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プロローグ:事の経緯

 わたしが好きな人は意地悪である。


「わ、わたしの、に・・・だって、好きな人・・・好意を寄せる相手くらい、いるんですよ師匠!!」


 わたしはシルヴィア。

 名前は世界一と名高い魔術の、師匠に貰ったわたしの2番目の宝物。

 1番は・・・。


「僕でしょ?」


 そう、師匠!!


「・・・ふぇ?」


 思わず声が漏れてしまった。

 慌てて師匠から距離を取る。

 魔法!?いつの間に??


「なんで!?どうして??」

「魔法じゃ無いし、魔眼でも読心術でも無いよ」


 長い脚が、せっかく空けた距離を一歩で埋めて来る。


 なんで、なんでわたしの好意を知ってるの!?

 まだ一度も告白できてないのに!

 誰にも言った事ないのに!!


 まあ、そもそも、わたしには友達も親しい知人すら居ないんだけど・・・。


「技術に頼らずとも、君ってば全部ダダ漏れなんだよね」

「ダダ漏れ・・・」

「特に視線が分かりやすい」

「そんなぁ〜」


「でも僕は、今の君に魅了されてあげらるほど安くない」

 妖精王と称されるほどに美しく、賢者と目されるほど知識も優れた自慢の師匠。

 その白くて長い指がわたしの顎を掬うようになぞる。

「だから魔法の練習がてら、魅了魔法習得に向けて可哀そうな第2王子およびその近辺のバカ子息どもをちゃちゃ~っと骨抜きにしてきてほしいんだ。愛弟子(シルヴィア)


 ・・・前言撤回!!

 意地悪どころじゃ無い!!やっぱりわたしが好きな人は最低である!!

 それでも好きなんだけど!!

 いやそもそも、今日呼び出してのひとこと目が「ちょっと男を誑し込んできて?」の時点で最悪だったのに、さらに人の気持ちを知った上で踏みにじるかのようなこの仕打ち・・・。


 って、相手が第2王子!?


「い、意味がわかりません!!」

「分からずともやるんだよ」

「王族相手なんて、魔法防御も山ほど備えてるはずで、そ、そもそも神官のなんかこう、特殊な防御壁~とか物理的な護衛騎士とか色々?」

「大丈夫」

 

 添えられたままだった指にさらに上を向くよううながされ、顔に影が差す。


 淡い銀色で、サラサラで、長くて綺麗な髪。

「大丈夫」

 魔力の籠もった赤い瞳。

「シルなら簡単に出来るよ」

 少し高いのに落ち着いた声。

「僕の拾った愛弟子なんだから」

 わたしの世界で1番好きな人・・・。


 ってこれ師匠の魅了魔法!!


「男の5・6人騙して侍らせるなんて簡単だよ」

「多くないですか!?」


 美しい顔に清楚な笑顔。

 最低な発言。


「僕に告白するよりは簡単だよ」

「わたしの乙女心は傷つきました!!」

「シルはもう少し魔術の使い方になれるべきだと思うんだよね」


 ふと師匠の表情が真剣なものに変わる。


「僕の魔法にだって今みたいに対抗出来て、保持する魔力量もとても多い。才能があるのに開花しない。君を拾ってから付きっきりで基礎を叩き込んであげたのに応用はボロボロ。理解出来てないんじゃ無い、心のブレーキが強すぎるんだ。切れ味の悪い包丁ほど危ない物は無いと知っているだろう?切られる側の人間からしたら堪ったものじゃないだろうね。総合的に評価して、僕の弟子にあるまじき失態だと思わないかい?愛弟子(シルヴィア)

「それは、本当に、そう?ですけど・・・」


 この人に拾われ早10年。

 包丁の例えはよくわからないけれど、自分の中に他人よりも膨大な魔力がある事を教えてくれた。

 その上、忙しい合間を縫って、手荒くもみっちりしっかり魔法についても教しえてくれた。

 に・も・か・か・わ・ら・ず・いまだ基礎しか上手くできない残念具合には、本人ですら頭を抱えている訳で・・・。


「でもなんで、そんなぶっつけ本番な練習方なんですか!!王族はまずいですって・・・最悪首と胴体がおさらばしちゃう~」

「だから大丈夫って言ってるだろ?そもそも依頼主が国王陛下なんだよ」

「国王・・・?」

 つまり、・・・この国の王様??

