
「つまりわたしを封印している風を装うための物?」
「有り体に言えばその通りでございます。実際に稼働したとて、置物にしかなりますまい」
とすると部屋割りの段階で、学院の上層部にわたしの情報が知られていて・・・。
魔力量か呪術の方か、あるいは両方を警戒してる人物が居・・・ますよね当然。
なんせ王家依頼の裏口入学だから、有力貴族にも知られていてもおかしくはない。
お庭での一部の噂話も納得できる。
まあ、やる事の邪魔にならないのなら、すべて些事。
「旦那様より、学院生活を送る上で呪術の制限はかけていないと伺ってはおりますが、使用の際は十分にお気を付け下さい」
「さっきのは、薔薇園にゼンさんの魔力が漂ってきたから大丈夫かなって!」
「私の魔法は音を消す効果はございません」
「ユタが居れば音は誤魔化せるから大丈夫かなって!」
「義息子の魔法は広範囲の音には効力が半減します。なによりお姿を隠すには魔力が足りません。ご自身の魔力と今一度向き合う、良い機会やもしれませんな」
風と水の複合魔法。
ゼンさんお得意の幻覚。
ユタが使えるのは、朝、師匠が使ったやつの下位互換。
お屋敷で教わっていたけれど、何かが腑に落ちない所為か、上手く再現できなくて・・・。
ただの突風と水の塊になる不思議。
魔力量だけなら師匠より多いのに。
風刃や水刃すらできないのは何故なのか。
「私はこれにて失礼させて頂きます。お嬢様達が良い学院生活を送れます事を、陰ながら応援しております」
「ありがとう」
本当に影から見てそうで、ちょっと怖いけど。
ゼンさんが部屋を去ると同時に、窓からユタが入ってきました。
「おやっさん行った?」
「分かってるから入って来たんでしょ?」
「窓から入ると怒られんだよ」
「ちゃんと扉から入ればいいのに」
「ちょっと時間に遅れたから、遭うと確定で怒られんだよ」
「ならしょうがない」
ゼンさんの拳骨は凄く痛い。
ユタは元暗殺者で、師匠のお屋敷に侵入した際、わたしの呪術に掛かってゼンさんにこてんぱんにされた、現養子で使用人。
ゼンさんの愛の鉄拳で叩き直され、女装にはまった自己愛強めの残念野郎。
ぱっと見はメイド服を着た儚げ美女。
濃い紫の髪をしっかりまとめて項を強調し、眼鏡越しに覗く桃色の瞳に泣き黒子、紅い唇に口元の黒子がそれぞれ婀娜めいた雰囲気を演出するそうで、異性同性問わずウケが良いとは本人談。
趣味はその辺の男性を適当に釣っては酔い潰し、宿に置き去りにする事。
恋愛対象は女性ながら、自分より年上の美人が良いと、日頃から宣う豪胆さ。
いつか切り捨てられるに違いない。
「そういえばユタも二股三股しそうな人間ですよね」
「突然なに?そもそも恋人がいた事なんてないけど」
「・・・」
「いやホントだって。おやっさんにボコられたく無いし。てかもって何?」
「そんな話を聞いたもので」
「変な知識入れてこないでよ」
同い年なのも相まって気安く話してはくれるけど、おやっさんの躾と呪術への警戒からか、距離はいつも遠い。
追いかけてみても、足が速いから近づけた事が一度も無い。
まるで懐かない猫である。
「んでお嬢、飯の後どこに行く気?」
「盗み聞き、はしたない」
「仕事なもんで」
カロン様とゼンざんに確認した。
ユタも居る事だし。
「とりあえず、今日中に第2王子殿下へご挨拶に行きます!」
次回、不法侵入。




