16 品子を探せ
昨年十二月十日・小石川ホールでの旗揚げ戦の大好評を受けて、第二回大会の出場希望者がどっと膨れ上がり、その人選にうれしい悲鳴を上げていた。
辰波馨、清水一徹、鷲口大士、ゴア内藤、オリエンタル・クマドリ、バク周南、ミスター源龍、ガチ菅原、エルボー光沢、クラッシュ刀田、チーター・マスク、チータ・ハンター大林、キラー・モンゴリアン、ジーニアス・武闘、そして贋作レスラーこと小太郎。
外国からもレジェンドレスラーたちが名乗りを挙げてくれた。
ホリー・ヴァンクジュニアとペリー・ヴァンクのザ・ヴァンクス、ボック・ニックウィンクル、キール・ザ・ブスチャー、スタンガン・ラリアット、マルタ・ボーガン、ビル・モスカラス、ケビー・フォン・ケネディなど、俺がアメリカで闘ってきた超一流のレスラーたちの名前もあった。
情熱的なファイトスタイルで、日本でもファンクラブが結成された大人気のペリー・ヴァンクなどは、国際電話で何度も「贋作リキ・ドーゼンと闘わせろ」と片言の日本語でしつこくまくし立ててきて、俺はその対応にうんざりだった。
その頃、ストロングジャパンの連中はスプリングファイトシリーズのために東北巡業に出ていた。合宿所には匠の贋作レスラーである小太郎と練習生数人が留守番として居残っていた。
夜になると、いつものように小太郎が事務所のドアを開けて顔を見せた。
俺は焼酎のコップを大きく掲げて小太郎を迎え入れる。今日も小太郎と酒を酌み交わしながらプロレス談議に浸れるかと思うと、うれしくてたまらなかった。缶ビール、焼酎ロック、角瓶とやっていくうちに、事務所の振り子時計がボーン、ボーンと零時の時を鳴らした。小太郎がウイスキーの水割りを一気に飲み干してから言った。
「十二時か。明日もあるから、この辺で終わるね。でも、品子さんのことだけど……」
妹の名前がいきなり出てきたので、俺はびっくりして焼酎のコップをひっくり返した。
「妹さんは、ゼアミこそが憧れのレスラーなんだよね。だったら、ゼアミのほうから妹さんに問いかけてみればいいんじゃないのかな」
「ゼアミから問いかける?」
「うん。例えば、品子さん、いや、般若ヒンコに向かって、ゼアミが闘いたいっていう気持ちを発信するとか」
「ゼアミが、女子レスラーのヒンコと対戦したいと」
「打つ手がないんだったら、大胆なことをしないと道は開けないと思うよ。『ウイークリープロレス』やスポーツ紙に、対戦求むみたいな呼びかけでアピールするんだよ。ダメ元でいいじゃん。そこに般若ヒンコが食いついてくれれば儲けもんだよ」
「ううん……だが俺は、実の妹と、苦労をかけた妹と、ゼアミとして闘うことなど到底できそうにない」
「だったら、おれがやるよ」
「えっ?」
「おれが、ゼアミとして般若ヒンコと闘うから安心しな」
贋作レスラーの小太郎は頼もしかった。しかし、妹をだましてまでもリングに立たせることが本当に許されるやり方なのか?
とにかく、半信半疑のまま、俺は小太郎の力強いプッシュで踏み出すことにした。何はともあれ、品子に会わなければどうにもならないことなんだ。
数週間後の各スポーツ紙のプロレス欄と『ウイークリープロレス』の目次ページの片隅に「日本マットに戻ったPWMS・匠のゼアミが、行方不明の般若ヒンコとの能面対決を望む」という記事が載った。唐突で謎めいた対戦要求だったが、憶測が憶測を呼んで、たちまち大きな話題となった。小太郎の目論見通り、インパクトは十分だった。