第 4 話 ──訓練開始
翌朝、翔太は探索者組合の訓練場に立っていた。
レオンは腕を組んで見下ろしている。
「まずはマナの基礎から教える。
お前、マナってのが何かわかるか?」
翔太は首を傾げた。
「えっと……魔法に使うエネルギー……みたいなもの?」
「半分正解だ」
レオンは周囲の空気を指差した。
「マナは大気中にも存在している。
それを体内の "コア" とか "丹田" とか呼んでるとこに取り込んで溜め込む。
これがまず第一段階だ」
翔太はうなずいた。
「じゃあ、魔法を使うにはそのマナを放出すればいいってこと?」
「違う」
レオンは首を振った。
「マナをそのまま放出しても、ただの光が出るだけだ。
魔法を使うには、マナをコアで "練り上げて" 魔力に変換する必要がある」
「魔力……?」
「マナが原料だとすれば、魔力は加工された燃料だな。
魔力を術式に通して初めて、魔法が発動する」
翔太は目を丸くした。
「な、なんか複雑ですね……」
レオンは肩をすくめた。
「最初から全部理解しようとするな。
今日やることは一つだけだ」
「一つ?」
「魔力放出。まずはこれを完璧にしろ」
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リナが横から助け舟を出した。
「翔太、マナは見えてるわよね?」
翔太はうなずいた。
街を歩いたときから、空気中に漂う淡い光の粒は見えていた。
「見えるのと操れるのは別物なの。
まずは目を閉じて、深呼吸して。
周囲のマナを "感じる" ことに集中してみて」
翔太は言われた通りに目を閉じた。
(見るんじゃなくて、感じる……)
目を開けているときは、マナは視覚として捉えていた。
だが目を閉じると、最初は何も感じなかった。
ただの暗闇と、自分の呼吸音だけ。
「焦らないで。ゆっくりでいいから」
リナの声に導かれ、翔太は意識を集中させた。
──すると。
(……あ、これか……)
視覚ではなく、肌で感じる。
空気の中に、微かな "流れ" のようなものがあった。
見えていたものと同じマナを、今度は感覚として捉えている。
「感じた? それが "操る" ための第一歩よ」
翔太は目を開けた。
「なるほど……見えるだけじゃダメなんですね」
レオンがうなずいた。
「そういうことだ。マナを見れる奴は稀にいる。
だが操れなきゃ意味がない。
次はそれを体内に取り込め。深く息を吸って、腹の奥に溜め込むイメージだ」
翔太は再び目を閉じ、深呼吸した。
吸い込んだ空気と一緒に、マナが体内に流れ込んでくる──
今度は、その感覚がはっきりとわかった。
「……できた?」
「ああ。さっきより良い。続けろ」
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一時間後。
翔太は手のひらを前に突き出していた。
「魔力放出……魔力放出……」
──沈黙。
何も起きない。
「くっ……」
レオンは腕を組んで見ていた。
「力み過ぎだ。マナは力で押し出すもんじゃない」
「じゃあ、どうすれば……」
「イメージしろ。
体内に溜まったマナが、自然と手のひらから溢れ出すイメージだ」
翔太は深呼吸した。
(自然と溢れ出す……)
彼は今度は力を抜き、ただマナが流れるイメージだけを思い描いた。
──ふわり。
「……!」
手のひらから、微かな光が漏れた。
ほんの一瞬だったが、確かに何かが出た。
「見たか?」
リナが興奮して叫んだ。
「翔太! 今、出たわよ!」
翔太は自分の手を見つめた。
「……本当だ」
レオンはニッと笑った。
「第一歩だ。まだまだ先は長いが──お前には見込みがある」
翔太の胸に、小さな希望が芽生えた。
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その後も翔太はひたすら魔力放出の練習を続けた。
夕方になる頃には、手のひらから安定して淡い光を出せるようになっていた。
レオンが翔太の手のひらを見つめて、目を細めた。
「……ほう」
「どうかしましたか?」
「お前の魔力、白っぽいな」
翔太は自分の手のひらに灯る光を見た。
確かに、淡い白色に輝いている。
「これって……何か意味があるんですか?」
レオンは自分の手のひらを上に向けた。
そこに灯った光は、翔太のものとは違い、赤みを帯びていた。
「魔力の色は、そいつの属性を表す。
俺は "炎" だから赤い。
属性は八つある。炎、水、氷、雷、風、土、光、闇だ」
「じゃあ、白っていうのは……」
リナが口を挟んだ。
「白は "光" 属性よ。かなり珍しいわ」
「光……?」
レオンがうなずいた。
「光属性は希少だ。
"調和と創造" の力を司ると言われている。
周りに使える奴がいないから、細かいことは教えてやれないけどな。」
翔太は自分の手を見つめた。
(光属性……僕が……)
「まあ、今のお前じゃ属性を活かすどころか、魔力放出すらまともにできてねぇ。
属性のことは後回しだ。まずは基礎を固めろ」
「は、はい……」
「今日はここまでだ」
レオンが告げた。
「明日からは体力トレーニングも加える。
魔法だけじゃ、ダンジョンでは生き残れないからな」
翔太はうなずいた。
「はい。よろしくお願いします」
リナが笑顔で言った。
「お疲れ様。今日の夕飯は私がおごるわね」
「え、いいんですか?」
「初日頑張ったご褒美よ。ついてきなさい」
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街の食堂で、翔太はリナと向かい合って座っていた。
「レオンさんって、怖そうに見えて優しいんですね」
リナは苦笑した。
「まあね。あいつ、口は悪いけど面倒見はいいのよ。
実は昔──」
リナは言葉を切った。
「……いや、なんでもない。いずれ話すわ」
翔太は首を傾げたが、それ以上は聞かなかった。
「ところで翔太。さっきの光属性の話だけど……」
「はい」
「光属性の探索者は本当に珍しいの。
百人に一人もいないわ」
翔太は驚いた。
「そんなに珍しいんですか?」
「ええ。だから──」
リナは少し真剣な表情になった。
「あまり人前で見せびらかさない方がいいかもね。
珍しい属性は、良くも悪くも目立つから」
翔太はうなずいた。
「分かりました。気をつけます」
リナは表情を和らげた。
「まあ、今はまだ魔力放出がやっとのレベルだから心配いらないけどね。
──さ、明日からの訓練、覚悟しときなさいよ?」
「え?」
「レオンの特訓は厳しいわよ。
泣いても許してもらえないから」
翔太は顔を青くした。
「……がんばります」
リナは笑った。
「その意気よ。じゃ、食べましょう!」
翔太は料理を口に運びながら、明日からの訓練に思いを馳せた。
(光属性か……。僕にどんな力があるのか、まだ分からない。
でも──強くなる。絶対に)
夜空には、二つの月が静かに輝いていた。