「先日、占術師からの託宣を受けた王家から直々の、正真正銘正式な依頼だよ。安心した?」

「不安が増しました」

「何故?」

「逃げ場がない・・・」

 この国は地味に信心深い人が多い。つまり託宣はほぼ絶対。国の総意とみていい。

「じゃあ大丈夫だね」

「だいじょうぶじゃないです~・・・」

 荷が重い~。


 あんまりにもあんまりな出来事で、その場に崩れ落ちてしまう。

 せっかく師匠からの呼び出しだからと、張り切って白いスカートなんて履いてこなければ良かった。

 あわよくば、今日こそは告白をと思っていたのに。とっくに気付かれていたなんて・・・。

 しかも相手にされていなかったなんて・・・。

 

 朝の自分を抱きしめてあげたい。

 前日の夜はお湯に長く浸かったし、普段使わない香油で髪をすいて来たのに、真っ黒な髪が土に塗れてしまった。

 実は苦手なお化粧だってしてきたのに・・・。紅をのせただけだけど。


 精一杯おめかししてきたのに~!!

「わたしの心がもてあそばれてる!!」

「手のひらで転がしているだけだよ」

「ひどい・・・」

「ところで今回の予言の内容についてだけれど」

「ひどいぃ」

 師匠はこうと決めるととても頑固。そこも格好良かったりするけど今回のは無い!!酷い!!


「魔法学校に入学される王子殿下とその近辺が、1人の女生徒と恋に落ちて、(まつりごと)を引っ掻き回した上に貴族社会を混沌たらしめ、果てには国が滅ぶという事らしいんだ」

 国が滅ぶ・・・1人の女生徒・・・。

「つまり・・・わたし?」

「一応、その生徒とは聖女らしい」

「じゃあ違いますね」

「君の本質は呪術師だからね」

「ふぐぅ」

 そう、わたしは師匠に拾われるまで呪術師だった。

 育ててくれたおばばの後を継いで、地味で狡い呪いをいろんな人に掛けてきた。

 どう間違っても聖女では無い。

「だからシルが聖女より先に馬鹿(王子殿下)どもを魅了して、王家の傀儡(かいらい)を作って欲しいんだ」

「言い方!!」

公僕(いぬ)を守ってあげて?」

「言い方!!」

「ちなみに報酬は僕と君との結婚許可だよ」


 けっ、こ・ん??

「・・・今なんて?」

「君は呪術師なのに魔力が大きすぎるから魔術師(ぼく)に弟子にされたでしょ?」

「そうですね」

「でも呪術師は教会にも嫌われてるから書類上この国で結婚はできない」

「そう、ですね」

「そんな嫌われ者を国王が事実婚ですら許すはずが無い」

「そう、・・・ですね」

 そう、知らなかった事とはいえ、この国で呪術は禁忌・・・本来なら、よくて国外追放。近隣の国でも受け入れてくれないところがほとんどだと聞く。

 育ててくれたおばばには凄く感謝してる。

 もしわたしが師匠を呪わなかったら、きっと出会う事はなかったし。そもそもこうして生きてはいられなかったはずだから。


「でだ、どうしても失敗したくない王家から君への報酬って事で教会に渡りを付けたらしいよ」

「なんで失敗したくないのにわたしなんかに・・・!」

「推薦者は僕です」

「なんで?」

「でも肝心の僕の心はまだあげられない」

「余計になんで!?」

「なぜなら!僕の好みは『僕並みに魔力操作の上手な子』だから!!今の君ではまだ足りない」

「そんな〜・・・」

 気分はとっても乱高下。


 ついに地面に埋まるんじゃないかという勢いで丸くなり、大粒の涙をぼろぼろ流すわたしの頭に師匠のヒンヤリとした手が触れる。

 頭上から降ってくる声は甘露のように優しく、やっぱり残酷だった。


「だからシル。課題は『魔法で王子を魅了する事』。できるよね?」




 結果的に、わたしはそれから人生初の受験をし、無事に()()合格を果たした。


 ・・・聞いて欲しい。

 わたしは12歳で師匠に会うまで読み書きはおろか、人との会話すらろくにしてこなかった元スラム育ちなの。

 この国における普通の勉強はおろかマナーもそこそこ以下しか学んでこなかった。

 おばばは呪術だけは一人前に育ててくれたけど何が呪言になるか、とかもざっくりとしか知らなかったし。

 師匠も魔術に必要な事はなんでも教えてくれたけど、全部古語だった。

 現代の書き文字や貴族社会のマナー、果てには国の歴史なんか知る由も無かった。

 つまりしょうがなかったの。


 本当は受験、落ちたの。

 一歩目から失敗だったの。


 出だしからこんなで、不安しかないよ~!!

次回、入学式。


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