第 6 話 ──Fランク探索者試験
一週間の訓練を終え、ついにFランク探索者試験の日がやってきた。
翔太は緊張した面持ちで試験会場に向かった。
「大丈夫よ、翔太。あなたならできるわ」
リナが励ましの言葉をかける。
レオンも珍しく穏やかな表情で言った。
「今まで訓練してきたことをそのままやればいい。
余計なことは考えるな」
「はい……やってきます」
翔太は二人に頭を下げ、試験会場へと入っていった。
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試験会場には、同じくFランクを目指す受験者が数十人集まっていた。
試験官が説明を始めた。
「Fランク探索者試験の内容は三つ。
一つ目、魔力制御。
二つ目、基礎防御。
三つ目、模擬戦闘だ」
翔太は息を整えた。
(魔力制御は大丈夫。問題は防御と模擬戦闘だ……)
防御と戦闘の訓練は始めたばかりで、まだ自信がなかった。
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第一試験:魔力制御
「番号23、佐藤翔太」
名前を呼ばれ、翔太は試験台に立った。
「手のひらの上に魔力球を形成し、三十秒以上維持してください」
翔太は深呼吸した。
(一分間維持できるようになったんだ。三十秒なんて──)
手のひらを上に向け、意識を集中させた。
──ふわり。
安定した光の球が現れた。
訓練の成果か、ほぼ綺麗な球体だ。
「十秒……二十秒……三十秒。合格です」
試験官がうなずいた。
翔太は小さくガッツポーズをした。
(一つ目クリア……!)
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第二試験:基礎防御
次の試験は防御だった。
試験官が魔法の光弾を放ち、それを防ぐというものだ。
「両手で防御の構えを取り、私の攻撃を受け止めてください。
怪我をしないよう、威力は最小限に抑えてあります」
翔太は両手を前に出した。
(レオンさんに教わった通り……魔力を盾のようにイメージして……)
──パシュッ!
光弾が飛んできた。
翔太は咄嗟に手のひらから魔力を放出し、壁を作った。
──バチッ!
光弾は魔力の壁にぶつかり、弾けた。
「……合格です」
試験官が言った。
翔太はほっと息を吐いた。
(危なかった……ギリギリだったけど、なんとかなった……)
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第三試験:模擬戦闘
最後の試験は模擬戦闘だった。
試験官が指を鳴らすと、訓練場の隅から一体のゴーレムが歩いてきた。
高さは翔太の腰ほど。訓練用の弱い個体だ。
「このゴーレムを無力化しろ。手段は問わない」
翔太は構えた。
ゴーレムがゆっくりと近づいてくる。
動きは遅いが、一撃の重さは相当だろう。
魔力放出を放ったが、ゴーレムがそれを軽々と弾く。
(ここからの魔力放出じゃ……まだ威力が足りない……)
翔太は周囲を見回した。
訓練場には木製の棒が何本か置かれている。
(あれを使う……!)
翔太は棒を拾い上げ、ゴーレムに向かって駆けた。
ゴーレムが腕を振り上げる。
翔太はその動きを見切り、横に飛んで回避。
「はあっ!」
棒でゴーレムの脚部を強打する。
バランスを崩したゴーレムが膝をつく。
その隙に、翔太は手のひらをゴーレムの頭部に押し当てた。
(レオンさんが言ってた……至近距離からの魔力放出が一番威力が出るって……!)
「魔力放出──!」
そのとき。
──パァァッ!!
手のひらから放たれたのは、普通の魔力ではなかった。
眩い白光がゴーレムの内部に溶けるように流れ込み、動力核が崩れていく。
「なっ……!?」
翔太自身も驚いた。
昨夜、訓練場で起きたのと同じ現象だ。
──ガシャン……
ゴーレムが崩れ落ちる。
試験官が目を見開いていた。
「……今の光は……」
翔太は首を振った。
「すみません、自分でもよくわからなくて……」
試験官はしばらくゴーレムの残骸を見つめていた。
「……普通、魔力は他者の体内や物質の内部にはあんなふうに入り込まない。
互いの魔力が反発し、弾き合うからだ」
試験官は顎に手を当て、思案するように続けた。
「だが今のお前の魔力は、ゴーレムの動力核に "溶け込んだ" ように見えた。
光属性の "調和" の力か……。まさかこんな力だとはな」
翔太は戸惑った。
「調和の力とは一体なんなんですか……?」
「他者と、物質と、あるいは世界と "調和" する力と言われているが、俺もよくは知らない。
──お前自身もまだよく理解していないだろうが、興味深い才能だ」
試験官は小さく息を吐き、告げた。
「……合格だ。判断力も悪くない。精進しろ」
翔太の膝から力が抜けた。
「……やった……!」
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試験終了後、翔太は合格者のリストに自分の名前を見つけた。
「佐藤翔太……Fランク探索者認定……」
リナとレオンが駆け寄ってきた。
「翔太! おめでとう!」
「よくやった」
翔太は二人に頭を下げた。
「ありがとうございます……リナさん、レオンさんのおかげです……!」
レオンは照れくさそうに視線を逸らした。
「礼を言うのはまだ早い。これからが本番だ」
リナはニッコリ笑った。
「まあまあ、今日くらいは喜ばせてあげなさいよ。
翔太、今夜はお祝いよ!」
「はい……!」
翔太は満面の笑みを浮かべた。
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その夜、三人は食堂で祝杯を上げた。
「Fランク探索者、佐藤翔太に乾杯!」
「乾杯!」
翔太はグラスを掲げながら、これまでの一週間を振り返った。
異世界に来て、右も左もわからなかった。
魔法なんて使えなかった。
でも──
(レオンさんとリナさんがいてくれたから、ここまで来れた)
翔太は二人の顔を見た。
「本当に……ありがとうございます」
レオンは肩をすくめた。
「礼はいらん。これからが本当の戦いだ。
ダンジョン探索、モンスターとの戦い……お前はまだ何も経験していない」
リナが付け加えた。
「でも大丈夫。私たちがついてるわ。
一緒に頑張りましょう」
翔太はうなずいた。
「はい。よろしくお願いします」
翔太の新たな冒険が、今始まろうとしていた。




